第11話 硬晶の武器

 翌日はさらに奥に行き、これ以上は速くならないと言うゾンビが、鈴腕輪の音を聞いて、四つん這いでにじり寄って来る。


「これ、もっと上のゾンビでもやれるんじゃね」

「そうやってチキンレースして、いつか崖から落ちる」


 そういう事でしょう。阿久津先生にも言われた。

 午前中に生命力感知が出たので、つかさちゃんの強化に使った。

 ゾンビが腹ばいになった。それでも這い寄って来る。

 機敏は2つ。攻撃力が5%上がる銀の力の腕輪1つ。長さ1メートル直径が約10センチのクリスタルの棒も出た。これが硬晶。

 余り凝った加工は出来ず、槍か直剣しかできない。

 それでも銀とは格違いの切れ味なのだそうだ。 

 

 午後からも硬晶の棒が2本、防御力3%増の守りの指輪2、機敏1。

 目の周りだけを覆う銀仮面小型も出た。

 防御力の他に霊力が上がる。

 つかさちゃんに着けさせようとしたら、僕が着けるとアイテムの出が良くなると思われるので、先に着けさせられた。

 

 意外に機敏が盗れる。ゾンビ自体は全部が持っているはずなので、不思議はないが。

 3日で機敏は行き渡った。桝澤先輩を外して誰か重戦士型を呼ぶ案が出たけど、桝澤先輩に拒否された。


 8日目で全員の武器が新調された。ケイコ姉とヨシエちゃんの分は、本人の希望を聞いてから。

 生命力感知も希望者全員に行き渡った。

 銀の装備も大量に出た。銀製は特別の物以外属性がないので、誰でも使える。

 銀仮面も15枚。全員で着けている。なんか怪しい集団。

 学校の方針で、安易に力を得ないために、アクセサリーを買うのは禁止されている。

 ダンジョンから得た物は実力の内。

 今野達にお土産に配ってもいい。


 帰ると遠藤先輩が、頭を下げる。意外にこの人の頭は軽い。


「ガハラ、あと2日、右に入ってくれないか。射撃を出す山羊がいる。最初の一つはお前が入れてくれ」

「頭下げるようなことじゃないです。この戦力で入れたら、僕には得しかないですから」

「そうか。河合と稗田に生命力感知があるから、バックアタックを受ける心配もない」

「俺は?」


 桝澤先輩は、女が持ってりゃいいといって、生命力感知を入れなかった。


「外で待ってるか?」

「ふざけんなよ」


 6キロ右は、大山羊の森で、森の大山羊が出て来る。

 このモンスターは、走ってぶつかると威力が増す激突を持っている。

 重戦士なら欲しいスキルである。

 高速戦士でも切り札的に持っていたい。

 普通なら一人で倒さないとスキルオーブは出ないが、奪取は出来る。


 昼前に激突が2つ出た。

 ザクロも生っている。僕にはちょっとすっぱかったが、女性陣の受けは良かった。いい処だ。

 午後に、目当ての独角山羊が出た。

 アクセサリーとバフで底上げしたお嬢との撃ち合いは、狙撃手が山羊の射程外から撃って一方的になった。


 その間に隠れマントを着た僕が近づき、奪取。一発で射撃が盗れた。

 同じ方法で3匹から2つ盗れた。1回失敗。リキャストタイムが長いので、倒して別のを探した方がいい。


「これ、明日もやったら射撃が余るな」

「もし、午前中に済んだら、もう少しだけ奥に行かせてくれ。クマタカが出る」

「俺達の入れたばかりの射撃じゃ無理だぞ。やれても夏休みだろう」

「仕留める必要はない。奪取出来る状態に持ち込めばいい」

「いいのかそれで」

「それが本来の取得方法だと考えている。違うと言うならそれでもいい。俺は、人類全体の為に融合者を出来る限り増やすべきだと思う」


 遠藤先輩がやると言うなら反対はしない。

 6キロは奪取で盗ったフュージョンオーブが渡せる仕様になっているのだから、間違いではないと僕も思う。


 そんな覚悟で行くと、森の大山羊が出て来る。


「血祭りじゃ! こら!」


 遠藤先輩が正面から行くと見せて、右に避け、射撃が顔に当たる。

 左前足に銀の盾が激突した。

 倒れた山羊の喉を近藤先輩が伸気突で突いた。

 同時に僕は肉を奪取。直後に巨体が結晶になって崩れる。


「肉盗れたか」

「盗れました」

「よし、今夜のメインディッシュ決まり」


 普通は大物を狩ったら逃げるのだが、戦闘音を聞きつけて来るものを待つ。

 クマタカか、狼の群れか。


「来た」


 樹冠に上がって周囲を見ていたお嬢が下りて来た。

 僕は隠行で木に登って待つ。

 遠藤先輩だけが見えるように立って、火属性を乗せた気弾を撃った。

 翼長4メートルの猛禽はひらりと避ける。

 もう一発も避けて、急降下。両足を突き出した。


 先輩は横跳びで避け、僕は落下して僕より大きな鳥の尾羽の先端に触れる。

 何処であろうと、直接触れたら奪取は出来る。

 飛び上がろうとした鳥が、伸びあがった姿勢で崩れて結晶になった。

 収納に琥珀色の珠が入る。触ったことにはならない。


「やったか!」

「はい」


 オーブが抜けてないければ、結晶にはならない。

 右手を開いて差し出すと、先輩が上向きに手の平を重ねた。

 収納の中の物は、自分の手に乗った物の上に出せる。

 琥珀色の珠が先輩に手の平に現れた。


「おう」


 握って、左手も重ね、目を閉じる。

 髪の毛が抜けて、焦げ茶の細い羽毛が生えて来た。

 倍速映像のように筋肉が締まり、体全体が細くなって行った。

 身長は変わらない。

 変化が止まって、みんな寄って来る。


「終わったか」

「ああ、全身がずきずきして、ちょっと骨が痒い? その程度。全く痛くはない」

「よし。もう一匹獲るのは、無理か」

「無理だろ。狼来るかも知れんし。射撃取らんと」

「だよな」


 戦力強化で遠藤先輩が変身する。見てるんじゃなかった。

 耳と目が融合した動物の物になるので、鳥系だと白目と耳が無くなる。

 射撃は半日で全員分盗れた。

 人の為になる事をしたせいか、僕の適性値も80を越えた。

 持ち込み材料で作ってくれる店で、お祝いをした。


「ガハラ何がいいの。融合」

「こんなに早く融合可能になると思ってなかったんで、考えてません」

「このまま居続けない?」

「ここ、クマタカだけですよね」

「奥に枝跳び山羊がいるよ。空跳持ち」

「俺はそっちでもいいんだ。飛行力後から入れられるだろ。ガハラがやってくれりゃ」

「その辺の高位のスキルは強奪じゃないと盗れませんよね」

「怪盗になるんでしょ。今80なんだもん。100はすぐよ」

「城嶋さんは、何がいいんですか」

「キツネね。ネコは打たれ弱い感じ。イヌはとろい。後からなんかの羽根付けてちょうだい」


 誰も酔わない体のはずなのに、酔っぱらいの寝言がそこら中から聞こえて来る。

 クマタカや枝跳び山羊は別のダンジョンにもいるので、山田に居続ける必要はない。

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