44話➤私なりの決意表明
ブレーブの話を聞き、私は何も言えないでいた。
これが私と彼らの生きてきた世界の違い……。
力でねじ伏せるのが当たり前の世界……、いかに私が平和な世界で生きて来たのか思い知らされているようだった。
「……あの……」
「無理に何かを言わなくてもいいんだよ。……これは私が招いた結果なんだから」
「……だからって……こんな事っ……」
気づくと隣でゼプスが泣いていた。大粒の涙を零しながら泣いている姿があった。
「……ゼプス」
「ソアレとあんたが私たちの知らないところで戦っていた……。なのに……ソアレは何も言ってくれなかった!助けを求めず、1人でなんとかしようとしてた。ブレーブも、ソアレも……王都で声を上げていたのにっ!誰も聞こうとしなかった。私の方こそ……無力だ」
この世界に突如として現れた魔導師によって世界が狂わされ、その結果ばらばらに引き裂かれてしまったことを知り、私は胸が苦しくなった。
――王様は……何がしたいんだろう。私が初めて会った時には優しそうな印象しか受けなかったけど、こうして色んな人たちの話を聞いていると……悪評しかないじゃん。……王様は国の人たちを守る人ではないの?
考えたところで答えは出ない。
異世界から来た者の意見など聞くはずもない、そう諦めていた……。
でも、こうして声を上げていた人たちの存在が大きくなれば、何か変わるかもしれない……。
「ゼプス……私は君に会えただけでも嬉しい。この世にもう思い残すことはない」
「……っ!何を言う!モモの作った料理を食べたんたら長生きするに決まってるだろ!」
「……まさか……噂で出回っていた……女神の加護か!?」
「女神の加護はないと思います……。ただ……私には治癒能力があるみたいでして……」
「……道理で身体が軽いわけだ」
「という訳だ。せいぜい長生きしろ」
――言い方は冷たいけど、きっと心の奥では嬉しいって気持ちでいっぱいなんじゃないかな。
張り詰めていた空気が穏やかになったところで、私はブレーブに告げた。
「ブレーブさん。感動の再会ついでに、もうひとつよろしいでしょうか」
「……なんだろう。これ以上驚く事って……」
私が言わんとしていることがわかったのか、ゼプスも腕で涙を拭い、後ろを振り返りその名を呼んだ。
「キュプレ」
「……っ」
「こっちに来い」
見るからに来たくなさそうな雰囲気を全身で醸し出していたキュプレ……。
トボトボと私たちの方へと歩いて来る足取りは重そうだった。
「その子か……ゼプスとお嬢さんの子……か?」
「……っ!違いますよ!」
「ブレーブ……歳のせいで目がやられたか?」
「……」
まじまじと見られ、キュプレは居たたまれなさそうにしていた。そんな彼女に私が手を差し伸べると安心したのか、ぎゅっと握り、そのまま私の後ろに隠れてしまった。
「この子、ブレーブさんとソアレさんの間にできた子ですよ」
「そうか……ソアレと私の……って……ええぇっ!?そんなはずはない!彼女からは何も聞かされていないぞ!」
「日記を読むか?全てはそこに記されている」
「……日記」
「ソアレが記した日記には、
「ソアレと……私の……っゔう……」
――今日はよく誰かの泣き姿を見るなぁ……。
私がブレーブの姿を見てほっと安心していると、握る手に力が込められたことに気がついた。
「キュプレ……どうかしたの?」
彼女と目線を合わせるように屈み顔を覗き込むと、今にも泣きそうな表情で答えた。
「今更僕のお父さんだと言われても……僕にはわからない!……僕の居場所はモモナたちの隣……なんだよね?」
「キュプレ……!」
――もしかして離れて暮らすことになると思ってるのかな……?
「約束したじゃない!ずっと一緒にいる、って」
私は思わず彼女を力いっぱいに抱きしめていた。
「……キュプレか……良い名だな。それに……ソアレの面影もある……。彼女のように強く美しく育って欲しいな……ソアレの意志を継ぐ者がいるだけでこの国はまだ変われる!まだまだ長生きしないとな!」
「ブレーブ、お主行く当てが無いのなら……私の屋敷で共に住まないか?……と言っても、ソアレが住んでいた屋敷を譲り受けただけなんだがな」
その場にいた全員が驚いていたに違いない。
――感動の再会からの一緒に暮らす……!?話の展開早くないですか!?
「なんだ……モモならそう言うかと思っていたんだが」
私を見下ろすゼプスの頬はほんのり赤みを帯び、照れくさそうにしていた。
――本当は一緒に住みたい、住めたらいいって思ってたのは……ゼプスの方なんじゃないかな。
なんてことは口に出さずことはせず、私はゼプスに微笑み返した。
「その……私が一緒に住んでも良いのか?……ほかの人たちは……」
「大丈夫だ」
「ちょっとゼプス~、何勝手に決めちゃってるのよ!」
「あの……素敵なレディは?」
「……クレジョスの妹だ」
「なんと!……クレジョスに妹君がいたとはっ」
「……訳アリだがな」
「余計なことは言わないでいただけますぅ?」
「……はい」
なんだかんだこうしてまた屋敷に人が増えると思うと、複雑な気持ちはあるものの嬉しい気持ちも相まっていた。
「改めてよろしく頼む。私の名はブレーブだ」
「……まずはその身なりを整えませんとね」
「ワイズ、この辺でとびっきりの湯屋はどこだ」
「ちょ……言い方」
店内に響く笑い声。
私はその光景を見て、穏やかな日常がこの先も続いて欲しいと願うばかりだった。
「モモナ……不安?」
「ん~……。それもあるけど、今は楽しみの方が勝ってるかな。こうして街に出向いたことで分かり合えることもあったし、何よりこの世界をもっと知りたい、そう思えるようになったよ」
これから待ち受ける運命は一体どのようなものなのか私には想像すらできない――。
そんな中でも私ができることを探し、役に立ちたいと思うようになったのは間違いなくゼプスを始め、多くの人たちと関わることができたからだ――。
私がこの世界で生きると決めたからには、きちんと現実を受け止めできることをする――。
私は異世界ナースとして生きていこう、そう静かに決意した。
*****~
王都ガルベン、とある一室に一通の送り主不明の手紙が送り届けられた。
『ネグルの街に治癒師が現れた』
内容を確認した後、男は手紙を暖炉へと放り投げた。
「治癒師だとっ……。ミハイルめ……。黙っておったな」
歯を食いしばり、怒りを露わにする男はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「……この私に逆らうとどうなるか教えてやらねばな」
*****~
第一部 <完>
『異世界ナ~ス』を全45話を読んで下さりありがとうございます。
これにて第一部は完結となります。
第二部はどのような展開が待っているのか、百菜たちの運命はどう進んでいくのか、少しでも気になるよ!という方がおられましたら作品のフォローと☆での評価をお願いいたします。
読者の皆様、これからも応援のほどよろしくお願いいたします。
(♡ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
虎娘
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