第16話 赤い鳥白い鳥
札幌市の市街地から南に下ること一時間、洞爺湖近くに北海の守護獣キンクマさんが護る10キロダンジョンはあった。
札幌市と千歳市の境の微妙な位置にあり、争いの元になっている。
ダンジョンからの上がりが市民税になるので、地方自治体としては譲れない。
キンクマさんは獣身が金のストライプのアメショー柄の白クマ(北極熊ではなく大灰色熊のレア色)で、優しくて強い見た目が軍のイメージ戦略に貢献している。
プライバシー保護の為なのか、獣身でしか出て来ない。
10キロダンジョン駐屯部隊の隊長はほぼ中佐なのだけど、この人は大佐。
日本で最初に8キロの獣身を獲った人だ。
同じ重戦士系の遠近コンビは尊敬しているが、用もなしに会える人ではない。
着いた日はダンジョンを見て入場予約だけにして、宿で休んだ。
沸かし湯だけど洞爺湖温泉から運んで来る温泉付き旅館で、気に入ったら洞爺湖の本館にも来て欲しいとパンフレットにあった。
朝から7キロエリアに入る。
大木の森で、雨の降っていない屋久島と言われている。
最初に出て来るのは、顔も毛が生えている猿のマシラ。
大きさは日本人の大人と同じ。
100匹以上の群れで襲って来るが、調伏の舞と制圧の調べの前に落ちて行く。
一度戦闘に入ると逃げないで、よたよたやって来て、倒されてしまう。
スキルは持っている物ばかりで、皮しか盗る物がない。
無限湧きではなく、群れを始末すると奥に行けるが、毎回入る度に倒さないといけない。
戦闘が終わって、最初の山から銀のフルートが出た。
吉田さんが吹くと、ふをん、みたいな穏やかな音が鳴り渡る。
「戦闘用には得意じゃないけど、所謂魔除けが出来るんだ。猿が煩わしかったら、イノシシのエリアまで吹いてる」
吉田さんにお願いして、猿エリアを抜ける。
猫耳で翼の生えた吉田さんが、銀仮面をつけてフルートを吹いているのは、スキルの効果がなくても絵になると思う。
イノシシエリアに来たら、吉田さんには休んでもらって、調伏の舞と主力のごり押しで2トン車サイズのイノシシを倒す。
デバフを掛けると、大型モンスターは自重が足枷になる。
霊力、防御、持久の上がる壮健持ちなので、全員分盗った。
後は強突の上の剛突より威力のある豪突を持っている。
豪突は攻撃力がないと入れられない上に、反撃には使えない。
「豪突いりますか」
「くれ」
近藤先輩だけ欲しがったので、もう1頭獲ってから、奥のシカエリアに行った。
背中を護る枝角と攻撃用の細い円錐が生えた、象サイズの大三角鹿がここの主。
フクロウがいるのもここ。
調伏の舞と制圧の調べの二重のデバフを受けて、巨獣が膝を付く。
後ろに回って、お尻を触る。趣味でやってるわけじゃない。仕事です。
「剛進突盗れました」
「俺、くれ」
遠藤先輩に渡した。
「剛進突か」
「剛突の方が使いやすいよね」
接近戦型の高速戦士には評判が良くない。
8キロの、群れで出て来る雑魚扱いの山羊が、剛突を持っている。
次にシカがいたら、皮にしてつかさちゃん以外の防御を上げる。
1頭で3人分なので、本体の大きさの割に、ドロップの皮が小さい。
もう1頭獲って帰った。
銀仮面中型が2枚増えた。
「明日はサルは無視して、シカエリアまで行けば、フクロウを探せるか」
「それでいいんじゃないの。夏休みに獣身、しかもグリズリー獲りに来てるのがおかしい」
吉田さんから見れば異常なようだ。
大三角鹿を獲ったので戦闘動画を提出して、7キロエリア奥到達証明を貰った。
これがないと8キロに入れない。勝手に入ったらテロ行為。
次の日は予定通りサルはパスして、イノシシエリアでお宝探し。
銀のフルートがもう1本見つかったが、後は銀塊3つ。
シカを倒して皮を剥ぐ。
少し奥に行ったら銀のダンベルの持ち手じゃない方が長方形のが出て来た。
「銀の打ち琴。鉄琴みたいな打楽器よ。キーボーダーだから、こっちの方が良いわ」
いきなり剣の舞を演奏する。
バーサーカーの僕が影響を受けた。
「むだに戦いたくなるから、今は止めて」
「ごめん」
味方に掛かるデバフじゃなかろうか。
猿を無視できるので、少し探索の時間が取れる。
宝の山を探してうろついていると、生命力感知に敵が掛かった。
「何かいます。一人でやらせて下さい」
みんなが離れてから、気配に向かって気弾を撃つと、羽毛が飛び散った。
赤い鳥だった。翼はワインレッド、腹は暗い朱色。
フクロウではない。耳がある。
二発目を撃ったら、逃げに掛かった。
機動性は高くても、直線は遅い。僕の空跳の方が速い。
隠形で逃げようとしているが、生命力感知からは逃げられない。
追い付いて背中を突き刺し、そのまま落とした。
地上に触れて崩れた結晶から、透明度の高い赤瑪瑙の珠が出た。
少し離れてしまったので、パーティに戻ってから融合する。
融合中に襲われたら助からない。
「どうだ」
「オーブ出ました」
囲まれて融合する。
髪はワインレッドより濃い暗赤色の羽毛になった。
霊晶甲は出た珠と同じ透明な赤瑪瑙、翼は風切羽を暗赤色、雨覆は元の鳥より少し明るめに。
変身したら、耳がある。
ミミズクの羽角なのだけど、耳にしか見えない。
頭の羽毛は生身より明るくなるが、少し色の濃い
「ワシミミズクのレア、ネコミミズクだったんだな。ワシミミズク自体がレアだから、URなんだが、出ないってだけだって言われてたが」
「そうですね。特に何かる訳じゃないです」
フクロウ系は取得数が少なくて判らなかったのだが、アイテムの出と質が良くなって、カードに表示されない、幸運値みたいなものが上がったんじゃないかと言われた。
翌日、出来るだけ戦闘を避けて奥に行く。
つかさちゃんに生命力感知をさせて、掛かったら離れる。
気弾を放ち、槍を地面に突き刺して、調伏の舞を踊ると、白い塊が落ちた。
槍を手に取って空跳で迫り、塊にに突き刺す。
「キェ」
力なく鳴いて塊は結晶になった。
出た明るいサファイアの珠を融合すると、髪は群青の羽毛になる。
20センチ以上ある。他の人より少し長い。
変身したら、髪は水色に。翼は純白。
霊晶甲は青み掛かった氷だが、透明なのに肌は見えない。
光の加減で虹色に輝く。
舞は見られてこそのものなので、この姿は舞の威力を高めると思われた。
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