走馬灯はきっと、貴方との想い出
「なぁ
「急になんだよ、嫌だからねお前看取るのとか」
高校を卒業後、すぐに小説家として2人でデビューを果たす
東京に引っ越して、普通の会社員と小説家の二足の草鞋を履いて忙しくしていたある日の深夜
仕事が終わってから何時もの様に2人で晩酌を楽しんでいると、志音がそんなことを言う
「そーいうことじゃなぁい、アタシたちの思い出ってほら、色々あったじゃん?」
だから、死ぬときも一緒だよって話 なんてぼんやりと缶ビールを傾けながらえげつない事を口走る彼女
確かに、同性パートナーと言うだけで世間からの目は良いものではなかった
それでも大事な人は手放さない一心で社会的にも何も言われないような立場まで行った今がある
「そりゃ、死んでもだろ 絶対離さねぇからな」
こつ、と手にしていた缶ビールを机に置いてそう告げる
勿論、離す気なんてさらさらない
タバコ吸おうぜぇ、と煙草の箱を持って窓際へ
窓を開けて志音の持ってきたライターで煙草に火をつけ、吸い始める
「やっぱさ、私らはまだ逝かないで良いと思うんだ
楽しい盛りだし、仕事も安定してるしさ、向こうに行くときは一緒だから言ってね」
「はいはい、わかってるよ アタシだって逝くべき時はお前に言ってからって決めてるよ」
なんて、夜の東京を見下ろしながら狭い部屋の窓辺で煙草を短くさせていたあの日は、嘘だったのだろうか
一緒に逝こうと言ったはず
死んでも一緒って言ったはず
「お前なんかと結婚したからだ! お前なんかが、杠を誑かしたから、、、!」
大事な人の葬式、葬儀場に行ってすぐに杠の母親から殴られる
罵倒され、公衆の面前で殴られて
それでも、彼奴との約束だから手をあげることなんて選択肢にない
ただ、謝るだけ
(アタシなんかと結婚したから、なんて アタシが一番思ってるよ)
____________________
何もなくなった部屋で一人、窓辺に座って煙草をただ短くさせる
この時間に、同じく煙草を短くさせながら楽しそうに話していた大切はもう居ない
どうしようもなく無気力に過ごしていたが、もう何もいらないだろう
私には、彼奴が居ないと駄目だったんだって
やっと気が付いたころに、伝えたい奴は居ない
「、、志音、お前の走馬灯は私だったか?」
と、帰ってくる返事に期待もできないのにそんなことを呟く
程よく短くなった煙草を灰皿に押し付けて、部屋にあった小さいブロックメモに ” さようなら ” とだけ書いて部屋を出る
行先は、地元
あの日、部活から帰ろうといたタイミングで想いを伝えられたあの場所へ、帰ろうとしていた
タクシーで数時間
最寄りの停留所についてお金を払い足を進める
あの場所について、バッグに入れていた1シートの睡眠薬とペットボトルの水
暫くは見つからなさそうな場所へ身を移して1シート分の睡眠薬を取り出しては水で流し込む
朦朧としていく意識、重くなっていく体
流れてくる記憶は、どれもこれも、大好きだった、愛おしかった大事な彼奴との時間
最後の記憶なんて、あの日の晩酌の記憶だった
( また、向こうでも一緒になれるかな )
また向こうでも硬く繋ぎ合った手、一度離れた手だが、向こう側で再度繋ぐ事が出来れば
そんなことを願い、意識を手放す
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