変態的だけどワクワクがある関係です――2

「いやー、語ったなあ」

「うん。こんなに語り合ったのははじめてだよ」

「まあ、語り合えるひとなんて、いままでいなかったしね」

「あははは、それもそっか」


 気が済むまで語り合い、気づけば空はオレンジ色に染まっていた。


 自分の素をさらして語り合った結果、俺たちの距離はさらに縮まり、いまでは互いのことを、親友・同志と認めるまでになっていた。


 会計を済ませ、俺たちはファミレスをあとにする。


「じゃあ、気をつけて帰ってね、花咲さん」

「うん。……本当にありがとう、火野くん」


 笑顔で別れの挨拶を口にすると、花咲さんが深々と頭を下げてきた。


「えっ!? ど、どうしたの? いきなり頭を下げて」

「スマホを拾ってくれたのが火野くんでよかった。もし、ほかのひとに拾われていたら、わたしの日常はメチャクチャになっていたかもしれない」


 言われて気づく。


 花咲さんが、俺に秘密を知られても大丈夫だったのは、俺が花咲さん=『みゃあ』さんを推していたからだ。


 しかし、ほかのひとではそうはいかない。もし、そのひとが花咲さんの秘密を知ったら、周りに言いふらしていたかもしれない。そうなれば、花咲さんはいままでどおり学校に通うこともできなくなっていただろう。最悪、停学や退学もあり得る。


 いや、それでもマシなほうだ。拾ったひとの性根が腐っていたら、秘密を明かさないことを条件に、花咲さんを脅していたかもしれないのだから。


「火野くんのおかげで、わたしはこれからも平穏な生活を続けられる。どれだけお礼を言っても言い足りないよ」

「お礼なんていいよ」


 頭を上げるよう花咲さんにうながして、俺はニカッと笑う。


「推しとお近づきになれたし、エロコンテンツを愛する同志もできたし、なにより花咲さんは、いつもオカズを提供してくれているからね。お礼なら、すでに充分すぎるほどもらっているよ」

「ふふっ、火野くんは優しいね」


 花咲さんが俺に笑みを返し――なにか閃いたように、「あっ」と声を漏らした。


「『いつもオカズを提供してくれている』か……それなら……ああしたら、もっと喜んでくれるかも……?」


 視線を斜め上に向け、顎に指を添えながら、花咲さんがブツブツと呟く。まるで、頭に浮かんだアイデアをまとめているかのように。


 俺は首をかしげた。


「なにか考え事?」

「うん! あのね、火野くん……」


 明るい声で問いに答えようとした花咲さんが、途中で言葉を止める。


「……やっぱり秘密」

「それ、一番気になるやつなんだけど」

「あははっ、ゴメンね」


 ジト目になる俺に、花咲さんがニンマリと笑った。


「すぐにわかるよ。楽しみにしててね」

「え? わ、わかった」

「じゃあ、また明日」

「また明日」


 意味深な笑顔と言葉を残し、ヒラヒラと手を振って、花咲さんが去っていった。

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