42話➤ひとりの男性
「モモナさんの夢を叶えるためのにも、私たちができること……まずは、空き家探しだな!」
私が思わずポロリと溢した夢を実現させようと、街の人たちは張り切っていた。
「あの……そんなにすぐじゃなくても……」
「何言ってんだい!こういうのは早く行動しないと」
「そんな素敵な場所、早く完成させたいじゃない」
――この人たち……私の治癒能力を早く使えるようにしたいだけなのでは……。
そんな事を考えながらも、こうしてひとつの目標達成に向けて多くの人たちが協力し合う姿は勇ましく見えた。
「……ワイズ、私たちは何をすればよい?」
ゼプスは少し申し訳なさそうな表情でワイズに尋ねた。
「……特には……ないかな」
「えっ?」
「この街の事は私たちの方が詳しい。だから……そうだな……。何か手伝って欲しいと思うことができたら言うよ。それでどうだ?」
「……それで良いと言うなら……」
「なら決まりだ!」
そう言うと、ワイズは厨房から街の人たちが集まるテーブルへ向かって駆け出して行った。
「……とりあえず、片付けようかな」
私は食べ終わった食器を片すべく立ち上がり、カウンターに並んでいた食べ終わりのお皿をまとめて運んだ。
「あたしも手伝いますわ」
「ありがとう」
――相変わらず、ピッカピカな厨房だこと……。飲食店って結構油汚れとかが目立つはずなのに、ワイズさんの店はいつ見ても綺麗……。料理も美味しい、綺麗好き……。私も見習わないとなぁ……。
テーブルの中心で大きな口を開けて笑う彼を見ながら、カリアーナと私は食器をいつも以上に丁寧に洗い、水滴が残らないように拭き上げた。
「……ふぅ」
片付けが終わる頃、テーブルでの話し合いも目処がついたようで、ワイズが笑顔を向けながら近づいて来た。
「モモナさ~ん。……ん?もしかしてもしかすると……片してくれたのか!?」
「はい。ちょうど皆食べ終わったので……」
「置いといてくれれば片したのに……。ここは一応店で、君らはお客だろ」
「……その客をほったらかしていたのはどこのどいつだ?」
腕を組みながら鋭い指摘をするゼプスに、ワイズも私たちも苦笑いした。
「まぁまぁ、そんな堅苦しいことはさておき……モモナさんの夢実現に向け、こうして計画ができつつあるんだからさ、そんな怖い顔しないで欲しいな」
「……はぁ」
ワイズに背中をバシバシと叩かれるゼプス……。
ワイズの誰とでも仲良くなれる性格は、ほんの少しだけ私にも似ているような気がした。
「ワイズさん、ちょっと気になることがあるんですけど……」
「おっ!どうした?」
「あそこのお客様……、水しか飲まれてないようですが……」
私は店の片隅に置かれている2人掛けテーブルで、微動だにしない男性を見ながら尋ねた。
「あぁ……あの人か……最近よくこの店に来てくれんだが、頼むのは値の安いものばかりなんだ。今日は……何も頼んでないみたいだな」
「何か気になるのか?」
ゼプスに問われ、私は少し考えた後に答えた。
「あの人……痩せすぎだと思う」
頬は痩せこけ目も虚ろ、髪も手入れをしていないかのようにボサついており、見るからにホームレス感が否めなかった。
「確かに……表情も見えないな」
「そうだ!ワイズさん!」
「……はいよ」
「まだモモナは何も言ってないのにわかるの!?」
キュプレがその場で身を乗り出し、ワイズに尊敬の眼差しを向けているようだった。
「あぁ!料理をする人間が言いそうなことだろうよ。……何か作って差し上げて~お代は私が払うから、だろ」
「……それ、私の真似ですか?……というかそれ、私が言いたいことじゃありませんから」
「……なっ!」
「私が言いたかったのは、厨房をお借りしたい、あと私が持ってきた野菜を少しだけ使わせて欲しい、が正解でした」
思い描いていた答えを違うとわかったワイズは、肩を落としがっかりしていた。その姿を見ていたキュプレも「なんだ~」と言いながら元通り椅子へ腰掛けた。
「モモナさん自ら……料理を!?」
「はい。栄養をバランスよく摂れるようにカレーを作ります」
「僕、モモナのカレー大好き♡」
「あたしも好き」
「……私も」
「みんなありがとう。……という訳なので、使わせていただいてもよろしいですか?」
「……どうぞご自由に」
厨房に置かれたカゴからいくつか野菜を取り出し、水洗いをした後細かく切り始めた。色んな所から視線を感じていたが、私は気にすることなく調理を進めた。
「手際いいな。うちで働いて欲しいくらいだ」
「……お断りします」
「釣れないねぇ」
フライパンで野菜を炒め、いくつかスパイスを入れ味を調整、最後にハチミツを投入し完成。
「よし」
「おいしそうな匂い……なんだか僕、お腹減ってきちゃった」
「少しだけなら食べてもいいよ」
「やったぁ♡」
「あたしも!」
瘦せ細った男性の分を先によそい、あとは4人で仲良く分けて、と言い残し私は配膳に向かった。
「よければお召し上がりください」
目の前に出された料理を見て驚いた男性は私の方へ顔を向けた。
――ん?この人の目……。
「……っ!……いい、のでしょうか」
「はい。先ほどからお水しか飲まれておらず、少し心配になりまして……。私のお節介です。遠慮なくお召し上がりください。お代は結構ですので」
「……ですが」
「このカレーに使用している野菜、私と向こうにいる彼らで育てた野菜なんです。栄養満点ですよ!」
「……お嬢さん……ありがとう……ありがとう……いただきます」
丁寧に手を合わせる姿からは、育ちの良さが見えたような気がした。
「……っゔ……っゔ……」
一口食べる度に、彼の目からは大粒の涙が零れていた。
「……お口に合いましたか?」
「……はい。……とても……とても美味しいです……っゔ」
「それは良かったです。食べ終わられた頃にまた来ますね」
ゆっくりと食事ができるように私は厨房へ踵を返そうとした。
「……あのっ。……あそこにいる、背の高い人……もしかして……ゼプスくんかな」
「……えっ?」
――一体この人……何者っ!?
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