21話➤賑やかな来客

 新たに加わったキュプレとともに生活を初めて数日が経った頃――。


「おい!それは私のものだぞ!」

「キュ~」

「くっ……すばしっこいやつめ」


 この数日で初めて出会ったころから2倍近くサイズアップしたキュプレは、やんちゃ盛り真っ只中だ。


「モモ!そなたがしっかりと躾ぬからわがままになっているではないか!」

「え?私の言うことはちゃんと聞くいい子だよ」


 ねぇ、とキュプレの顔を見ると、ニコっと笑いかけてくるため、ゼプスの言うわがまま具合が私にはわからなかった。


「ぐぬぬ……。モモにだけいい顔するだなんて……」

「そういえば、前から聞きたかったんだけど、ここに住んでた前の家主さんって……ソアレさんだけ?」

「……いいや。ソアレと……番の人間だ」

「へぇ……。って、え?」


 ゼプスの答えを聞き驚きのあまり言葉を失っていると、彼はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


 


 *****~



 ソアレが王都で生活をしている時、運命的な出会いをしたと聞いたことがあった。

 何が運命だ、と私は信じていなかったのだが、私たちの目の前に連れてきてようやく理解できた。

 その人物は王族に仕える騎士の1人であり、キュプレの父親であろうな……。その頃はまだ戦いもなく、人間、ドラゴン関係なく同じ環境で衣食住を共にしていた。恋に落ちるのは必然だったのかもしれぬ。

 

 ソアレと騎士はよくネグル、という街へ出掛けていたそうだ。人の行き来が盛んな街で珍しい物がたくさん手に入っていたらしい。私もよく土産として色んな物を貰っていた。それにソアレは好奇心旺盛な性格であり、人と交流することが大好きだったから街の人ともすぐに打ち解けていた。なんだかあの頃が懐かしい……。

 私も何度かネグルを訪れたことがあったが、確かに見たこともない食材や薬草が取り揃えられていたよ。


 この屋敷は2人で生活しやすいようにと騎士が工夫して建てたらしい。

 私も気づかなかったのだが、この屋敷の裏はソアレがドラゴンの姿でも生活しやすいようにと広大な森を兼ね備えているみたいだ。今ではもう物騒な雰囲気しか漂ってないけどな……。川辺にも近く、裏の森には資源が多く存在するこの地は2人にとって生活しやすい場所であったろう。


 そんな幸せな生活を送っていた矢先、魔導師が王族と手を組んだと情報が出回り始めた。王都へと呼び戻されることになった騎士は、王族の使命には逆らえずこの屋敷とソアレを残し王都へと戻って行った……。そしてしばらくした後、人間と我々バラウルの長きに渡る戦いが始まったのだ。



 *****~


 ゼプスの話を聞き終える頃、私の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。


「モモ……。可愛い顔がぐしゃぐしゃになって台無しではないか……。本当にそなたは涙脆いな」


 そう言いながら私の涙を拭おうと手を差し伸べたゼプスだったが、彼よりも早くにキュプレがペロペロと涙を舐めた。


「……ギュブレ、あり゛がどう゛」


 キュプレの行動があまりにも可愛くてその躰をギュッ、と抱きしめた。


「ギュー」


 苦しそうに鳴き声をあげてようやく力を込め過ぎていたことに気づいた私は、慌てて力を緩めたのだった。


 気持ちを落ち着かせた私は、ゼプスと私の食事の準備に取り掛かろうとしていた。

 すると――。


「モモナ!遊びに来ましたわよ!」


 扉が勢いよく開いたと同時に、カリアーナが大きな声を上げながら屋敷へ入ってきた。


「カリアーナ!」


 素早く手を洗い終え玄関まで迎えに行くと、そこにはカリアーナと並んでクレジョスの姿もあった。


「なんだ、お前も一緒だったのか」

「ちぇっ……俺はこいつの付き添いだ」

「お兄様!きちんとご挨拶してくださいまし。紳士たるものいかなる状況でも男らしく、ですわよ」

「どこでそんな知恵を付けるんだ」


 カリアーナに小突かれるクレジョスを見て笑いそうになっていると、案の定睨まれてしまった。


「まぁまぁ、立ち話もなんですし、どうぞお入りください」

「えぇ!……というか、この屋敷すごく綺麗になってますわね!見違えました!」

「ありがとう」


 カリアーナと手を繋ぎ、私は掃除をし終え綺麗になった屋敷内を案内するように歩いた。


「これならいつ泊りに来ても大丈夫ですわね!」

「カリアーナならいつでも歓迎するよ」

「わぁい!」


 ガールズトークに華を咲かせている一方で、後方ではメンズ同士の言い合いがなされていた。


「いつまであいつを匿うつもりだ?」

「匿うために連れて来たわけではない」

「じゃぁ何のためにわざわざバラウル族のテリトリーに入れたんだ?……納得してねぇ奴らも多いんだぞ」

「それもわかった上で連れて来た」

「はん。貴様の考えていることはさっぱりわかんねぇ」

「別に理解されなくても良い。……いずれわかるさ」


 何を話しているのかまでは聞き取れなかったものの、私に関することだろうなと思いつつ歩いていると、心配するようにカリアーナが顔を覗き込んできた。


「モモナ……あなた……もしかして泣きましたのっ!?」

「へっ?……あぁ、カリアーナが来る少し前までゼプスの話を聞いてね」

「当主様っ!モモナを泣かすことを言ったのですか!」


 ゼプスに言い寄るカリアーナの姿を見ていると、クレジョスと話していた内容は気にならなくなっていた。


「モモ!カリアーナが誤解している。突っ立ってないで助けてくれ」

「は~い」


 リビングへ向かうまでの間、私はカリアーナへゼプスから聞いた話を伝えるのに必死だった。

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