ただ切っただけなんだけど、ねぇ
「はよ~、ございます!」
もう慣れた出勤報告を入れて2か月前からの恒例となった騒がしい出迎えに苦笑いしつつ流し聞く
今日は、アジトで書類雑務だ
師匠は、、まだ来ていない
「海里クン、おはよウ」
「ん、リリィさんじゃないすか おはようございます。 師匠って見ました?」
「ボス? ボスは見てなイな さっきボクが報告入れタ時には居たと思ウけど」
「そっか、、、有難う御座います、ちょっとその辺探してきますね!」
行ッてらっしゃイ、と小さく手を振る先輩を横目にヘリポートへ走り去る
もしかしたら銀行強盗行ってそのまま捕まったのかな、なんて思いつつその辺をヘリで回ってみると、2648に見慣れた黒と白の少し傷ついたヘリの姿が
隣にヘリを下ろし、目の前にあった美容室へ入る
「、、あれ、スズ、!? なん、今来たの?」
目の前には、綺麗だった白い髪と黒い差し色の入った長い髪を肩まで切った師匠の姿が
「え、、先輩、切っちゃったんですか、髪」
「あ~、ちょっとね うん やっぱ大型ン時とか邪魔じゃん?」
軽い感じで言うが、視線が逸れている
嘘をつかれた
「、、やっぱ長いとそうですかねぇ、、俺も切らねぇとかな」
「ん~、まぁスズはそのまんまで良いんじゃない? さ、そろそろ帰ろうか」
みんな待ってる、と無線を指さしては微笑んで、そんなことを言う師匠の後ろについて美容室を出る
( __なんて、言えるわけねぇよなぁ、、 )
なんて、思いには気が付かないふりをして、また空へ
___________________
最近、弟子がべったりだ
銀行強盗や大型、何かにつけて隣に居る
アンダーボスとしての席を設けているが、それにしてもずっと隣に居るのは、、嬉しいが少し困る
「なぁスズ~、? なんか最近距離近くない?」
「いや、そんなことないっすよ、ハイ 仕事しましょ」
思いっきりはぐらかされつつも手は動かす
抗争で使った費用や、市役所からの司法関係の資料
削除、署名、保存の単純作業を繰り返して10分ほどで終わらせる
「じゃ、ちょっと退勤切って買い物にでも行ってこようかな」
書類片手に立ち上がってはそんなことを言うと、心配そうに見てくる弟子
「な~あに、連れてかないよ今回は」
「わかってますよ!! 行ってらっしゃい、気を付けてくださいね」
「はいはい、簡単にダウンはしないよ~」
ひらり、と軽く手を振って退勤 向かう先は宝石店
想い人への贈り物、なんて
誕生日と言う理由で隠して本音を伝えたい、なんて普段はしないような思いからちゃんと選ぼうと思い立ち宝石店へ
「、、、なぁ署長さぁちょっと、、なんで、? 強盗じゃないって言ったじゃん!?」
「今は署長じゃなく、
「んでだよ、、鋭すぎだろ梓お前、、」
項垂れつつ入店
店内にある宝石をどれが良いか見ていると、海里の瞳と同じ色をした宝石が使われたシンプルな指輪が目に留まる
「ん、それいいじゃないか 彼の瞳にも合っている」
「だよな、? 結構シンプルだし、やっぱね、これ渡すなら」
ウン、なんて高速詠唱をしている横でニヤつく梓の横腹に取り敢えず一発入れて購入、店を出てアジトへ帰る
(__なんて、こんな事でもなけりゃ言えないよな)
なんて、自分の意気地なさに嫌気を覚えつつも緊張と共に我が家へとヘリを飛ばす
________________
「ねぇリリィさん、、、やっぱ脈なしなのかな俺」
「ン~~、、わかんないケド、そんな事ハ無いンじゃないカナ」
「だと信じるしかないっすよね、、、聞けるわけもないし、」
ウジウジしててモ変わらないヨ、海里クン なんて怒られつつ片手間に強盗を進める
今日の強盗はリリィさんと個人医のイーラさんと俺の3人
このメンツで行くときは誰かがメンブレしたときや相談があるときが大半
「やっぱ一回聞いてみるのもありじゃない? 俺等使っていいからさ」
「まぁ、、マジでどうしようもなくなったら頼むかもしれないです、、ハイ、」
なんて銀行内のセキュリティを崩しながらすでに空いている金庫のお金を2人が入れつつそんな話をしていると無線が鳴り、2人は一度手を止めて無線に手を掛けるが、セキュリティ突破に時間をかけている俺には無線を取り出す暇がないため、ハックに専念
「ちょ、海里君あんたハック終わったら急いでアジト戻って」
「ぇ、何すか急に? もう丁度終わったんすけど」
いーから! と、急かされて強制的に戻される
何がどうなってんだ、、なんて困惑しつつアジトのヘリポートにヘリを格納してエントランスを通り抜けて会議室へと向かう
そこには、珍しくちゃんと深紅のスーツに黒いワイシャツを身に纏った師匠の姿が
「あ、呼んだの先輩だったんですね、抗争準備か何かですか? それか会合ですか?」
「あ~、、えっと、これ、あげる 誕生日近いでしょ?」
なんて言われて差し出されたのは、小さな箱
「え、有難う御座います! 嬉しいな贈り物なんて、」
と、軽い気持ちで開けたそこに入っていたのは、自分の瞳と同じ色の宝石が使われた 指輪 だった
「えぇ、、っと、、先輩、これは?」
「、、っと、素直に言うね」
待ってくれ、こんな事あっていいのだろうか
眼中にも置かれていないと思っていた、大好きだった人に贈られたものは、永遠を誓うもので
自分の瞳の色と同じ色をした贈り物なんて
「スズ、警察時代からずっと、好きでした
全力で守り通すから、隣に居させてください」
「、、、俺で、良いなら、一生を掛けて守り通します」
今日、警察時代から追いかけて来た人との関係は、やっと、恋人の関係に
「ライ先輩、髪切ったから失恋したのかと思ってマジで泣きましたよ俺」
「嗚呼、あの頃ずっとべったりだったのそう言う理由か! 可愛いな、ただ切っただけでそんな、ねぇ?」
師匠を照れさせるのには、まだ時間が必要そうだ
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