12話➤ドラゴンと人間
私は少しばかり混乱していた。
女の子が言った『当主様』というワードに……。
「ゼプスって……当主……なの?」
「まぁそうだな……。私とクレジョスがこの島とその周辺を管轄している」
「んなことはコイツに関係ねぇことだ!」
――クレジョスは相当人間、とういうか私の事がお嫌いらしい……。初対面でこういう態度は悲しい限りなんだけど……。
ゼプスに止められたこともあってか、さっきまで罵声を浴びせていた人たちも大人しくなっていた。重たい空気がその場に流れる中、私の近くにいた女の子がニコニコしながらゼプスへ話しかけていた。
「当主様、あたし……お姉ちゃんともっと仲良くしたいです!」
――可愛すぎるんですけど。……なんだか懐かしいな……。小児科病棟で働いていた頃を思い出しちゃう……。
女の子の訴えに笑顔で返事をしたゼプスは立ち上がり、集まって来た大衆に向かって話し始めた。
「先ほども伝えたように、私はここにいる人間モモに命を救われた。彼女がいなければ、今頃私はどこぞの洞窟で野垂れ死んでいたに違いない。クレジョスが言ったように、我々バラウル族は多くの仲間が犠牲になるのを見てきた。……簡単に彼女のことを認めて欲しいとは言わない。だが、人間だから、という理由だけで判断しないで欲しい」
ゼプスは自身の思いを言い終えると、彼らに向かって深々と頭を下げた。
「よろしく頼む」
その姿を見た私もその場で立ち上がり、ゼプスに続いて頭を下げた。
「皆さんのご迷惑になるようなことはしません。できることは何でもする覚悟です。ですので……一緒にいさせてください」
――この世界に私の居場所なんてない……。ゼプスが一緒に来て欲しい、と言ってくれなければ今頃どうなってたんだろう……。1人の生活には慣れているけど、全くの知らない世界にぼっちはキツイかも……。
精一杯の思いを伝え、しばらく周りの反応を待ちながら考えていると、小さな手が私の手を握ってきた。
「お姉ちゃんをいじめるなんて、このあたしが許さないんだから!」
幼いながらも説得力のある女の子に、思わず抱きつきたいと思ってしまった。
「カリアーナ、何を言っているのかわかってんのか」
「勿論わかってるわ。何もわかってないのはお兄様たちのほうよ」
「くっ……」
「ほぅ、これは面白い展開だ」
両腕を組み、楽しそうにやり取りを見ているゼプスに私は尋ねた。
「彼女とクレジョスさんって兄妹なの?」
「あぁそうだ。兄より妹の方が強くて有名だ」
「へぇ……」
「カリアーナに認められるお前はすごいぞ」
「えっ?」
「
「そう……なんだ」
その後もしばらく2人の兄妹が言い争っているのを見ていた。
最終的には、カリアーナに言いくるめられたクレジョスが折れ、私の事を渋々受け入れてくれることになった。
「……カリアーナは認めているか知らねぇけど、俺はこれっぽっちも認めてねぇからな!」
クレジョスは私を睨み付けながら来た道を戻り始めた。他の人たちも彼の後に続き引き返し始め、カリアーナも私の手を引きながら着いていこうとしていた。
「カリアーナちゃん……ちょっと待って」
「どうかした?お兄様のことならもう大丈夫よ。それに、あたしのことはカリアーナでいいわよ」
「わかった……。というか、カリアーナは……その……人間を恨んでないの?」
「う~ん……。正直言うとね……わかんないの」
「えっ?」
「あたしが産まれた時には人間を恨んでる人たちが多かった。でも、あたしは何で皆が人間を恨んでるいるのかもわかんないし、わかんないなら自分で理解しようと思ってるの」
――幼いなりにしっかりしているなぁ……。
ふとそんな事を考えながらカリアーナの話を聞いていると、ゼプスが隣から声を掛けてきた。
「カリアーナもいいレディになったな。私が知っている頃とはまるで別人だ」
「当然のことですわ。あたしももうすぐ大人の仲間入りですからね」
「大人かぁ……。ふふふ、私にはまだ幼くて可愛い女の子に見えるんだけど、カリアーナは何歳なの?」
「ふふふ~ん。あと10日もすれば30歳よ!皆の子ども扱いからやっと卒業なのよ」
――え?私の聞き間違いかな……。どう見ても子ども……なんだけど?
「あのさ……カリアーナが30歳だとすれば、ゼプスは何歳になるの?」
ゼプスとは歳が近いのではないかと思い尋ねてみると、予想以上の答えが返ってきた。
「私か……。確か……300……になったばかりだったかな」
「300っ!?」
「あぁそうだが」
――理屈で考えるとおかしいけど……。ここは私がいた世界とは違うんだった……。
「そ、そうなんだ……。なんというか……私の理解が追い付かなくて混乱しちゃうけど、ドラゴンはきっと長生きする種族なんだよね」
「そうよ!お姉ちゃんが言うドラゴン……?はきっと私たちバラウルのことよね」
――うっ……。そうなのかもしれないし、違うのかもしれない……。はっきりとした答えがわからないけど、バラウル=ドラゴンな気がする……。
明確な答えが欲しくてゼプスの方をみると、口角を少しだけ上げ微笑みかける姿があった。
「……これから教えることが多そうだな」
その一言だけ言い、ゼプスは前の集団に続くように歩みを速めた。
「ちょっと待ってよぉ」
彼に置いていかれまいと付いていくのに必死だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます