36話➤ドキドキ……一触即発
1人の男性を筆頭に数人……、それも鍛え上げられた体格の持ち主がぞろぞろと店内へと入って来た。
「ミハイル殿下っ!?」
私は思わず声を上げていた。
見覚えのある顔、それは王都ガルベンで少しの間だけ世話になった第一王子、ミハイル・ルマニアの姿だった。
「……モモナ殿、ようやく見つけられました。無事が確認できて良かったです。……して、この方々は?」
ミハイルは私を見た後、隣に座るカリアーナとキュプレ、そしてワイズの隣で仁王立ちしていたゼプスに目を向け尋ねた。
「彼らは、私の家族です」
静まり返る店内――。
――あれ……?言い方間違えた……?いやいや……間違ってないでしょ……。
不安になった私はゼプスの方へと顔を向けた。視線を感じたゼプスは……一瞬、照れくさそうな表情を見せたかと思うとプイッ、と顔を反らした。
「……まさか!……ご結婚され、子どもまで授かっていたということなのですか……。いや……いくらなんでも……。とは言え、人の恋路は様々です……まぁ……俄に信じがたいことではありますが……。何か裏があるのでは……!?」
顎に手を当てながらぶつくさと何かを小声で呟くミハイルに対し、ゼプスが少し不機嫌になりながら言った。
「何用だ」
「……おっと。これは失礼しました。私は王都ガルベン第一王子ミハイル・ルマニアと申します。モモナ殿とは……」
「回りくどい説明はいらない。何用だと聞いている」
「ちょっとゼプス……。目の前にいるのは王太子殿下だよ……」
「ふん。王太子だろうと関係ない。この店の主に許可を取らず、いきなり土足で踏み込んだ挙げ句、要件も言わない……。こいつらの相手をするだけ無駄だ」
ここまでゼプスが怒りを露にしている姿を見るのは初めてだった私たち……、しばらく何も言えずにいた。
「貴様っ!黙って聞いておれば殿下に対して偉そうにっ……!」
「構わん」
「ですがっ!」
「私がいいと言っているだろう。……下がれ」
「はっ……」
再び訪れた沈黙の時間――。
私がゼプスの顔色を窺うも、不機嫌なのは変わりなくどうするべきか悩んでいた。
「……あぁ……、ここは私の店だ。話し合うのは勝手だが、これ以上店を壊すようなら王太子殿下だろうと関係なく追い出す、それでいいな」
「……わかった。……店主、その……部下が手荒な真似をしてすまなかった」
「魔法とやらで直してくれはしないのか」
「魔法……か……。できるものなら直ぐにでも直したいのだが……」
「殿下!」
「あいにく、私は防御魔法しか使えなくてな……」
ゼプスはミハイルの言葉を聞き逃さなかった。
驚いたように目を丸くさせ、ミハイルのことを凝視していた。
「王族が……防御魔法しか使えない……だと」
私には彼らの話が全く理解できずにいた。
魔法が使えるだけでもすごい事だと思っていたが、ミハイルの言葉のどこに驚く要素があったのか……。
「……私とあなた方で、少しだけ話をしませんか。……ここにいる部下は下がらせます」
「殿下お1人だけ残すだなんてできません」
ミハイルの発言に納得がいかないのか、部下の人たちは彼に詰め寄っていた。
「私のことなら大丈夫だ。彼らだって、私に何か危害を加えようとする人たちじゃないだろう」
「……人は見かけで判断してはなりませんわよ」
「ちょっとカリアーナ!」
「ふん」
――どうしてこう皆不機嫌なの?というか、この状況……まさにカオス……。
ミハイルが部下を説得している間、ゼプスは近くのテーブル席へと腰掛け、私に隣へ座るように促した。カリアーナとキュプレは、カウンター席でワイズが気を使って用意してくれたジュースを飲み始めていた。
「待たせてしまってすまない」
「別に……」
「初対面なんだけど、私はものすごく嫌われているみたいだね」
「……馴れ合うつもりは毛頭もない。モモを危険な目に合わせておいて、無事を確認したかっただけではないだろう」
「なかなか手強い……」
ピリピリとした空気がいい加減耐えられなくなった私は、ゼプスとミハイルの間に割って入るように口を開いた。
「ミハイル殿下。私はこの通り息災にしております。予定とは違う場所へと送られましたけど、今となっては何とも思っておりません。ですので、どうぞお引き取り下さい」
「モモナ殿……。私はそれだけの理由で貴女を探していた訳ではありません!」
「……狙いはモモナの力か……」
そう言ったのは、これまでずっと口を閉ざしていたキュプレだった。
「……えっ!?力って……え?……」
「大方、王族の
「ミハイル殿下……そう……なんですか?」
「……、……あぁ、そうだ」
答えにくそうなミハイルを見ていると、彼が嘘を言っているようには見えなかった。
――まさか誰かにつけられていたとは知らなかった……。
「モモナ殿。私はこれまで父……国王の命令は絶対だと思ってきた。……だが、貴女をネグルではない地へと飛ばした魔導師を手配したのが、あろうことか父だと知ったときは耳を疑ったよ」
ミハイルは、自身が知り得たことを話し始めた――。
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