神原陽平(56)

死ななくてはならない。


顔のつぶれた子供が、私に死んで欲しそうにしているからだ。だから、死ななくてはならないのだ。


別に、この子は私の知り合いでもなんでもない。ふと、気付いてしまっただけだ。


幼い時分から、よく分からないものばかりよく見ていた。幽霊とか、妖怪とか、そんなものなんだろう。


そのせいか社会にどうもうまく馴染めず、この歳になってもふらふらしている。


もう、潮時だろう。


さぁ、死のう。さっさと死のう。ちょうどここは交差点だから、飛び込んでしまおう。


顔の潰れた子供が、私を見つめている。うん、今死ぬよ。


私は法定速度を無視して飛ばすセダンに目をつけ、思い切り飛び込んだ。


視界と時間が吹き飛ぶ気がして、気づけば頭がじんじんと熱い。


どうだい、坊や。死んだよ。


子供は笑って見せる私を「よし、死んだな」とばかりに指差し確認すると、そのままその場から消えた。


ああ、本当になんの意味もない人生だったんだなぁ。ははは。


【付記】

6月26日、笑いながら飛び込み自殺。

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