2話➤人には表の顔と裏の顔がある
驚きのあまり何も言えないでいるのだろうか……。一向に話そうとしない状況に、段々と居たたまれない気持ちになってきた。
そんな状況に終止符を打つかのように、1人の男性が私の方へと足を進めてきた。
「……父上」
父上と言われた人物は、ゆったりとした足取りでこちらに近づいて来た。
赤いマントを纏い、頭には光輝く王冠、手にしている杖は魔導師とか比べ物にならないくらいの太さと長さがあり、この国を治めている印象を受けた。
その人物は、私の目の前で足を止めたかと思うと、私に向かって深々と頭を下げた。
「私共の勝手でお連れしたにも関わらず、ご無礼をお許し下され」
「……頭を上げて下さい。私も少し言い過ぎました」
冷静になって考えてみると、あれは単なる八つ当たりに過ぎない。そう思った私も同じように頭を下げて謝罪した。
少しだけ
「我らの国では、至る所で騎士たちが戦いで傷を負っているのだが……、治癒師の魔力が枯渇している故に傷を癒せないでいる。今、この城に常駐している治癒師の魔力も底を突きそうなのだ。女神の加護を与えし者は、我々に魔力を恵んでくれる存在であり頼みの綱だった、というわけだ」
――深刻そうな顔で言われても、私にはどうすることもできないよ……。
「治癒師だの……魔力の枯渇だの……女神の加護だのと言われても、私にはどうすることもできません」
「そうだな……。せめてもの詫びとして、この国で不自由なく生活できるように手配しよう。そういえばまだそなたの名前を聞いていなかったな」
「
「カワセモモナ……ここらでは聞かない名だな。ようこそ我が国ガルベンへ。私の名はハーゼケン・ルマニア、隣にいるのは私の息子ミハイル・ルマニアだ。我々はそなたを歓迎する」
差し出された右手をしばらく見つめた後、私は渋々自分の右手で握手をした。
――元の世界に戻れないのなら、ここで生活するしかない……もんなぁ。
「……よろしくお願いします」
こうして私は、生まれ育った故郷からどのくらい離れているのかわからない異国の地で生活することが決まった。
私の処遇を話し合うため、しばらく待機するように言われた私は、案内されただだっ広い客間で1人ポツンと取り残されていた。
――ガルベン……聞いたこともない国名だったなぁ。この先、どうやって生活すればいいんだろう……。この国の人たちは皆魔法が使えるのかなぁ……。だとしたら、私に何ができるんだろう。今まで培ってきた事はこの国で活かせるのかなぁ……。
待たされている間、今後の生活について私なりに考えてみたものの、国の事が一切わからないため、結局のところ考えるだけ無駄だと思った私は椅子にもたれ目を閉じた。
*****~
召喚の儀を執り行った後、父上、魔導師、預言者を交えてモモナの今後の処遇について話し合っていた。
「いくら我々が誤って召喚したとは言え、王都に住まわすのは反対ですぞ」
「だが、魔力がなければ王都以外では住めんだろう」
「では国民にどう説明するのです?」
「ゔ……それは」
この国で生活するにはある程度の魔力がなければ下目に見られ、仕事も宛てがわれない可能性がある。ましてや、異国から召喚した魔力のない者を王都で住まわすなど、国民の大半が反対するであろう……。
「国王陛下、モモナ殿と握手をされた際、魔力を感じることはできましたか?」
――そう言えば父上はモモナ殿と握手をしていたな……。父上なら微量な魔力でも感知できる。これで少しでも魔力があれば……。
と思ったのも束の間……。私の淡い期待はすぐに砕け散った。
「……何も感じなかった」
「なんと……」
「やはり、今回の召喚の儀は何かの手違いが生じたのでしょう」
――手違いで済まされる問題ではないぞ!彼女の人生を大きく狂わせてしまった責任はこちらにあることを全くわかっていない!
内心では何とでも言えるが、いざ表立って発言するには私の立場上、細心の注意を払わなければならない状況に唇を噛みしめることしかできなかった。
「王都より北の地、ネグルはいかがでしょうか。あそこなら魔力がなくとも生活に支障は出ますまい」
「……確かにいい案だな」
「自然も豊か……、生活しやすい場所で王都からさほど距離もない。あそこなら……
――ネグルか……。あそこなら多少の不便さはあるだろうが、生活する上では心配することはないだろう。王都にも近い分、私も様子を見に行きやすいな。
こうして魔導師たちの同意も得られ、モモナの行き先が決まった。
――あとは
「彼女は近衛騎士団で送り届けよう」
「何を仰いますか!お忙しい近衛騎士団の皆様の手を煩わせる必要などございません。こちらで移送の準備はさせていただきます」
「ではお願いしよう。私たちもまだ執務が残っている故、モモナ殿によろしく伝えておいてくれ」
「畏まりました、陛下」
――こいつらは頼りないが……父上の決定は絶対だ。あとで使いの者に確認させるとするか。
どこか胡散臭さが漂う魔導師たちを背に、父と私は部屋を後にした。
「父上……。モモナ殿を彼らに任せても良いのでしょうか」
隣を歩く父へ尋ねるも、呆れたような表情をした父はため息混じりに答えた。
「ミハイルよ。この国は今、危機的状況なんだぞ。頼みの綱だった女神の加護ですら得られていない。役に立たない者の心配をするよりも大事なことがあるだろう」
父と目が合った途端、背筋が凍るような感覚を覚えた。
――あぁ……、父上は
「……申し訳ありませんでした」
「わかれば良い」
どうすることもできず、そのまま私は黙って父の後に付いていった。
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