ハサウェイとボク～白狼神話～

47.英雄

【食物連鎖（しょくもつれんさ）】

　自然界（しぜんかい）の成（な）り立（た）ち。例（たと）えば、［鹿（しか）］が草（くさ）を食（た）べる→［狼（おおかみ）］が鹿（しか）を食（た）べる→狼（おおかみ）のフンや死骸（しがい）が栄養分（えいようぶん）となり、また［草（くさ）］が生（は）える……これを繰（く）り返（かえ）す事（こと）で、自然界（しぜんかい）は保（たも）たれているんだ！

『そうだ、人間（にんげん）たちは身勝手（みがって）だ。だが！陽菜（ひな）のように自然（しぜん）や動物（どうぶつ）を守（まも）る者（たち）たちもたくさんいる』

『だから、私（わたし）たちは人間（にんげん）たちを恨（うら）んではいないし、共存（きょうぞん）を望（のぞ）んでいる。実際（じっさい）、陽菜（ひな）にこうして生（い）かされている』

　サウスとノースは、ボクの目（め）を見（み）て思（おも）いの丈（たけ）を述（の）べた。

「確（たし）かに。今（いま）の自然界（しぜんかい）は崩（くず）れている。食物連鎖（しょくもつれんさ）の頂点（ちょうてん）である狼（オオカミ）がいない事（こと）で、鹿（しか）や猪（いのしし）は増（ふ）え、農作物（のうさくぶつ）や山（やま）の草木（くさき）がたくさん食（た）べられている。山（やま）は破壊（はかい）され、結局（けっきょく）人間（にんげん）も困（こま）り果（は）てている……」

〖おっしゃる通（とお）りです、ミコト様（さま）。天迦久神（アメノカク）は邪神（じゃしん）。狼（オオカミ）も人間（にんげん）も関係（かんけい）ない。自分（じぶん）さえ良（よ）ければそれでいい身勝手（みがって）な輩（やから）です〗

　大神様（おおかみさま）は、またまたボクをミコトと呼（よ）んだ。しかも、敬語（けいご）？！

「あのぉ……そろそろミコトさんの事（こと）を教（おし）えてくれるかい、陽菜（ひな）ちゃん」

「あっ！そうだったね、ごめん！」

〖陽菜（ひな）、我（われ）から話（はな）そうぞ〗

　大神様（おおかみさま）は、これから想像（そうぞう）を絶（ぜっ）する話（はなし）を口（くち）にする。

　その昔（むかし）、日本武尊命（ヤマトタケルノミコト）という日本（にほん）の神（かみ）がいた。ミコト様（さま）は、三種（さんしゅ）の神器（じんぎ）がひとつ草薙剣（くさなぎのつるぎ）を手（て）に、全国（ぜんこく）を巡（めぐ）り、邪神（じゃしん）や魔物（まもの）を退治（たいじ）していた。言（い）わば日本（にほん）の英雄（えいゆう）なのだ。

　旅（たび）の途中（とちゅう）、ミコト様（さま）はここ獣護山（ししもりやま）を通（とお）った。すると、深（ふか）い霧（きり）と共（とも）に邪神（じゃしん）天迦久神（アメノカク） が現（あらわ）れた。ミコト様（さま）は激戦（げきせん）のすえ、天迦久神（アメノカク）を退治（たいじ）した。しかし、霧（きり）が晴（は）れず道（みち）に迷（まよ）われた。そこへ現（あらわ）れたのは白（しろ）き狼（オオカミ）。この山（やま）を知（し）り尽（つ）くした狼（オオカミ）は、ミコト様（さま|）を道案内（みちあんない）した。深（ふか）く感謝（かんしゃ）したミコト様（さま）は、その狼（オオカミ）を眷属（けんぞく）とした。眷属（けんぞく）とはすなわち、神（かみ）に仕（つか）える者（もの）のこと。そして、ミコト様（さま）はこの山（やま）に獣護神社（ししもりじんじゃ）を建（た）てた。眷属（けんぞく）となった白（しろ）き狼（オオカミ）に、この山（やま）を邪神（じゃしん）から護（まも）る使命（しめい）を与（あた）えた。そして、こうおっしゃられた……

〖邪神（じゃしん）天迦久神（アメノカク）が復活（ふっかつ）した時（とき）、我（われ）はまた主（ぬし）の元（もと）へ現（あらわ）れよう。そして再（ふたた）び邪神（じゃしん）を退治（たいじ）する〗

　……と。

　陽菜（ひな）ちゃんは、この話（はなし）に補足（ほそく）した。

「眷属（けんぞく）となった白（しろ）き狼（オオカミ）は、精霊（せいれい）になりミコト様（さま）の帰（かえ）りを待（ま）っている。それが、ここにいる大神様（おおかみさま）なの」

『何（なん）だって？！大神様（おおかみさま）が……！！』

　ハサウェイは、思（おも）わず吠（ほ）えた。もちろん、ボクたちも驚（おどろ）きのあまり、口（くち）をあんぐりと開（あ）いたまま固（かた）まった。

　そして……この後（あと）、ボクはさらに驚愕（きょうがく）する。