22話➤カリアーナの秘密

 クレジョスとカリアーナをリビングへ案内するまでの間、私はゼプスを責めるカリアーナを宥めるのに必死だった。


「はい、ここに座って待っててね!」

「むぅ……なんだかんだ、モモナに言いくるめられました」

「はぁ……ようやく解放された」


 疲れ切ったゼプス、未だに納得していない様子のカリアーナ、終始不貞腐れているクレジョス。3人を一先ず座らせることができた私は、リラックス効果のあるハーブティを淹れるためにキッチンへ向かった。その後を追うようにカリアーナも付いてきた。


「あたしも手伝うわ」

「ふふ、ありがとう」

「あっ!キッチンへ行くのはいいんだけど、驚いて大きな声を出さないでね」

「え……えぇ、わかったわ」


 キュプレがキッチンにいることをすっかり忘れていた私は、慌ててカリアーナに付け加えた。

 


 私の足音に気づいたのか、キッチンへ入るとすぐさまキュプレが私の頭に飛び乗ってきた。その様子を間近で見ていたカリアーナは、目をまん丸にして驚きのあまり声を出せずにいた。


「モモナ……それはっ!」


 そう言いかけたカリアーナだったが、私の言葉を思い出したのか慌てて両手で口元を押さえた。


 ――大きな声を出さないように言ったの、ちゃんと守ってくれてる……。健気でかわいい。


 やがて深呼吸をして息を整えた彼女はいつも通りの声で私に話しかけた。


「モモナ、頭の上に乗っかってるのは……?」

「この子はキュプレ。この屋敷でずっと眠っていた卵から孵ったドラゴン、ってとこかな」

「……お兄様たちが探していた……偉大なるバラウルの子孫……?」

「そうだね」

「キューン?」


 キュプレはカリアーナをじっと見つめ、何かを感じ取ろうとしているように見えた。


「キュプレ、こちらはカリアーナ。私の大切なお友達」

「……お友達って……なんだか照れるわね」

「キュキュキュ、キュキュッ」

「わぁ!嬉しそう!良かったぁ、カリアーナは大丈夫みたい」


 カリアーナに対して威嚇する素振りはなく、どこか嬉しそうにしている姿を見てほっとする私がいた。


「あたしは大丈夫みたい、って……当主様には懐いていないの?」

「うん……。今のところゼプスには全く懐いていないの。同じドラゴンなんだけどな……」


 頭にキュプレを乗せたまま私が手際よくお湯の準備していると、その隣でカップを並べるカリアーナの姿が目に入った。


「せっかく来てくれたんだから手伝いなんていらなかったのに……けど、ありがとうカリアーナ」

「う……。あたしがしたくてしてるからいいのよ。それに……モモナには話しておかないといけないことだってありますし……」


 だんだんと小声になっていくカリアーナの表情を見ると、どこか切なそうとも言うべきか、何か言いたげな表情をしていた。


「……あのね、モモナ」

「うん」


 私はカリアーナの言葉を待っていた。


「あたし……あたし、本当は30歳になってないの。大人の仲間入りなんてこれっぽちもしてない……。あの時は見栄を張って……嘘を言ってしまった。お兄様とも……血の繋がりなんて本当はないの……。あたし……本当は皆と一緒にいてはいけないのよ」


 情報量が多く、私は少し戸惑っていた。


 ――えっと……。見栄張って年齢詐称……、クレジョスさんとも兄妹ではない……。皆、ってことバラウル族……ドラゴンの仲間ではないってことなのかな……?


 考えれば考えるほど謎は深まる一方であり、私は無言のままポットに沸かしたばかりのお湯を注いでいた。

 キッチンにはトポトポトポとお湯の注がれる音が響いていた。


「カリアーナ」

「……はい」

「私のいた世界でも色んな人たちがいた。生きていく上で情報を隠さないといけないことだってあるだろうし、知られたくないこともいっぱいあると思う。それを打ち明けるにしても、すぐじゃなくてもいいと思うの。私はゆっくりカリアーナのことを知りたい……かな」


 ――まぁ本当は情報量が多くて、キャパオーバー寸前だから一気に言われても困っちゃうんだよね……。


 カリアーナに悟られないように笑顔で伝えるも、表情が強張っていないか不安だった。


「大方、言われたことに対して頭がついていっていないんだろうよ」


 背後から低めの声で話しかけてきたクレジョスに一瞬驚きはしたが、何か言いたげな様子に私も覚悟を決めた。


「ちょうど準備もできたし、リビングに戻って話そうか」

「……うん」


 


 とは言ったものの、何から話すべきか私は悩んでいた。

 キュプレもこの場の空気を読んでか私の膝の上で丸まって眠り、クレジョスは足を組んだままカリアーナの言葉を待っているように見えた。いつもなら率先して話題をふるゼプスでさえ、この時ばかりは無言でハーブティを嗜んでいる。


 ――この状況……どうすればいいの?


 考えても考えても答えは出ず、静かに時間だけが過ぎて行った。

 そんな重たい空気を破ったのはカリアーナだった。


「あのね……。あたし、モモナに聞いてほしいことがあって来たの。上手く言えないかもだけど、ちゃんと話すって決めたの。……だから」

「大丈夫だよ。だからそんなに泣きそうな顔しないで、ね」


 何かを打ち明けるときが一番勇気のいることだと私は知っている。

 その思いが伝わったのか、徐にカリアーナは自身のことを話し始めた。


「あたしはバラウルと魔導師の間に生まれた子なの――」

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