第12話 量産体制
モンスターは見た目が似ているのを大きさや能力に合わせて名前を付けているだけで、地球産の動物が大きくなったものじゃない。
八王子の6キロ右には、クマタカより少し小さく攻撃力が低いが、機動力と防御力があり、羽根が鱗のようなハチクマがいる。
見た目は小柄なイヌワシで、羽根以外の特徴はない。
葉月さんは、こっちがいいと言うので、獲りに行った。
全体の羽毛の感じはミヤマオウムに近いが、目が正面を向いていて、嘴も普通の猛禽類のなので、鷹扱い。
やることは同じで、一人で攻撃して、反撃を避けて、追撃しようとしたところに僕が奪取をする。
一匹目で盗れたので、生っている無花果を採集して帰ってきた。
葉月さんは髪の毛が細い羽毛ではなく、雨覆のような、張り付いた鱗っぽい幅のある羽毛になった。
男は気にしないが、生身が変な短髪になってしまうのを嫌ってハチクマを選ばない女性も多いそうだ。
それ以前に敏捷性が高く防御力もあるので、勝てないと判ったら逃げてしまって、獲り難かった。
「ワタシはこれがベストだと思うのだが」
そうじゃなきゃ選ばないと思う。
葉月さんと俺は狐がいいと言う枡澤先輩を外して、頑張って適性値を70にしたケイコ姉とヨシエちゃんを入れて、稗田さんの猫を獲りに行く。
体型がボブキャットの森山猫は、強斬と強跳持ちなだけで、これといった特徴はなく、フュージョン出来ると言うだけのモンスター。
生産支援職の護身用と思われている。
それでも生産職が勝てる相手ではなく、銀の盾の後ろから射撃させて、その隙に僕が奪取、失敗したら一斉射撃で射殺、の手筈。
一匹目で盗れたので、ケイコ姉の射撃用の独角鹿を探す。
肉の味から羚羊に分類されている。
見つけたのは盗れるオーブがなく、夕飯用の肉になった。
稗田さんを外して桝澤先輩が入ってきたが、ケイコ姉の射撃が先。
射撃は盗れたが、ついでにやった狐狩りは失敗。オーブがあっても盗れないこともある。
僕は成功率が高すぎるくらい。
翌日の午後にもう一度やって成功したので、余った時間で枝跳び山羊を狩って肉を盗った。
「俺、やっぱこれにするわ。鳥ベースだとどうしても打撃力がないように思える。翼は飛べればいいから、適当な獲り易いの頼む」
近藤先輩が踏ん切りをつけたので、翌日は山羊狩りになった。
出た銀を加工する桝澤先輩を外し、薬師の人が入る。
山羊の攻撃を銀の盾で受け流し、硬晶の槍で突く。
時間も掛からず山羊が獲れたので、薬師の人に射撃を入れた。
忍者の人と遊撃手の人もハチクマにすると言い出して、週末まで掛かった。
この二人は同じようなので、名前で覚えられない。
大概逆に覚えちゃうんだよね。
射撃があれば、先鋒系の高速戦士は飛行モンスターに苦戦しない。
途中で逃げられるのが問題なだけ。
簡単に獲れるので、狙撃手の人城嶋さんがハヤブサが良いと言いたした。
機動性も飛行速度も高い小さめの鷹のことで、インコの仲間ではない。
近間で居るのは房総の先っぽの館山の沼だった処。
「どうやって行くんです」
「羽田に出て、10キロダンジョン行きのミサゴに乗る」
「わあ、お金持ち」
「ガハラが作ってくれた金だし」
辺鄙を売り物にしてるとこに行きたいと言い出したのも、僕の所為か。
モーターになって排熱を気にしないで使えるので、ティルトローター機が発達して、民間の中型旅客機として使われている。
金曜の午後に出発して、日暮れ前に到着。
ダンジョンの混み具合を事前に調べたら、3キロ右が啓蒙ビデオの撮影で貸し切りになっていた。
「有名人が来て攻略ビデオ撮るんだな。マイナーになりたい人間を増やす宣伝になるから、公式に認められている。スピリットキャッツだって。二個先輩で霊楽師になってバックバンドに入った人がいる」
つかさちゃんが目指していたアイドルの、現時点でのトップグループだ。
全員が森山猫のフュージョナーで、変身して猫耳出して踊って歌う。
あれって、分類上は全裸なんだよね。髪の毛で隠してるようなもの。
翌朝、入口付近の入場手続きは混んでいたが、5キロ以上は空いていて、直ぐ入れた。
変身可能な人が中の監視所の変身用個室に入って出て来たが、でかい女子高生二人に違和感を感じてしまう。
違和感を感じると言うと騒ぐ奴がいるが、そんなのは歌歌いが歌を歌ったらどうすんだ。
つかさちゃんの巡航速度で6キロ右に入る。
日本の雑木林を拡大した感じで、大木が起伏のある地面に立っている。
小人になったようだが、歩きやすい。
上を見れば木のサイズからすると小さく見える鳥が舞っている。
「鷹みたいだけど」
「あれでいい」
開けた処で城嶋さんだけ目立つように立ち、僕は木に登る。
狙撃手の遠射が当たらない距離でも、攻撃されたのが判ると、鷹は降りて来た。
青みがかった灰色で、オオタカの色に近い。アオタカだ。
オオタカもほんとはアオタカなんだっけ。
城嶋さんが蹴りを避けて横に跳んだので、飛び降りて尾羽に奪取。
翼長4メートルの鷹は、飛ぶことなく結晶になった。
「やったわね。ちょうだい」
城嶋さんが手を出す。
他人の手の平には出せないので、下に手を入れて暗いサファイア色の珠を出した。
握って融合する。
髪が20センチくらいの紺色の羽毛に変わる以外には、余り見た目の変化はなかった。
「よし」
僕のことなんか気にしないで変身した。
霊晶甲は切子ガラスの濃い瑠璃色。
背中の翼はもう少し明るい紺。後で聞いたら紺碧だそうな。
「なんか、ずるい」
暗い琥珀色の忍者の人が、文句を言う。
「イメージを固めておいたのよ」
「須藤と内藤はどうする」
女同士の争いを見てみない振りをして、遠藤先輩が話をこっちに振る。
「あたし、同じのにしたい」
「あーしは、もうちょっとがっちりしたのがいい。ハチクマじゃなくて」
「ケイコ、ハチクマの何がいけないんだ」
「アタマ」
男達はそっと離れる。
午後からヨシエちゃんのアオタカを獲った。
城嶋さんより飛距離が足りないんだけど、ちゃんと鷹はやって来て、結晶になった。
僕の目の前で変身しても、見慣れているので構わないのだけど、見た目が男なのが僕だけだと気付く。
ヨシエちゃんは翼と霊晶甲の色を、城嶋さんと逆にした。
翼が明るいと目立って、射手としては良くないと思ったそうだ。
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