23話➤友と呼べる存在
あたしが自分自身の生い立ちを聞いたのは、つい最近のことだった。
もともとバラウルの成長スピードは人間とは違い速く、一人前ともなればドラゴンの姿にならずとも空を飛べた。だけど、あたしは違った……。周りの同年代の子たちはどんどん大きくなるのに、あたしは小さいまま……。個人差があるから気にしなくてもいいと言われてたから、そこまで気に掛けていなかったの。
異変に気付いたのは同じ年くらいの子たちと遊んでいる時だったわ。
みんなで揃って空を飛ぼうと促され、あたしも付いていこうとしたのだけど、お兄様に止められたの。
「カリアーナ、手伝ってほしいことがある」
その次も……、またその次も……、何かと理由をつけられ呼び戻された。
さすがにおかしいと思ったあたしがしつこくお兄様を問いただすと、隠しきれないと思ったのか、あたしの生い立ちを話し始めたの。そこで初めて知ったわ……。あたしの両親のことを……。
あたしの母は転移魔法が得意な魔導師、そして父はバラウルの英雄とも言われた一人。そんな2人から生まれたあたしの魔力は底なしみたい。練習に練習を重ねて、今では転移魔法を上手く使いこなせるようになったのよ。
正直、両親の事を聞いても何とも思わなかったわ。それもそうよね……。あたしがまだ生まれて間もない頃に両親は亡くなっていたんですもの。母は自ら犠牲になり父とあたしを逃がし、父は命懸けでお兄様の所へあたしを運んだんですって。2人に守られたおかげで今のあたしがいるだなんて信じがたいですけどね……。
あたしにはバラウルとは別に、彼らの敵である魔導師の血も流れていると知っていながらも、あたしの家族は本当の娘のように接してくれたわ。
『血がつながっていなくても、家族であることに変わりはない』
その言葉を聞いてあたしはここにいていいんだ……そう思えたの。
*****~
カリアーナから告げられた生い立ち、魔力のこと……。私が混乱しないようにゆっくりと説明する姿は大人びているように思えた。
「これであたしの話はおしまい……。話すとすごく楽になったわ」
「……カリアーナ」
「あたしね、このアルバストゥルに人間が来たって知ったとき、一緒に行きたいってお兄様をものすごく説得したの。生い立ちを知ってまだ間もないのにどうしてそんなに会いたがるんだ、って言われたんだけど……女の勘よ!……そう無理くり納得させてあの場に行ったのよ」
私はカリアーナと初めて会った時のことを思い返していた。
――あの時、ゼプスのことは怖くなかったけど、仲間の元へ行くって知った時には不安でいっぱいだった……。思わず茂みに隠れたけど、私よりも
「あたし、モモナを初めて見たとき仲良くなれる!……そう思えたの」
「……女の勘、ってやつか」
「そうよ」
クレジョスがそう言うとにこやかに笑って答えるカリアーナ。本当の兄妹じゃないと知っても、私の目には仲睦まじい兄妹にしか見えなかった。
「カリアーナ、話してくれてありがとう」
「……だって、あたしたち……その……お友達……でしょ」
「うん!」
「まったく呑気なもんだぜ」
クレジョスが足を組んだまま私を睨み付けていたが、これまで感じていたような敵意はなさそうに思えた。
――これも……女の勘、ってやつなのかな……。
そんなことを考えながら紅茶を啜っていると、ふとゼプスが口を開いた。
「カリアーナ、今度モモと一緒にネグルに行かないか?」
「……ネグルに行けるの……?」
「それは素敵な提案ですわ!」
「……ちっ、また面倒なことを言いやがる」
――ネグル……。私が本当は行く予定だった街に行ける……。
「あっ!ネグルに行くならあれが使えるんじゃ……」
あることをふと思い出した私は急いで自室へ戻り、ごそごそと収納棚を探った。
「……あった」
見つけた巾着を手にリビングへと戻り、テーブルの上にそれを置いた。
「モモナ……これは?」
「私、始めはネグルに行く予定だったの。王都に召喚されて魔力がないとわかった途端、別の場所に移動することになって渡されたの。でも、転移魔法でこのアルバストゥルに飛ばされちゃって使う機会がなかったんだ」
カリアーナが巾着を開け中身を見た途端、表情が段々と青白くなっていった。
「えっ、カリアーナ……顔色が段々と悪くなってるけど……大丈夫?」
「モモナっ!これっ……これっ……ものすごい金額よ!」
「……嘘」
「あなた王都って言ったわよね……。さすがとも言うべきかしら……。これだけあればネグルでも一生生活できるんじゃない」
「そんなにあるんだ……全然わかんなくて……。せっかく行くなら食べたことないものを買って帰ってこようかな……。せっかくお庭も綺麗になったんだし、ここでも育てることができそうな植物とかあればいいなぁ」
「……これだけあれば何でも買えますわよ」
初めて向かう街というだけで高まる期待を抱え、私はカリアーナから街の情報を聞いたり、オススメのお店を聞いたりしていた。
私たちだけで街へ行くのは危ない、とのことで付き添いに指名されたクレジョスの眉間には深い皺が刻み込まれていたが、カリアーナと私は気にすることなく会話に花を咲かせていた。
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