リア充っぽいけれど、やってることはむっつりスケベ――2

 年齢確認をしていないといっても、制服を着ていくのは流石さすがにマズい。


 そこで俺たちは一旦いったん帰り、できるだけ大人っぽく見える服装に着替えてから、再び集まることにした。


「これで大丈夫かな?」


 待ち合わせ場所である駅前で、俺は自分の格好を再確認していた。


 白いティーシャツ、紺色のジャケット、黒いチノパンに同色のスニーカー、ボディーバッグも黒色。シンプルで落ち着いたコーディネートにしてみたが、大人っぽく見えているだろうか?


 花咲さんが来たらいてみよう。


 そう決めて、「うん」と頷く。


 ちなみに、待ち合わせ場所が駅前なのは、花咲さんが言っていた店舗が離れた位置にあり、電車で向かわなければいけないからだ。


 スマホを取り出して時刻を確認。ワクワクしすぎて早く来てしまった。約束の時間までまだ二〇分もある。


「俺のことを待たせたと花咲さんが思っちゃうかもしれない。『いま来たとこ』って言ったほうがよさそうだ」


 そんなことを考えて――なんだか照れくさい気分になってきた。


「……この状況、まるでデートだな」


 お出かけするために男女が待ち合わせ。俺が第三者だったら、『それってデートだよね』と指摘するはずだ。


「ま、まあ、俺と花咲さんは恋人じゃなくて親友だから、デートではないんだけどさ」


 照れくささを紛らわすため、誰に向けるでもなく言い訳を口にしていると――


「火野くん、お待たせ!」


 若干じゃっかん慌てているような、花咲さんの声が聞こえた。


 俺は笑顔で振り返る。


「大丈夫。いま来た――」


 先ほど考えた台詞を口にしようとしたが、できなかった。小走りでやってくる花咲さんに、目を奪われたからだ。


 クリーム色のカットソーに、黒いチュールスカート。足元を黒のパンプスで飾り、クリーム色のハンドバッグを肩に提げている。


 軽くメイクをしているのか、可愛い寄りの顔立ちは、いまは綺麗寄りに映った。


 ただでさえ美少女である花咲さんが、洗練されたファッションをしている。美しいとしか言えない。いや、『美しい』という表現では足りないほど美しい。


 俺と同じように周りにいるひとたちも、一様いちように花咲さんに視線を向けて、呆けている。


 この場にいるすべてのひとを魅了しながら、花咲さんが俺の前までやってきた。


「早いね、火野くん」

「…………」

「火野くん?」

「え? あっ? う、うん!」

「どうしたの? なんだかボーッとしてたみたいだけど」


 花咲さんが心配そうに眉根を寄せた。


 頬をポリポリとき、俺は苦笑する。


「ゴメンゴメン。花咲さんに見とれていてさ」

「ふぇっ!?」


 花咲さんが目をまん丸にして、頬をポッと染めた。


「えと……似合ってる?」

「メチャクチャ似合ってる」

「えへへへ……照れちゃいますねぇ」


 素直に褒めると、花咲さんがふにゃりとはにかんだ。とても可愛らしい。


 あまりの可愛さにキュンキュンしながら、両腕を広げて花咲さんに尋ねる。


「俺のほうはどうかな? ちゃんと大人っぽく見える?」

「ちゃんと見えるし、似合ってるよ」

「本当?」

「うん! とってもカッコいい!」

「そ、そっか」


 前のめりになった花咲さんが、輝かんばかりの笑みを見せる。花咲さんに褒められたことと、惚れてしまいそうなほど素敵な笑顔に、俺は照れ笑いを禁じ得ない。


 なんか、こういうのいいな。青春っぽくて。


 擬似的なデートイベントに、心が浮かれるのを感じる。けど、今回のメインイベントは別だ。


「じゃあ、案内してくれる?」

「うん。行こう」


 俺たちは頷き合い、駅の構内へと歩き出した。


 きっと、俺たちの目はギラリと輝いていることだろう。それこそ狩人の如く。


 無理もない。これから俺たちは、スカーレット先生のサイン本を手に入れに向かうのだから。

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