37話➤王太子の弁明

 モモナの行方を捜索していた、ある日のこと――。

 私は父への協力をお願いすべく、書斎へ向かっている時だった。城内に見かけない顔を見つけ、私は怪しまれないように気配を消しながらその人物を尾行した。すると、その者が私と同じ目的地である父の書斎へ向かっていることがわかった。辺りを気にしながら怪しい人物は書斎へと入って行った。私は中の様子を探るため、書斎の扉に耳を傾けた……。


「陛下、あの娘のその後なのですが……」

「……生きているとは言わないだろうな」


 私は父の言葉を疑った。

 

 ――どういうことだ……。


「それが……」

「はっきり言わんか!」

「はっ。恐れながら申し上げます。……あの娘は生きております」

「なんだと……ぐっ……ははははは。そうかそうか……生きておるか。ははははは」

「へ、陛下?」

「普通は生きられるわけないだろう。あのアルバストゥルだぞ!龍の巣窟とも言うべきところに人っ子1人で生きられるとは……。運が強いというべきか……。アルヴの地でも良かったのだが、あそこへ飛ばすには、お前たちの魔力が足らなかったから致し方ない」


 アルバストゥルとアルヴ――。


 ――どちらの地も龍が巣くい、人間を餌としていると噂される場所……。そこにか弱き女性を飛ばした……だと……!?それも、あろうことか国を統べる国王自らが命じたのか……。


 私は悔やんだ。

 あの時、私自らがモモナ殿を送りさえすれば……。執事が私に報告した時点ではもう間に合っていなかった。だが、それよりも早くに気づけていれば……と。


 この日を境に、私は自ら出向いてモモナ殿を探すようになった。

 生きている、という事実をこの目で確かめ、できることなら父に代わって謝りたい。許されなくとも、こちらの都合で彼女をこの国へと召喚したのは私たちだ。そのことを謝りたい一心で探していた。そんな矢先……。ある噂がネグルの街中で話題になっていた。


『ここらでは見かけない美人姉妹が、強面な男を引き連れて買い物を楽しんでいる』


 この噂に私は食いついた。

 街中に私直属のスパイを送り込み、真相を確かめるべく奔走していた。だが、一向に情報を得られないまま無情にも時だけが過ぎて行った。後で知ったことだが、この街一丸となり貴殿方の情報を漏らさないようにしていたとか……。まったく恐れ入ったよ。


 そして今日――。

 いつものように街を散策していると、どこからともなく大きな音がした。部下からも報告を受け、騒ぎのあった場所へ駆けつけてみると、丁度モモナ殿がワイズ氏に治癒魔法を施しているところだった。


 ――やはり、モモナ殿には秘めた力があった。


 私はふと疑問に思った。

 私が父へモモナ殿の魔力について尋ねた際には、……と。


 ――まさか……あの時、父はすでに気づいていたのかもしれない。


 


 *****~


「……私の話はこれで終わりだ」


 ミハイルの話を聞き終えた私たち……。国王自らの命で、私がアルバストゥルへと飛ばされたと知っても、正直なところ特に何も思うことはなかった。私がどうこう言ったところで、こうして今はゼプスたちと気ままに生活を送れていたのだから……。


「して、お主らは何を望むのだ」


 真剣な眼差しでミハイルを捉えながらキュプレは尋ねた。


「……望み、ですか……。特に何も考えておりませんでした」

「はぁ?」

「……冗談ですわよね」


 キュプレに続き、カリアーナも目を丸くして聞き返していた。


「私はモモナ殿の無事を確認したかっただけです。……ですが、本心を言いますと、その治癒能力を王家の治癒師に代わって活かしていただきたい……。先の見えない戦いで負傷している兵が数多くいます。その兵たちの傷を癒す者がおらず、我々は困っています」

「……時間が経てば魔力だって回復するだろう。そうなると、お宅の治癒師だってピンピンするじゃないか」

「えぇ……仰る通りです。ですが!……魔力が回復するまでに負傷した者の手当を余儀なくされ、多くの治癒師が魔力を失いました。一度失った魔力を補うためには、女神の加護がなければ取り戻すことができません……。こうして我々で幾度となく話し合いを重ね、最後の願いを込めて召喚の儀を執り行ったところ、モモナ殿を迎えることができたのです」


 何をどう言えばいいのか私にはわからなかった。……わかるはずもない。

 この国……世界が抱えている問題のスケールが私には大きすぎる……。その渦中にいるのは、他でもなく私……。


「ミハイルと申したか……。王家では様々な魔法が使えると思っていたのだが、そちは何故使えないのだ」


 ――キュプレの聞き方……なんか世代を感じるのは私だけ……?


「……私は……もともと魔力を持ち合わせずに生まれた……忌み子なのだ」

「そんな……」

「……なるほどな」


 驚きを隠せない私とは反対に、冷静に話を理解した様子のキュプレ……。

 こうしてみると、キュプレがいくら見た目では幼く見えていても、長年眠りについている間に起きたことでもすんなりと理解できるんだな……、そう関心することしかできなかった。


「ミハイル、話を聞いた上で尋ねるが、……モモナをどうするつもりだ」


 一瞬で空気がピリピリと張りつめた。

 おそらく、私以外のゼプス、カリアーナもそこが一番聞きたかったところなのだろう――。


 「モモナ殿を……」

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