フィフティーフィフティー
滝口アルファ
フィフティーフィフティー
私は一人旅をしていた。
所持金は少なくなっていたが、
空腹を感じて、
見知らぬ街の見知らぬレストランに入った。
席に着くと、
ウエイターが金色のメニュー表を持ってきた。
しかしそこには、
〈フィフティーフィフティー〉(無料)の
一品しか書かれていなかった。
私は訝りながらも、
空腹だったので、
間髪を入れず、
それを注文した。
どれくらい時間が経ったのだろう。
店内に時計は無く、
スマホは、
旅に出る前に捨ててしまっていた。
30分か、1時間か、2時間か。
やがて料理が運ばれてきた。
すると、
モナリザのような店主が
いきなり現れて、
料理の説明を始めた。
「本日はご来店いただき、
誠にありがとうございます。
こちらが当店特製の
無料の一品料理、
〈フィフティーフィフティー〉で
ございます。
お客様の右手側には、
産地直送のケンタウロスの肉の
ミディアムのステーキ。
お客様の左手側には、
ミノタウロスの搾りたての乳を
発酵させたヨーグルト。
そして、
ここからが当店のオリジナルでございます。
そのどちらか一方には
致死毒の毒が含まれており、
召し上がると即死されるでしょう。
しかしながら、
もう一方を召し上がると、
当店から賞金10億円を差し上げましょう。
さて、
お客様はどちらを
お選びになりますか?」
私は思った。
(なるほど。
だから、
フィフティーフィフティー
というわけか。)
さらに、
私は思った。
(空腹を満たすには、
どう考えても、
ケンタウロスのステーキが喰いたいが、
しかしそれでは、
あまりにも普通すぎる。
ということは、
裏をかいて、
ミノタウロスのヨーグルトが安全か。
しかしそれも単純すぎる。
裏の裏をかいて、
やはりここは、
ケンタウロスのステーキが安パイか。)
私が考えれば考えるほど、
モナリザ店主のほほえみが、
光り輝いていくように感じられた。
私は思った。
(これは罠だ。フェイクだ。
何の見返りも無く、
賞金10億円という大金を
こんな一見(いちげん)の客に
与えるはずがない。
おそらくどちらにも
毒が入っているに違いない。)
そう推察した私は、
「失礼。」
とだけ言って、
一目散に店外へ脱出した。
外は皆既月食まっただ中だった。
また、
さきほどの奇妙なレストランで、
奇妙な体験をしたせいか、
空腹感も、
私の中から逃げ出していた。
(なるほど。
あのデスゲームみたいな
料理を振る舞うレストランは、
この皆既月食が引き起こした、
幻想レストランだったのかもしれないな。)
そう思っているうちに、
疲れからだろうか、
皆既月食の世界の闇と、
私の内部の世界の闇は、
まるで
双子のように感じられて、
夜という時空と、
私という時空の
境界線が無くなるような
錯覚を感じていた。
ともあれ、
どうする?
このまま一人旅を続けるか、
それとも一人旅を諦めるか、
それが問題だ。
しかし、
私の結論は、
端(はな)から決まっていた。
たとえ
野垂れ死んでもいい覚悟で、
挑んだ一人旅だったのだ。
この選択は、
断じて、
フィフティーフィフティーではない。
原点回帰
あるいは
初志貫徹。
私は、
自分の最初の覚悟が
ダイヤモンドのように
光り輝くのを感じていた。
皆既月食に
静かに響(どよ)めいている、
見知らぬ街の見知らぬ並木道。
希望が仄かに薫る方へ
踵(きびす)を返して、
私は一人旅を続けた。
フィフティーフィフティー 滝口アルファ @971475
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