40話➤街の人気者
ネグルの街で騒動があって早数日――。
私たちはしばらくの間、屋敷の敷地から出ない生活をしていた。
「この量……食べきれないからワイズさんにでもあげようかな……」
リビングで朝に収穫した野菜を前に私が呟くと、カリアーナは目をキラキラさせながら話し掛けてきた。
「ネグルへ行きますの?」
「野菜は新鮮なうちに食べた方がいいからね。久々に行こっか」
「……お裾分けではなく、買い取っていただく、っていうのはどうですの?」
「……えっ!?」
「カリアーナ!良い考えだ!」
「確かにそれ名案!」
聞き耳を立てていたのか、いつのまにかゼプスとキュプレが嬉しそうな表情で言った。
「わざわざタダでやらんでも、どうせなら売りつけたらいい」
「けど……」
「そうですわ!売ったお金で買い物をする!これぞまさにウィンウィン、ですわね!」
「ウィンウィン♪」
――こういう時は息ピッタリなんだから……。でもまぁ……2人の言う事は一理あるかな。使うばっかりだとそのうち底をつきそうだし……。
こうして私たちは収穫したばかりの野菜を持ってネグルの街へと向かうことにした。
街へ到着し、ワイズの店に向かって歩いていると――。
「おっ!モモナさんじゃないか!ちょっと聞きたいことがあってな」
見知らぬおじさんに捕まり話を聞く羽目に……。
「最近、腰が痛くてな……どうしたもんかと悩んでおるんだ。何かアドバイスはねぇか?あんた看護師さんなんだろぅ」
「はぁ……。痛みがある時には無理に動かないようにするのと、お風呂で温まると血行が良くなって、痛みが和らぐ場合があります」
「そうかそうか!ありがとうな!」
「……一体なんですの?」
「私にもさっぱり……」
何が何だかわからいまま歩き進めると、私を見つけた街の人たちが次々に身体の不調に関する相談を持ち掛けて来た。
――なんでこんなことをする羽目に……!?
ワイズの店へ到着するまでに私は心なしか疲れ切っていた。
「……こんにちは。ワイズさん」
店のドアを開け、中に入ると――。
「モモナさん!待っていたよ!」
私は目の前に広がる光景を見て唖然とした。
「あの方が看護師のモモナさん?ちょっとお話したいことが……」
「俺も治癒師のあんたに話があるんだ!」
「私も相談がありますの」
「終わったら儂の番じゃ」
店内は多くの客で埋め尽くされ満席状態。一斉に私たちの方を見る彼らの目的は私だった……。混乱する私を他所に、次々に言葉をかけてくる人たちを落ち着かせようとするも敵わず……。
――なんでこんなことになってるの!?
「あの……落ち着いてください!」
渾身の力で大きな声を上げ、ようやく店内に静けさが戻った。
「……ワイズさん。貴方にお話しがありますので、一旦外に来てもらえますか」
「お、おぅ」
ワイズを連れ店の外へ出た途端、私よりもカリアーナの方が怒りを露わにしていた。
「ワイズさん!一体これはどういう事ですの!」
「ん?……何のことだろうか……」
「とぼけても無駄ですわ!この街に来た途端、モモナは街の人たちに捕まってばっかり!しかも皆身体の調子が悪いだの、生活で気をつけることはなんだの……。皆さん口を揃えてモモナのことを看護師とか治癒師とか言ってますけど、全部貴方が広めたのでしょう!」
「……ちょっと落ち着いて……。確かにこの間の事を店に来てくれる馴染み客には言った。だが、それがここまで街全体に広がるなんて思いもしなかったんだ」
「とんだ調子者だな」
ゼプスとカリアーナに責められ、しょんぼりするワイズ。そんな彼を見ているとなんだか居たたまれなくなり、私は優しく声をかけた。
「ワイズさん。人の口に戸は立てられないので、今回のことは仕方ないと思います」
「モモナさん!」
「ですが!私はこの世界で治癒師として生きていくつもりはありませんし、ましてや看護師と言っても前の世界で持っていた資格です。この世界で通用するなんて思っておりませんので、あまり皆さんに期待を抱かせるような事は言わないで下さい!」
「……はい、すみませんでした」
「モモを怒らせると怖いぞ」
「ゼプス、何か言いました?」
「いえ、……何も」
看護資格が通用するのは前にいた世界だけだ。知識は持ち合わせている分、日常生活上のアドバイスはできる。かといって責任を伴うようなことは極力したくない、というのが私の本音だった。
「お店に来て下さってる人の話は聞きます。ですが、これ以上噂を広めないで下さい」
「わかりました……迷惑かけて……申し訳ない」
「そう思うんだったらもうするな!」
「ということで、これ買い取ってくださいね」
――このタイミングで営業……。カリアーナ恐るべし……。
「ん?この野菜は……」
「屋敷の庭で育てた野菜です。たくさん採れたので……」
「大きさ、鮮度、ともに言う事ないですね!いいでしょう、私の店で買い取らせていただきます!そうと決まれば店に戻りませんと!」
「……調子のいいやつめ」
店に戻ると、私を待ちわびた人たちに取り囲まれ、案の定質問攻めに合った。
順番に話を聞く事、アドバイスはするが責任は持てない事、今後頼りにされても困る事を伝え、それでも良ければ、と条件を付け加えた上で相談会を始めた。感謝の気持ちを込めて何人もの人から
――街の人たちの役に立てるのは嬉しいことなんだけど、本当にこれで良いのかなぁ……。
私は見えない不安に駆られていた。
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