4話➤見渡す限りの大自然
一瞬で目的地へと移動ができてしまうのだから、本当に魔法とはすごい。
そう思ったのも束の間……。
私の頭は真っ白になっていた。
「あれ?ネグルは……街……って言ってなかった?」
たくさんの建物が立ち並び、たくさんの人が行き交い活気溢れる場所……。そう思っていた私の目の前に広がるのは、どこからどうみても大自然そのものだった。
背丈の高い木が生い茂り、そこら中に生えている雑草も腰部分の高さまであり、視線の先に広がる森からは不気味な雰囲気が漂っていた。
「……もしかして、意図的に違う場所に飛ばされた!?」
あの時、魔導師がにんまりとしていたのはわかっていたからなのか……。そう思った途端、私は愕然とした。
足元にあった模様はいつの間にか消え、正真正銘、私は見知らぬ所にほっぽり出された。
「あり得ないんですけどぉ……」
ぼやいた所でどうにかなるわけではなく、これからどうするべきか冷静になって考えようとした。
――まずは情報収集……。これは看護の基本中の基本。
こうして私は少しでも情報を得るために歩き始めた。唯一幸いなことと言えば、日が暮れておらず遠くまで視界が広がっていることだろう。
――迷わないように地面に目印でも書いておくか……。
もともと方向音痴な私ではあるが、1人でキャンプをすることが好きで、休みの日には自宅近くの川辺でソロキャンプを楽しんでいた。
キャンプをしていたからなんだ……って話なのだが、未知の世界で生き抜くためには持ち合わせている知識や技術を使いこなすしかない、そう私自身に言い聞かせ、道なき道を歩き出した。
不気味な雰囲気が漂う森とは反対方向に進むことを決めた私は、食料になりそうなもの、火起こしに使えそうなものを中心に探していた。
ふと、木々の間ににょきにょきと生える見るからに怪しいキノコが目に入ってきた。私の掌サイズはありそうな緑色のカサには白い斑点模様があり、よく見ると近くには同じキノコがまばらに生えていた。
――見るからに怪しいキノコ……。これは絶対口にしてはいけない系なのでは……?
せっかくの食材であったが、私はそのまま採らずに先へと進むことにした。
歩いても歩いても一向に景色は変わらず、生き物ですらお目にかかれない始末……。時折視界に入ってくる食べられそうなものはあっても、なかなか手が出せずにいた。
――触れるだけで痺れる可能性もあるから、無暗に触らない方がいいよね……。
「それにしても、お腹空いたぁ!最後に食べたのいつだっけ……?この世界に来る前……なんだけど、時間が経ち過ぎてわっかんないや……」
1人でぶつぶつと言いながら、私は足を止めずに進んでいた。
しばらく歩くと、休憩するのに最適な岩を見つけることができ、そこに腰掛けた私は何気なく空を見上げた。
――同じ空の下にいるはずなの、どうしてこうも勝手が違うんだか……。
ビューンッ――。
空を見上げていた私の目の前を、大きな翼が風を切りながら通り過ぎて行った。一瞬の出来事だったにも関わらず、見た事もない生き物の存在に鳥肌が立っていた。
――今の……って。大きな鳥……?じゃないよね……。もしかしてもしかすると……。
この場に居てはダメだと思った私は、急いでその場を離れた。途中までは地面に目印となるような印を描いていたものの、それすらも忘れて無我夢中で走っていた。幸いなことに、さきほどの大きな生き物は私を追いかけることはなく、そのまま姿が見えなくなった。
――無駄に体力を使ってしまった……。ただでされスタミナ不足なのに……。
盛大な溜息を漏らし、私は近くの木にもたれかかるように座り込んだ。
――頼れる人もいないし、何より環境が違い過ぎて頭が追いつかない……。一体どうすればいいんだよぉ……。
そう思った途端、抑えていた涙がこぼれそうになった。
私は慌てて拭い両手で頬をパチンッ、と思いっきり叩いた。
「こんなところで弱音吐いてどうすんの!」
自分自身に言い聞かせるように言いながら立ち、私は歩みを進めた。
草木をかき分けながら進んでいると、どこからともなく水の流れる音が聞こえてきた。
「……もしかして……川?」
そんな期待が私を突き動かし、気付けば音のする方へと走り出していた。
前方から当たる風はひんやりとしており、視界が開けた目の前には、私の予想していた通り川が流れていた。
――おぉっ!恵みの水っ!
川へと近づき、手を受け皿にして水を掬うと、透き通った水が手の中いっぱいにあった。私はそのまま手を口元まで運び、ゴクンと水を一口飲んだ。
「冷たくて美味しい!」
その後も何度か同じようにして水を飲み続けた。
喉の渇きが落ち着いたところで、川辺に座り込んでいた私は、川の中を泳ぐ魚を見つけた。
「あれなら獲れる!」
早速長めの木と草のツタを用いて、即席の釣り竿を作った。
魚のエサとなりそうな虫を触るのが苦手な私は、釣り竿だけで魚を釣るのは難しいと理解しつつ、これで釣れなければ手掴みで獲ろうと考えていた。
ヒュッン――。
魚が泳いでいる少しだけ手前に竿を振り下ろし、釣糸代わりのツタを小刻みに揺らした。
――これで釣れるなんてことはないだろうけどね……。
と思っていた矢先、魚がツタに食い付きあっという間に1匹釣り上げることができた。
「やったぁ!」
その後も同じような手法で釣りを続け、合計5匹の魚を釣り上げることができた。
「上出来っ上出来っ!2匹は今食べるとして、あとの3匹は干物にでもするか」
久々の食材を目の前に、私の胸は高鳴っていた。
――ヒトが……いる……。
モモナの気配を感じていたソレは、静かにその時を待っていた……。
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