第17話 この先へ

 全員飛べるようになったので、入り口の中にある高級店で、一応の打ち上げをした。


「明日からは8キロでいいか」

「左右に入って、少しずつ奥に行く?」

「勿論、ここまで上手やれたから、焦ることはない。俺達の獣身は9月過ぎだな。それでもありえないんだが」


 遠藤先輩はキンクマさんと同じ大灰色熊(キンクマさんのはそれのレアの白色に、後から金毛を足した)。

 ダンジョングリズリーなので、略しでダンズリのあだ名がある。

 近藤先輩は、空中を駆ける天駆持ちの大三角羚羊が欲しい。

 こっちはあだ名はない。


 まず、8キロ右の山羊の群れから、剛突を盗る。

 10頭前後で来るので、デバフで這い回っているのに奪取をして、剛突が盗れたら希望者に渡し、後は肉を盗る。

 融合に時間が掛かるので、1群れから剛突は1つにした。


 山羊エリアを突破すると、それを襲う設定の狼の群れが出て来る。

 八キロエリアのモンスターなのに、入り口付近に出たために、雑魚群狼などどいう可哀想な名前を付けられてしまった。

 皮しか盗れる物がないので、仕方ないかもしれない。


 宝の山からは、攻撃力5%増しの、金の力の指輪が出た。

 もう少し奥に行っても、オオカミが大きくなるだけなので、行って見た。

 金の鈴腕輪が出る。金塊も出たので、桝澤先輩を召喚した。

 何故か稗田さんもいっしょだった。

 忍者の人が詰め寄る。


「まさか、マスの素人童貞を貰ってやったりしてないだろうな」

「今更何を言ってるの。マスはあんたらの専属みたいに思われてて、ハニトラ受ける側だよ。フュージョンしたせいで、男からも誘われてる」

「キモいから止めろ」

「そっちから振った話じゃん」


 なんか言ってる間に桝澤先輩は、レース編みのような甲革付きの金のサンダルを作り上げた。


「マス、それあたし等にも作って」

「お前等は、稗田にオオカメの皮でズックでも軍靴でも作ってもらえ」

「何処の方言だよ」


 女性陣は、稗田さんに狼革で普段履きを作ってもらった。

 フルブローグとか作れるようになっていた。

 ちなみにズックは、布で出来た靴のことらしい。

 朝までに、レース編みの金のニプレスとファウルカップも出来た。


「舞祈祷師の装備は隠すためではなく、相手の目を引き付ける物であるべきだと思う」

「そうですね」


 つかさちゃんが納得してるからいいが、この先舞祈祷師が出にくくなるんじゃないかとも思う。

 8キロ右は、群狼エリアを越えると、馬エリアに入る。

 輓馬みたいな頑強な馬が群れで襲って来る。

 プチスタンピードである。

 ま、ダブルデバフの前では、こけて起き上がれなくなるだけだが。


 馬革と馬肉と、剛脚持ち。

 脚力や蹴りだけでなく、空跳天駆の威力も上がるので、全員分盗る。

 宝の山からは、金の腕輪や、アームレット、三日月型の鎖編みのネックレス(首の後ろで止めるのではなく、貼り付く)なんかが出る。

 金の鈴足輪と手鈴も出た。


「金の打ち琴は、もっと奥に行かないと、駄目か」


 金の手琴を振りながら、吉田さんは不満げ。

 威力は銀の打ち琴より高いのだけど。

 馬エリアのぎりぎり奥まで行ったら、銀の棒が出た。


「多分、鋼銀だと思う」

「採集で判らない物なのですか」

「ああ、8キロ物は俺達のじゃ判らない」


 持って帰ったら、桝澤先輩の目付きが変わった。


「お前らの武器、全員取り替えろ」


 作ってくれるなら取り替えたい。

 鋼銀は金属なので、鋼と同じ形に加工できる。

 当然錬成レベルが必要だが。

 武器の他に盾も鋼銀で作り直した。

 防御力だけでなく、精神攻撃を半減する金の仮面も出て、グリズリーの威圧咆哮対策も出来た。


 8月になって、武器が新しくなったので熊エリアに挑むことにした。

 右でアイテムを出して、左に行く。

 こっちの熊エリアに居るのはヒグマとクロクマ。

 後、大鷲が来る。

 熊は1頭ずつしか来ないが、アジアゾウよりは小さいくらい。

 ダブルデバフで這って歩く。


 根性で這いながら、威圧の咆哮を浴びせて来るが、威圧慣れの練習にしかならない。

 融合するのに攻撃力が必要な豪打持ちなので、欲しい人に盗る。

 該当者は遠近コンビだけだった。

 左に行くと全員該当する剛打持ちがいる。


 待望の金の打ち琴が出たので、左に行く事になった。

 いきなり奥まで行かずに、1エリアずつ進んで行く。

 こっちの入り口は山羊の群れ。

 肉と皮の他にカシミアが盗れる。表示は山羊毛やぎもうだけど。

 ここまで毛が盗れる山羊がいなかったのも、不思議なのだが。


 山羊毛を持って帰ると、稗田さんが狂喜した。


「ずっとこれ獲って暮らそうよ」


 遠藤先輩が否定する。


「スタンピードがなければそれでもいいが、事が起きてから、最大限の努力をしなかったのを後悔したくない」


 それでも稗田さんの希望も無碍には出来ないので、カシミアを盗って来る。

 レアドロップで、奪取じゃないとなかなか落ちないものだった。

 ショールにしたら女性陣の受けがいい。

 セーターなんかも防具として装備出来ない代わりに、つかさちゃんが普段着に出来る。


「麦わら帽子は冬に買え。カシミアコートは夏作れ」


 意味不明の事を言われて、入り口山羊ばかり獲った。

 多少は山羊エリアを越えもした。

 次は顔も毛だらけの2メートルのニホンザル、七尺狒々。

 猿は木から落ちる。デバフ最凶。


 空跳の下位互換、2、3回空中を蹴って跳べる空蹴を持っていて、集団で来られるとかなり危ないのだが、ナマケモノみたいに這うだけならどうにでも出来る。

 経験値稼ぎ用でしかないので、宝の山を崩したらとっとと行こうとしたら、金のフルートが出た。


 次は右より大きなオオカミのエリアなのだが、灰色がノーマルで、赤、黒、白は獣身用モンスター。

 遊撃手の人が赤、忍者の人は黒が欲しいと言う。

 群れの中で戦わなければいけない上にデバフが使えないので、9月まで待ってもらう事にして、金のフルートで追い払って、お宝だけ頂こうとしたのだが。


「赤いの、いるんだけど」


 目の良い狙撃手の人、お嬢が見付けてしまった。


「雑魚は寄って来ないけど、レアは来るわけ?」

「取り敢えず、やってみるか。フルートが攻撃になるかどうかも判る」


 先に僕が隠行で飛んで行って木の上に止まり、解除と同時に隠れマントも脱ぐ。

 僕を見たオオカミの横面に気弾が当たった。

 振り向いた鼻面に伸気突。剛脚入りの蹴りで顎を蹴り上げる。

 倒れた胸を伸気突で突いて、結晶になった。


 結晶の山から、珊瑚玉が出る。


「やった!」


 遊撃手の人が融合したが、変化はない。


「少し時間が掛かる。全員周辺警戒」


 遠藤先輩が指示する。

 そのつもりで霊核を持っていたのだが、体を造らなければならないので、獣身は簡単には出て来ない。


「よし、出来た」


 そう言った途端に遊撃手の人が消えて、さっきより一回り小さくて緋色の狼が出現した。


「どう?」


 額に付いている、ルビー様の半球体から、声と言うか音と言うかが出ている。


「いいんじゃないか。金の兜くらい付けた方が良いと思うが」


 モンスターと間違われないためである。

 生身が怪我をしていなければ、一人で獣身で歩き回る者はいないが、獣身で他人のいる処に行かなければならない緊急事態も、起こらないとは言えない。 

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