34話➤危機一髪
魔法でワイズに攻撃を仕掛けた魔導師は少し息が上がっているようにも見えたが、私は気にすることなく話を続けた。
「貴殿方の行いは間違っています!」
「何をっ……!ん?なんだ」
何かを言いかけた途端、別の魔導師に声を掛けられその場は一旦静まり返った。何やらヒソヒソと話し込んでいると思いきや、魔導師は驚きの表情から何かを企むように、不敵な笑みを浮かべながら私の方を見た。
「そうか……あのときの小娘であったか。これはなんとも都合がよい」
――向こうも私の事を思い出したみたい……。というか、今都合がいいって言った?あの人たちは一体何を考えているの?
「モモナさん!ここから逃げるんだ!」
背後でふらつきながら立ち上がったワイズが、私の左腕を引きながら言った。
「どうしてですか!?」
「奴らの狙いは……君なんだ!」
「へっ?」
――狙われているのは……私?
頭の中で色々な思考が巡っていた。だが、いくら考えても答えは出なかった。
「おいおいおい!何を勝手に言っちゃってくれてるのかなぁ……。というか、この絶好の
別の魔導師が杖を天高らかに掲げると、杖の先端から1つの水玉が現れ、だんだんと大きくなり始めた。
「まずいっ!逃げろっ!」
私はワイズの言葉に従い、カリアーナとキュプレがいる方に向かって走り出した。
「逃がすものか!」
魔導師が杖を振りかざすと同時に、大きな水玉が私を目掛けて飛んできた。
――捕まる……っ!
そう思った時だった――。
水玉は真っ二つに割れ、大きな水しぶきをあげながら跡形もなく左右に壊れた。
「……なっ!」
何が起きたのか理解するまで少し時間がかかったが、目の前にキュプレがいることに気付いた途端、ようやく状況がつかめた。
「……キュプレ……貴女」
「モモナに手出しする者は、この僕が許さない!」
私を背に庇い、キュプレは今までに見せたこともない表情で魔導師と向き合っていた。
「くっ……次から次へと邪魔者が出て来おる……」
「ガキ相手に何を手こずっておる!」
「……戯れが過ぎたようだな。今日の所は退いてやる。……が、努々忘れるな。河瀬百菜よ、次は必ず捕まえてやる!」
「待てっ!」
キュプレが追いかけようとしたが、魔導師たちは転移魔法を使いその場から姿を消してしまった。
私は魔導師たちがいた方をしばらく見つめていたが、気配が無くなったとわかった途端、気が抜けたかのようにその場に座り込んでしまった。
「モモナ!……その……大丈夫?」
「……キュプレ、守ってくれてありがとう」
私の言葉を聞き緊張の糸が切れたのか、キュプレの目からは大粒の涙が溢れていた。
「……ごめんなざい。言う事ぎがなぐでごめんなざい……ゔぅぅぅ」
「終わったことはいいの。よしよし、怖かったね……もう大丈夫だからね」
泣きじゃくるキュプレの頭を撫で抱きしめていると、私とキュプレの上に覆いかぶさるように影が現れ、頭上から聞き慣れた声が聞こえてきた……。
「お前たちっ!」
身体が反射的にビクッとした。
恐る恐る顔を上げると、眉間に深く皺を刻み、怒りを露わにしているゼプスの顔がそこにはあった。
「……ゼプス」
「キュプレ……モモを危険な目に合わせたそうだな」
「ゔっ……」
私の腕の中で小刻みに震えるキュプレ……。ここは一旦私が弁明しようと口を開いたときだった。
「旦那っ!その子らをあんまり責めんでやってくれないか」
「……誰だ」
声を掛けてきたのはワイズだった。傷が癒えてないにも関わらず小走りで来た彼は、少しの距離だというのにぜえぜえと息を切らしながら近づいて来た。
「……ふぅ。……まずは、モモナさん。怪我を治してくれてありがとう」
「怪我を治した……だと?」
ゼプスが私の方を横目で見てきたが、私は気にすることなくワイズへ答えた。
「完全に傷が癒えてるわけではないので、あまり無理はしないでくださいね」
「わかった。……まぁなんだ。ここで立ち話するのもあれだし、私の店にでもどうかな」
ワイズが気を利かすのも無理はなかった。
魔導師たちが立ち去り、建物や物陰に隠れていた人たちがわらわらと集まり始めていた。一部始終を目撃していた人たちから情報を得ようとする民衆……。このままでは、私たちも質問攻めに合うと判断したワイズの提案を素直に吞むことにした。
「キュプレ、歩ける?」
少し落ち着いた様子のキュプレの手を取り、私たちはワイズの店へと向かうことにした。
「あっ……!そう言えばカリアーナっ!」
「ここにいますわ」
ひょこっとゼプスの後ろから顔を出したカリアーナだが、その表情は少しだけ怒っているようにも見えた。
「……話は後だ」
――ゼプスとカリアーナに心配かけちゃったもんなぁ……。あとでしっかりと謝らないと……。
とある街の一角でひと騒ぎがあった、と街中に知れ渡るのにそう時間は掛からないだろうな、と思いつつ私はキュプレの手を引きながらトボトボと歩き始めた。
*****~
「殿下っ!見つけましたっ!」
路地裏で部下の帰りを待っていたときだった。
私の姿を見つけるなり、いつもよりも大きめの声で報告をする部下を一瞥した。
「どこで誰が聞いているかわからないのだ、外では殿下と呼ぶな。何度言えばわかる」
「はっ。申し訳ございません」
「で、見つけたというのは?」
「はっ。先ほど広場にほど近い場所で騒ぎがあり、そこにモモナ様がいたと情報を得ました」
「すぐに向かうぞ!」
――広場まで走って向かえばほんの数分でたどり着く。
私は合流したばかりの部下を引き連れ、広場へ急ぎ向かうことにした。
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