24話➤お買い物デ~ト
どこかへ出掛けるために計画を立てる。
私がいた世界でも、行き先や欲しいものを考えるだけでワクワクしていた事を思い出しながらカリアーナと一緒にプランを立てていた。
「……ネグルの人たちはクレジョスさんが普通の人とは違うって気づかないのかな……」
「それは大丈夫よ。ドラゴンの姿でない限り、警戒されることもないわ。これは実証済みよ」
手で胸をポン、と叩き自信満々に答えるカリアーナ。転移魔法が使えると知ってから何度もクレジョスと共にネグルに出掛けていたらしい……。
――こういう所は抜かりないんだよなぁ……。
「ぐぬぬぬぬ……。あれこれ考えていると1日では回りきれないわ……」
「う~ん……。今回行けなかった所にはまた日を改めて行くのはどう?あ、でもカリアーナがしんどくなっちゃうね……いくら魔力があっても転移魔法って……エネルギー使いそうだし」
「まぁ!あたしの心配をしてくれるのね。だけどねモモナ、あたしはそんじゃそこらの魔導師と違って疲れ果てないわ。だから気にしないで、ね」
片目でウィンクをしながら笑顔で答える彼女の言葉に甘えよう、そう伝えるかのように私も笑顔を返した。
「まぁネグルには怪しい魔導師もいねぇし、
「……西側って危ないの?」
「そうだ。気性の荒い奴等が多い分、好き好んで戦いを仕掛ける者共がうじゃうじゃいる……。視察がてら出掛けて行ったこいつが、その戦いに巻き込まれて死にかけてんだろうよ」
クレジョスはゼプスのことを横目に見ながらペラペラと話していた。
――そこまで話してくれなかったのは私に気を遣ってなのかな……。
「モモ。別に隠していたわけではない。ただ……そなたがこの世界に来たばかりで色んな事を次から次に言われても混乱するだろう、と思って言わなかっただけだ」
まるで私の考えていたことが見透かされているような印象を受けたが、彼なりの優しさなのだろうと大人しく受け止めておくことにした。
「気にしなくていいよ」
「……そうか」
こうして時間をかけた計画も概ね実行できそうと目処がたち、一旦お開きすることになった。
「ではまた明日。キュプレちゃんもまたね」
「キュー」
「うん!帰りも気をつけてね」
「ったく誰に言ってんだ」
「うるさい。とっとと帰れ」
転移魔法を使って一瞬で姿を消した2人を見送り、私たちも屋敷へと戻った。
迎えた翌日――。
出掛ける準備済ませ屋敷を出ると、タイミングを見計らったかのようにクレジョスとカリアーナが姿を現した。
「モモナ、おはよう」
「おはようカリアーナ。今日は買い物日和だね」
「えぇ!あたし、今日が楽しみすぎていつもよりちょっと寝るのが遅くなってしまったわ」
「ふふ、実は私も」
「はぁ……ぐだぐだくっちゃべってないで行くぞ」
相変わらず不機嫌なクレジョスだったが、なんだかんだ付いてきてくれるあたり優しいお兄さんな気がした。
「ゼプス、キュプレ行ってきます」
「キュー」
ゼプスに抱き抱えられたキュプレは、どこか寂しそうにうるうるとした瞳で何かを訴えようとしていた。その姿に私の胸もズキリとした。
「今生の別れではないだろうに……」
呆れた様子のゼプスを見て、クレジョスもカリアーナも苦笑していた。
「さぁ行きますわよ!いざネグルへ!」
カリアーナが片手を天に向けて掲げると、頭上に複雑な形した魔方陣が現れた。
「モモナ、この魔方陣の中に入ってくださいまし」
カリアーナに促された私は彼女の元へと駆け寄った。その姿を見ていたゼプスとキュプレに手を振ると、一瞬で光に包まれた。眩しさのあまり目を閉じていたのだが、次の瞬間には360度景色が変わっていた。
「わぁ……やっぱり魔法ってすごいね」
「そ、そうかしら……」
照れ隠しをするようにそっぽを向いていたカリアーナだったが、後ろからでもわかるくらい耳が赤くなっていることには触れずにいようと思った。
「ここって……ネグルの街?」
どこか人気のない所にいる事に気づいた私はカリアーナに尋ねた。
「街といっても裏路地よ。人がたくさんいるところだと、周りに迷惑がかかるでしょ」
「あぁ、なるほど……」
「さ、お買い物をしますわよ!」
そう言いながらカリアーナは私の手を取り、活気溢れる街に向かって走り出した。
カリアーナに連れられて路地から一歩出ると、そこには想像していた通りの街並みが広がっていた。行き交う人々、建ち並ぶ建物、売られている物、目に入る全ての物が新鮮で眩しく思えた。
「うわぁ……すごいね」
「でしょ。王都の次に栄えているのも納得できますわ……」
私はカリアーナに案内されながら色々なお店を回った。いつも川で釣っていた魚とは段違いの大きさをしている魚に驚き、私が知っている野菜が売られていることに嬉しくなったり、仕立て屋さんに言われるがままのコーディネートに照れたり……、楽しい時間は瞬く間に過ぎて行った。
「なんか久しぶりに楽しかったなぁ」
小川沿いのカフェテラスで一息つくことにした私たちは、買い込んだ荷物を眺めていた。
「少しは気分転換になったかしら」
「勿論!……今まで気が張っていたのかもしれないけれど、こうして買い物をすることでなんだか気分がスッキリしたわ。カリアーナ、連れてきてくれてありがとう」
「……良かった」
「ん?何か言った?」
「いいえ、何も」
カリアーナの言葉は聞き取れなかったが、彼女の表情からは安堵したような様子が伺えた。
「クレジョスさんも……お疲れ様でした」
「はん……。礼を言うくらいなら何かで返せ」
言動は冷たいながらも、買った荷物を率先して持ってくれていたあたり、紳士的だと私は思ったのだが、あえて口にはしなかった。
「さて、後半戦と行きますか!」
「そうね」
糖分補給を終え、元気を取り戻したカリアーナと私が立ち上がると、後ろでは盛大なため息が聞こえてきた。そんなことはお構い無しに、再び街へと向かい歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます