那原久美(16)

なんだか見られている気がする。


この交差点に入ってから、ずっと誰かがウチの方を見ている気がする。気のせいとはとても思えない。


あたりを見回す。ウチ以外、誰もいない。そもそも、登下校の時間以外は人通りなんてないのだ。


ウチは、高校をサボって映画館に向かっている。こんな昼間に、ここを通る人はいない。


サボることに罪悪感はない。学校で無為におしゃべりして過ごすくらいなら、ウチは時間を有意義に使いたい。ちゃんと家で勉強はしてるし、授業日数だって足りてる。


だから、人目を気にする理由はない。


なのに、なんだろうこの視線。


ふと、地面に目を落とす。何かが、コロコロ転がってきた。あ、なるほど。これが視線の正体か。


地面には、血のついた人間の目が落ちていた。


うわ、と言おうとした次の瞬間、ウチの目玉もコロリと落ちる。


あ、何も見えない。


とりあえず歩いてみたら何かに弾かれて、体が浮いて、落ちた。


【付記】

6月21日、眼球のない遺体で発見。



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