リア充っぽいけれど、やってることはむっつりスケベ――3

 三つ目の駅で降車して、俺たちは改札を出た。


 歩くこと一〇分。ついに俺たちは、目的地にたどり着く。


 全国展開している同人ショップ『りゅうのほら』の一店舗。ここが花咲さんの言っていた、年齢確認をしていない店舗らしい。


「いよいよだね、花咲さん」

「うん。サイン本まではもう少しだよ」


 俺と花咲さんは顔を見合わせる。


「行こう」

「行こう」


 足並みを揃え、ふたりで一緒に入店した。




 店内を奥へと進んだ俺たちは、とある暖簾のれんの前で足を止める。


 暖簾にはR―18の文字。ここから先は、未成年は立ち入り禁止だ。


 エロコンテンツを愛する俺たちにとって、この先は天国であり、同時に、年齢がバレたら即アウトの危険区域でもある。


「……流石に緊張するね」

「大丈夫だよ、火野くん!」


 つい尻込みしてしまった俺に、花咲さんが豊かな胸を張ってみせた。


「ふたりで行けば大丈夫! わたしがついてるよ!」

「おおっ! 頼もしい!」

「死ぬときは一緒だからね!」

「道連れって意味かーい!」


 ツッコミを入れると、「えへへへ」とはにかみながら、花咲さんが後頭部に手をやった。


 ツッコミこそしたが、本当に怒っているわけではない。花咲さんの真意はわかっている。俺の緊張を解すためにわざととぼけてみせたのだ。


 つられるように笑みをこぼし、俺は花咲さんと一緒に暖簾をくぐる。


 暖簾の先には大量の棚があり、棚に並んでいる商品は、いずれもやたらと肌色面積が多かった。それらすべてが一八禁なのだから、当然ではあるけれど。


「ねえ、火野くん。こういうエッチな場所に男女ふたり組がいるのってさ? 特殊なプレイみたいで興奮しない?」

「クラスのみんなには絶対に聞かせられない感想」

「そんなこと言ってるけど、火野くんはどうなの?」

「ぶっちゃけ、ちょっと興奮してます」

「火野くんもエッチじゃん」


 バカみたいなやり取りをして、俺たちはクスクスと笑い合う。さっきまで尻込みしていたのが嘘みたいに、俺と花咲さんははしゃいでいた。


 サイン本が手に入るのはもちろん嬉しいけど、それだけでは、ここまでテンションは上がらなかっただろう。


 きっと、花咲さんと一緒にいるからなんだろうなあ。


 そんなことをしみじみと思いながら進み、俺たちは新刊売り場に到着した。


「あ! 火野くん、あれじゃない!?」


 花咲さんが指さす先に、明らかにエッチな目に遭っている女性が表紙を飾る、同人誌が積まれていた。タイトル『中出し懇願するまで姫騎士を快楽調教してみた』。スカーレット先生の新作だ。


「やっぱりスカーレット先生の作品は最高だよぉ。表紙だけでもムラムラするぅ」

「激しく同感」


 すでに発情しているらしく、赤く染まった顔をとろけさせる花咲さん。


 同じく欲情しているものの、俺にはひとつ疑問があった。


「ただ、これらにサインは書かれているのかな? ほかの同人誌と一緒に平積みされてるけど」

「言われてみれば、たしかに」


 我に返った花咲さんがコテンと小首を傾げ、「あっ」と声を漏らす。


「あそこに書いてあるよ! サイン本はレジカウンターで買えるみたい!」

「本当だ! じゃあ、レジに行こうか!」

「うん!」

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