第8話「勉強しませんか?」

 今日も昼休みになった。

 テストは終わったが、授業は普通にあるもので……まぁ当たり前といえば当たり前だ。

 そして、俺はやっぱり授業の内容がよく分からない。うーん、これはまずいな、真面目に授業は受けていても、こんなことでは次のテストも悲惨な結果になってしまう。それだけは避けないと……。


「……はぁ」


 またため息が口から出てしまった。それは仕方ない。とりあえずお弁当を食べるかと思って、鞄からお弁当を取り出していると、


「――何か悩み事ですか?」


 と、隣から声が聞こえた。見ると天乃原さんが真面目な顔でこちらを見ていた。


「何か悩み事ですか?」


 う、うーん、たしかに悩み事といえばそうなのだが、やっぱり分からないと言うのが恥ずかしかった。


「あ、まぁ、ちょっとね……」

「前にも言いましたが、抱え込むのはよくないですよ」

「そ、そっか、そうなのかな」

「はい、そうです」


 真面目な顔で言う天乃原さん。なんだか心を読まれているような気がした。


「……あ、今日も一緒に食べませんか?」


 天乃原さんはそう言って、席を俺の方に近づけてきた……って、お、俺まだ何も言っていないんだけどな……でも、断る理由もないのでまぁいいかと思った。

 天乃原さんは今日も小さめの赤いお弁当箱だった。ふたを開けて、「いただきます」と言って食べ始めた。お、俺も食べないと……。


「……悩みがあるなら、話してほしいです」


 ぽつりと言う天乃原さんだった。そっか、トップオブトップの天乃原さんなら何かいい手があるかもしれない。そう思った俺は、


「あ、それが……授業は真面目に受けてるんだけど、内容がいまいち理解できなくて……こんなこと言うのも恥ずかしいんだけど……」


 と、言った。


「そうでしたか、それはよくないですね。赤坂さんが真面目に授業を受けているのは、見ているので分かります」

「そうなんだよね……え? 見ている……?」

「……あ、なんでもないです」


 天乃原さんが何かはぐらかした。お、俺、見られてるのかな……まぁ隣の席だから見えるんだけど、なんだか恥ずかしかった。


「赤坂さんは、苦手な科目とかありますか?」

「うーん、この前のテストは全体的にパッとしなかったんだけど、数学と物理と英語が赤点スレスレだったなぁ……って、恥ずかしいね……」

「……なるほど、特に理系科目が苦手のようですね」


 冷静に分析されるのもちょっと恥ずかしいものがあった。


「そうなんだよね……なんかコツをつかめないというか、分からないというか……」

「そうですか、分からないものをそのままにしておくのはよくないですね……あ、そうだ」


 水筒のお茶を飲んでいた天乃原さんが、こちらを見て、


「よかったら、今日の放課後、学校に残って勉強しませんか? 私なら教えることができます」


 と、真面目な顔で言った。


 …………。


 ……な、なるほど、天乃原さんに教えてもらうということか。トップオブトップの天乃原さんなら、なんでも教えてくれそうな気がした。いや、トップオブトップの意味はいまいち分からないんだけど。


「あ、なるほど……」

「はい。あ、赤坂さんに放課後の予定がなければですが」

「あ、今日は何もないよ」

「じゃあ決まりですね、残って勉強していきましょう。なんでも訊いてください」


 そう言った天乃原さんが、腕を曲げて力こぶを作るようなポーズを見せた。やっぱり天乃原さんは勉強に関しては自信があるんだな……って、なんだかそのポーズも可愛らしく見えた。


「あ、ありがとう、でも天乃原さんは何か予定があったのでは……?」

「大丈夫です、今日は何もありませんから。ご心配無用です」

「そ、そっか、じゃあ……よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 天乃原さんがご飯を食べる。口元が少し笑っているような気がしたが、気のせいだろうか。


「……それはいいのですが、今日は赤坂さんのお弁当、卵焼きが入っていませんね……残念です」

「あ、うん、今日は入ってないね……え? 残念って?」

「また交換したかったのです。赤坂家の卵焼きも、美味しいです。あ、ウィンナーは一緒ですね、でもウィンナーだとそんなに味は変わらないか……」


 俺のお弁当を見ながら、考え込むような仕草を見せる天乃原さん。そ、そんなに交換したいのかな、俺は恥ずかしくなって顔が熱くなってきた。


 と、とりあえず、天乃原さんに教えてもらうことで、俺も勉強ができるようになりたいなと思った。

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