第3話

帰り道、道端の電柱にシールが貼られているのを見つけた。

手のひらより小さい正方形のシール。キャラの絵が描いているわけでもなく、ただ綺羅びやかな銀色の模様が描いてあるだけ。

普段なら別になんとも思わないのだが、そのシールが少し剥げかかっていた。

こういった気になるものはものは良くない。スッキリさせたほうが気持ちが良い。

電柱の前で立ち止まりシールを剥ぐ。

──ツリィっ

とシールは綺麗に電柱からその身を剥がした。

そのまま気分良く去ろうとしたのだが、その電柱の裏側にも同じようなシールが貼られていることに気がついてしまった。

そのシールは電柱にぴたりと、丁寧に貼り付けてある。

まあ綺麗に貼り付けてあるなら、とその場から離れようとしたのだが、ふと妙な懸念が脳裏を過った。

(自分がこのシールを貼ったと思われやしないだろうか)

辺りを見回す。いや、勿論自身が貼ったわけではない。当然に理解しているのだが、なぜか人に見られてはいけないといった焦りを感じた。

じわあっと背中から嫌な汗が流れる。いや、別に人に見られていても問題は無い。問題はないのだ。だって自分は何もしていないんだから。誰かが貼ったシールを、剥いだだけだ。むしろ良いことをしたと言えるだろう。電柱にこんなもの貼ってはいけないのだから。

しかし、脳内を駆け回る理屈とは裏腹に身体はじめりとした粘っこい汗を流している。

(すでに、誰かに見られてしまったんじゃないか)

また辺りを見渡す。自分以外の人影は見当たらない。焦りが動悸を早め、息も荒くなる。

シールに手を伸ばし爪を食い込ませる。自分が貼ったと思われたらたまったもんじゃない。剥がさなければ、剥がさなければ。

カリカリとシールを剥がそうとするも、なかなかに粘着力が強く、うまく剥がせない。

ふと、後ろに誰かの気配を感じた。

ヤバい。見られた。早く、早くシールを剥がさなければ。

全身から汗が噴き出る。焦りが脳を急がせる。

カリカリと爪を立てながら、必死にシールを剥いでいく。

背後の気配が近付いてくる気がする。熱いと吐息がもれているような、荒い息遣いを感じる。

来る前に、剥がさなければ、急がなければ。

──ペリィっ

シールは綺麗に剥がれずに、白い部分を残しながら銀色の上部分だけが剥がれてた。

これではだめだ。後が残ってしまう。

背後の気配はもうすでに、近い場所まで来ている。

両手を使い、必死に残りを剥いでいく。爪が歪に割れ、血が滲み始めていたが気にしている場合ではない。

じゅり、じゅりっと足音が真後ろで聞こえる。ハァハァと聞こえる吐息と共に、汚物を煮詰めたような嫌な臭いが鼻に潜り込んでくる。

──ピチぃ

最後に残ったテープ欠片が取れると同時に人差し指の爪が剥げた。

背後の気配も、いつの間にか消え去っていた。

これで勘違いされることはない。なにも問題はないんだ。

胸を撫で下ろし、そのままその場から去った。


翌日、同じ道を通るとそこには電柱などなく、

昨日剥いだであろうシールの残骸が地面に残っているだけだった。

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