31話➤それぞれの役割
私がこの屋敷をソアレから受け継ぎ、まさかここまで同居人が増えるとは思いもしなかった。
1人で生活する上で多少なりとも不便は感じていたが、寝床として使う分には全く問題ない。
そんなある日、別の世界から1人でやって来たモモと出会い、瀕死だった命を救われた。同じ時を過ごすうちに、この先も一緒にいたいという思いが強くなり、この屋敷へと招いたのだが……。
私は後悔した。
どうせ招くのであれば、日頃から掃除くらいすべきだったと……。モモは屋敷を目の前に一瞬驚いていたが、気持ちをすぐに入れ替え掃除を始めた。あろうことか、この私まで使ってだ。バラウルの誇り高き蒼龍が雑巾を絞り、埃を被りながらも懸命に拭き上げている姿は、モモ以外に知られたくない……。
屋敷内の掃除は数日にも及んだ。その間、クレジョスやカリアーナも手伝いには来たが、モモの人使いの荒らさにすぐさま根を上げ退散して行った。せっせと片付けをする合間に軽食として様々な食べ物も作るモモは本当に器用だと思った。そして私はあることに気付き始めた。
日を追う毎に、モモの魔力が増していることを……。
この世界で魔力、特に治癒魔法は重宝されている。王族以外にも魔法を使える者を魔導師と呼び、人間は奴等を崇めていた。調子づいた奴等は、治癒魔法を使う変わりに高額な金銭を要求するようになっていた。
ソアレが望んだ世界になるのか、はたまた何も変わらないままとなるのか……。キュプレ誕生とモモの治癒能力、なにかしらの相関関係があると私は考えているが、今のところ何もわからないままだ。
まぁ、焦らずとも時間はたっぷりある。モモとキュプレが文字の読み書きを覚えている最中だ。私も恩師であるソアレがしていたように、日常的な事をここに書き記していこうと思う。
*****~
「カリアーナ、もうすぐ夕食ができると部屋にいるゼプスに声を掛けてきてくれる?」
「えぇ、わかったわ」
リビングでキュプレと遊んでいたカリアーナに声を掛け、私は昼間から仕込んでいた夕食の準備に取り掛かることにした。この屋敷での生活にも慣れ、私自身も心の余裕ができたこともあってか、手の込んだ料理に取り掛かるまでになっていた。
「モモナ。今日の夕飯はなんだ?」
「今日はね、おでんだよ」
「おでん?」
「そぅ。お出汁の味を具材にしっかり染み込ますために時間をかけて煮詰めたから、きっと美味しいよ」
出汁の味が恋しくなり、どうにかして作れないかと思いネグルを歩いていたとき、食事処の店主から教わったレシピをもとに編み出すことができた。庭で育てていた野菜も食べ頃となり、季節外れの料理ではあるが、年中食べても美味しいものは美味しいとの思いから作ってみることにしたのだ。
「なんだ……この香りは……」
ゼプスがリビングへと入って来るなり、鼻をひくひくさせながら出汁の香りを嗅いでいた。
「おでんだよ」
「おでん?」
「……まぁ美味しいとは思うけど、口に合うかはわかんないからとりあえず食べてみて」
説明するよりも食べて判断してもらおう思った私は、人数分の器におでんを盛り付けテーブルに置いた。
初めて見る食べ物に困惑の表情を見せる3人……。徐にゼプスが芋をパクリと食べるのを静かに見守っていた。
「んっ!……旨い!」
「ふぅ……良かったぁ」
ゼプスの反応を見ていたカリアーナとキュプレも具材をパクパクと口に含み、味わうようにして食べていた。
「確かに美味しいですわ!味が染み渡っていていくらでも食べられちゃう」
「本当だ!ほくほくで美味しい!」
「たくさん作ったからおかわりしてね」
「うん!」
――料理のレパートリーは決して多くないけど、初めてお披露目する料理を食べてもらう時は本当に緊張する……。皆の口に合って良かったぁ。
3人が笑顔で食べる姿を見て、私もようやくほっとした気持ちで食べ進めた。
「ねぇ……。少しだけいいかしら」
食事も終わりを迎える頃になり、カリアーナが神妙な面持ちで声を発した。
「……どうかした?」
「えっと……、あたしもこの屋敷で住まわせてもらってかれこれ何日か経つけど、……何も手伝えてないのが心苦しい……かなって」
「カリアーナは十分手伝ってくれてるよ!」
「だけど……。もっと頼って欲しいですわ!」
思いもしないカリアーナの本音……。
少しだけ居心地が悪そうに俯くカリアーナになんと声を掛けて良いかわからずにいると、ゼプスが話し始めた。
「カリアーナ自身は何をしたいんだ」
「……あたしに出来ること」
「この屋敷での過ごし方は自由だ。特に何かを取り決めている訳ではない。自分自身ができることをすればいいと私は思うのだが……どう思う?」
改めて言われてみると、特に屋敷内での役割は決めていなかった。できる人がすればいい、というスタンスでいたせいか、私自身も何かをするにあたり負担に思うこともなく過ごせていた。
「ゼプスの言う通り、できることをすればいいと思うよ。そうだなぁ……庭の水やりとかも率先してくれてるし、料理をしているときも手伝ってくれてる。私はそれで十分だと思うよ」
「……甘やかし過ぎですわ」
小声で言いながらも、カリアーナはどこかほっとした表情をしていた。
「カリアーナ、明日ネグルへお買い物に行こ!ちょうど食品も切れかけてるし」
「えぇ!皆で行きましょう」
「やったぁ!」
「皆って……まさか私もか!?」
「お兄様はいないですもん」
「……はぁ……また面倒な」
食事を終えてしばらく談笑した後、私とカリアーナで後片付けを済ませ眠りについた。
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