27話➤異世界風スープカレー

 ネグルの街で買ってきた野菜を洗い、分厚い皮を剥き下処理の準備をしていると、隣でカリアーナが私の手元をじっと見ていた。


「それは一体何をしてますの?」

「これは下処理しやすいように皮を剥いているんだよ」

「そのままだといけませんの?」

「う~ん……。そのままでもいいと思うんだけど、外側の部分は皮が分厚いし硬そうだからねぇ」

「なるほど……。モモナの手際が良すぎてついていけないわ」


 今まで料理の過程を見られることもなければ、こうして誰かに褒められたこともなかったため、なんだかむず痒くなり始めた。


 ――いつも通りの事をしているだけなのに緊張するな……。


 すべての野菜の皮を剥き終えた私は、一口サイズにカットし大鍋へとそれらを入れ煮込み始めた。


「そんな小さな火よりも、もっと大きな火ですれば早くできるのではなくって?」

「火力が強ければいいってもんじゃないんだよ。じっくりコトコト煮込むことで柔らかくもなるし、野菜本来の旨味も出てきて美味しくなるの」


 興味津々に熱い視線を送るカリアーナの表情は真剣そのものだった。その後も野菜の切り方や味付け方法について伝えていると、湯気がモクモクと湯気が上がり始めた。


「カリアーナ見て!さっきまで硬かった野菜が柔らかくなってきてるよ」

「うわぁ~。こんなにホロホロなの……初めて見ましたわ」

「柔らかくなることで味も染み込みやすくなるんだよ」

「モモナは物知りね!」

「物知り……というか、何度も繰り返ししていた結果だよ」


 私が一人暮らしを始めた頃、とにかく料理が面倒臭くてスーパーで出来合いを買ったり、外食をすることが多かった。そんな生活をしていると、だんだんと生活に支障が出てきてしまい、自炊したほうが節約にもなると考えた結果、自分なりにアレンジできる料理にはまったのだ。


「カリアーナは好きな食べ物とかある?」

「う~ん……おいしければなんでもいいかも……。あっ、しいて言うなら甘いものが好きよ」

「確かに甘いのっていいよね」

「えぇ!そうだわ!ネグルに、あたしのお気に入りの飴細工のお店があるから、今度行きましょ」

「飴細工!いいね」


 話題の尽きない会話を楽しみつつ味付けを施していく。ネグルで買ったばかりのいくつかのスパイスを組み合わせ、何度も味見を重ねてようやく納得のいく料理に仕上がった。


「なんだこの香り……。すごくいい匂いがする」

「……腹が余計に減る匂いだな」


 キッチンからリビングにまで匂いが充満したのか、ゼプスに続いてクレジョスも顔を覗かせていた。キュプレはキッチンに入ってくるなり、目をキラキラとさせながら涎まで垂らしていた。


「お待ちどうさんです」


 作った料理を器に盛り付け、テーブルに置いているとクレジョスが食べ始めようとしていた。その光景をカリアーナが見つけるや否や……。


「お・に・い・さ・まっ!」

「……ちぇっ」


 ――本当、クレジョスさんはカリアーナに頭が上がらいんだな……。


 4人と1匹の食事の準備を終え、テーブルに着くと賑やかな食事が始まった。初めて目にする料理なのか、まじまじと具材を確認するゼプス、匂いを嗅いで何かを確かめるクレジョス、熱いから気を付けてね、とキュプレに声を掛けるカリアーナ。こうして数人で食卓を囲みながら食事をするのが久しぶりなため、嬉しさのあまり思わず涙が零れた。


「モモ……そなた泣いているのか?」

「ああん?」

「えっ……あたし、何かしてしまいましたか?」

「キューン?」


 あまりにも心配する彼らの反応を見ていると、今度が可笑しくて笑みが零れた。


「泣いたり笑ったり、忙しいやつだな……」

「……ごめん。さ、食べよう!百菜特製スープカレー、どうぞ召し上がれ」


 ――口に合うといいんだけど……。


 私の掛け声とともに食べ始めた彼らを緊張しながら見ていたが、綻ぶ様子が伺えた途端に安堵することができた。


 ――ふぅ……。味付けは問題なかったみたい。


「これ旨いな」

「まさか土に埋もれていた物がこんなにも柔らかくかつ、旨味を出すとは……モモは博識だな」

「すっごく美味しいですわ!モモナ、おかわりはありますの?」

「たくさんあるからどんどん食べてね」

「僕ももっと食べる」


 自分で作った料理を誰かにこうして喜んで食べてもらえる、とは以前の私なら考えもしなかっただろうな、と感慨深くなりながらしばらくの間、私は目の前の光景を目に焼き付けていた。




 *****~


 モモナたちが去ったネグルの街では――。

 

「ここに訪れたのは、女性1人ではなかったのか……」

「はい。幼い少女と背の高い男性と一緒でした」


 アウリウ金貨が使用されたと報告を受けた店へと足を運んだのだが、一足遅かったようだ。店員から受け取った金貨を見つめ、私は思考を巡らせていた。


 ――おそらくこの店を訪れたのはモモナで間違いないだろう。だが、一緒いたという者は何者なのだ……。ここから近い村はあるが、そこにはもう部下が出向きいないと報告を受けている……。


 考えている私の様子を見ていた店員が徐に口を開いた。


「あの……お探しの方は……見つかるとどうなるのですか」

「ん?……あぁ……どうなる、と心配するようなことは一切ない。ただ個人的に探しているだけだ」

「……そうですか」


 ほっと安心する店員を見ていると、を痛感させられるようだった。


「また彼女が訪れるようなことがあれば、すぐ我々に連絡を貰えるとありがたい」


 そう言い残し、店を後にする頃にはもう日が暮れていた。

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