38話➤話し合い

「モモナ殿を、王家治癒師として我が城へ迎え入れたいと思っている」

「お断りします!」


 あまりにも即答だったせいか、一斉に私の方へと視線が集まった。


「モモナ殿っ!」

「私は治癒師ではありません。他をあたってください」

「くっ……ははははは」

「くくくくく」


 ――え?……何?人が真剣に答えてるのに笑うなんて!もう……。


「……ということだ。大人しくお引き取りいただこうか」


 笑顔を向けながら伝えるキュプレだったが、私はその表情が少し苛立っているようにも見えた。

 

「待って下さい!理由をお聞かせ願いたい!」


 カリアーナがぐいぐいとミハイルの背中を押し、店から追い出そうとしているのを、どこか楽しそうみ見つめるゼプスとキュプレ……。


「……あのっ!」


 私は思わず声を出していた。


「少しだけ……、お話しがしたいです」

「モモっ!?」


 どんなときも話し合いは大事だ。

 看護師という職業においても、チームで患者をサポートすることからたくさんの話し合いをしてきた。一方的に意見を押し付けるだけでは何も良くならない……。そう思った私は、話し合いの場を持とうと思った。それも、ミハイルと1対1で……。


「ミハイル殿下と私の2人だけで話し合いを希望します」

「2人……でだと!?」

「どうしてですの?」

「僕も一緒に聞く!」


 ――あぁ……もう!ミハイル殿下を敵視しているのがありありとわかる状況下で、落ち着いて話なんてできないでしょうが!


「聞くのは勝手だけど、口出しはしないと約束できる?」

「……約束する」

「……するわ」

「……」


 1人だけ返事がなかった。


「キュプレは?」

「むぅ……」


 両頬を膨らませ、あからさまに不機嫌な態度をとるキュプレに対し、私は目を合わせたまま同じように尋ねた。


「……話し合い、大人しくできる?」

「……できる。……けど、モモナに何かしようもんなら許さないからな!」

「言い方!」

「ふん」


 3人の承諾を受け、私はミハイルとの話し合いに臨んだ。

 ミハイルの前に私が座り、その両隣にはゼプス、カリアーナ、そして私の膝の上にはキュプレが座った。


 ――話し合い……というより、面接っぽい。


 ワイズが気を利かし、それぞれに飲み物を準備してくれた。一口飲み終えたところで、私はミハイルの目を見て尋ねた。


「ミハイル殿下、私はこの国の内情を知りません。ここにいるゼプスからは、人とドラゴンが古来より戦っていると聞きました。……その戦いに終止符を打つ、というお考えはないのですか」

「……私個人としてはこの戦いを終わらせたい、そう強く思っています。ですが、私の力だけでは何もできない、これもまた事実です。現国王である父に幾度となく和平するべきたと申し入れてきました。そんな私の言葉に、父は一切耳を傾けてはくれませんでした」

「息子の言葉を聞かない……か」


 私にも同じような経験があった。

 例え家族であろうと、聞き入れてもらえないこともあると――。


「モモナ殿、私の考えを聞いて下さいますか」

「……どうぞ」


 ミハイルは一度深呼吸をした後、ゆったりとした口調で話し始めた。

 王家治癒師として私を迎え入れる理由は2点。まず1点目としてミハイルが上げたのは、私の身の安全が保障されること。国王に命を狙われていることを指摘すると、ミハイルの防御魔法で守れると即答。何せ、ミハイルの防御魔法は国内一破られない魔法として有名らしい……。

 そして2点目――。私はこの内容を聞いて驚いた。


「モモナ殿には、バラウルと人間の架け橋となっていただきたい」


 ――……。一体何を言っているのかわからない。


 しばらく何も言えずにいると、腕を組んで隣に座るゼプスが口を開いた。


「……いつから気づいていた」


 ――えぇっと……。何に気づいていたの?話が全く見えないんですけど……。


 混乱する私を置いて、今度はミハイルとゼプスが話し始めた。


「広場でお見かけしたときから気づいておりました」

「他の奴らは?」

「部下には知らせてませんし、気づいてもおりません」

「……そこまでわかっているのに何故……何も手出しせんのだ」

「言ったではありませんか。……私はこの無意味な戦いを終わりにしたい。願わくば、昔のように共に助け合いながら日々を送りたい……。ただ、それだけなんです」

 

 私だけが状況を理解できていないのかと思いきや、カリアーナも話の内容に付いていけてない様子だった。


 ――私だけがわかってないのかと思ったけど……カリアーナもか。……ちょっと安心した。


「……ゼプス、どういうこと?」


 ゼプスの袖をクイクイと引き、小声で尋ねてみた。


「……私たちの事をバラウルだと気付いている、ってことだ」

「へぇ……。って、えぇっっ!?」


 ミハイルの方に顔を向けると、ニコっと素敵な王子スマイルを見せた。


「私以外に気づいている者はおりません。これも一種の特異能力ですよ」


 何をどう言えばいいのか、この話し合いをする意味があったのか、これから私たちはどうなるのか……。この世界に来た時と同じように私は混乱していた。


「とりあえず話はわかった。だが、今この場で決められることでもない。故に、一旦解散だ」


 なぜかゼプスが仕切り始めたが、そんなことは気にならないくらい私もこの場から切り上げたかった。


「……話ができただけでも良かったです。モモナ殿、是非前向きにご検討ください」


 話し合いは無事……終了し、ミハイルは外で待つ部下を連れ、城へと引き返していった。

 静まり返る店内。しばらくの間、誰も何も話すことなく、ワイズが厨房で食器を片す音が響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る