第10話 派遣義賊

 カンフーマスターがイノシシを蹴り倒す。

 ケイコ姉より少し背が高い分、足が長い。

 流石に一撃必殺ではなくて生きていたので、奪取して肉を盗った。


「頑丈というスキルを持っていたのですが」

「罠スキルだな。防御と持久は上がるんだが、どっちもしょぼい」


 スキルは霊力と適性値に比例した、入れられる量があり、不必要なスキルを取ってしまうと、必要なものが入らなくなる。


「皮もいらん。選択できるなら、こいつは肉一択」

「シカは角はいらない。皮と肉はどっちでもいい。両方需要がある」

「大きいモンスターは盗りそこないもありますよ」

「鹿肉一つはあっていいわね。ステーキにしたい。野生のと違って風味が牛肉と違うだけで美味しいから」


 人の話を聞かない、お嬢と呼ばれている狙撃手の城嶋さんのリクエストで、シカを獲った。

 グミはもう少し多くても良かったと言うので、全員にグミを触らせて認識させる。

 欲しい人が採ろう。まだ採集になっていない。

 僕が比較的早くなれたのは、盗賊が何かを取る仕事だからなのか。

 お宝はしょぼくて、銀1、シリコン2。

 質より量で、ウサギが一番金になる。


「連休までここで資金と経験値稼ぎして、連休に知多半島に行きたいんだ。山田の中の10キロの6キロ」

「何が出るんです」

「敵はゾンビ。ゴーレムよりは柔らかいが再生が早い。アイテムは銀の上の武器になる霊晶。認識阻害の隠れマント。各属性の装身具。霊属性のも出る」

「ゾンビも無生物だから義賊様の敵ではない」


 ケイコ姉が抵抗した。


「適性70いるんじゃない」

「ああ、ガハラだけ来てくれたらいい。須藤ゾンビ好き?」

「そう言われると、行きたくない」

「出来たらつかさには来て欲しい。その頃には70行ってるだろ。デバフの練習にもなる。シャーマン系は死霊の天敵なんだ」


 無機物ではない無生物は、調伏の舞で能力全体を減衰させられる。

 スケルトンは生物の死体扱い。


「二人はどうなるんです」

「あーしらはおサルに混ぜて貰って、適当に生きとく。土産くれればいい」

「あたし一人でガハラ君の相手は、ちょときつい」


 つかさちゃんは 普通に意見を言うようになった。


「女3人連れてくから、適当に選んでくれ」

「このままやらせてくれたら、ワタシ間に合うかも」


 カンフーマスターは名前通り8月生まれなので、3月生まれよりかなり有利。


「ガハラがいれば転ばせられればいいから、間に合えば人数に入れる」

「僕の性欲処理の話だったような」

「勿論するよ。これだけ腕のある男なら文句はない」


 一部の女性は感覚的にはマッサージレベル。触るのが嫌な相手じゃなければ仕事の後してもいい、くらい。

 服飾系の錬成師の人を紹介され、その人でいいと言ったら、残りの1枠は桝澤先輩が埋めた。

 適性値と奪取レベルを上げるために、大物のイノシシとシカを中心に獲って奥に行った。

 奥に行くほど大きくなる法則で、シカはヘラジカサイズ、イノシシは軽トラサイズになったが、先輩達は問題なく倒す。


「全然力負けしませんね」

「いや、こんなに楽じゃなかったぞ。バフが凄いんだ」

「ゾンビ村でレベリングしたら、普通の6キロは奥まで行ける」

「通称ゾンビ村なんですか」


 やっぱり変な通称があるのか。


「腐ってないから心配すんな。無傷で病死した死体が起き上がって襲って来るパニック映画系だ。新鮮な分、動きが良いが」

「それもデバフで、ホラー系のあーうーでトロトロ歩いて来るのになるはず。声は出さないか」


 4月27日までに三人とも70を越えて、29日から次週の日曜日まで10日の実習計画を学校に提出した。

 山田海岸の西の田んぼの中に出来たダンジョンは、交通の便が良く、わりとにぎわっていた。


「なんで、ゴールデンウイークにダンジョン? 我々は修行だが」

「メロンが生ってるとか」

「まさか、いや、ゾンビ村は遺跡型だ、草生えてるから生ってるかも」

「そう言うの学校で教えてくれないんですか」

「なくても困らない情報は教えない。自分で見付けろってこと」

「そうですね」


 入ってみたら、夏ミカンくらいの、メロンと言うよりウリが転がっていた。

 拾って齧ってみたけど、あんまり美味しくなかった。

 甘いキュウリみたい。ダンジョン産はなんでも当たりではない。

 騒いでいる僕等を見付けた、頭の毛も血の気もない以外は全裸の女にしか見えないゾンビが、つかさちゃんの調伏の舞の効果範囲に入った途端に転んだ。

 奪取すると、生命力感知のオーブが盗れた。


「生命力感知です。どうします」

「ちょっと情報がない。人間専用、ってのも考えられる」

「入れてここで試しても、ゾンビが対象外もある」

「わたし、全然入ってないから、入れてみる」


 服飾師の稗田さんが、受け取った。生産系は霊力に余裕がある。


「人間とゾンビ別々に感知できるよ。ゲームの赤と青みたい。色じゃないけどね」

「普通のモンスターが別に感知できるなら、斥候ならありか」

「一回出て、下で試さんか」


 五キロで試したら、モンスターはゾンビとも違うものとして感知できるそうだ。

 女性陣は全員入れることにした。

 索敵範囲が狭くても、攻撃できる範囲に巧妙に隠れている敵を見付けられる、かもしれない。

 なので僕も入れる。10メートルだけど単独行動があるから。 


「須藤と内藤を連れて来るだろ。その時まで保留だ。三人持ってりゃ、無理にはいらない」


 遠近コンビと桝澤先輩はいらないかもしれない。

 入り直してゾンビを狩ったが、ポーションしか出て来ない。


「もしかしてレアドロップ?」

「かもしれない」


 銀塊が2つ金塊が1つ出たが、妙にがっかりしたお昼になった。

 僕等は当面必要がないので、出たら三年の女子に先に入れてもらう。

 午後からどれだけゾンビを潰したか数えなかったが、1つ出ただけだった。

 10日あれば希望者全員に行き渡る。


 夕食前に遠藤先輩が学校にドロップ率を問い合わせたら、0.2%だった。

 奪取10倍だとしても2%。1日2つなんか奇跡的。

 斥候の職能の気配感知より有効範囲は狭いが、認識阻害や潜伏のスキルも無効なので、隠れ場所が多い処では有能。

 斥候、盗賊系と、霊力に関わるスキルなのでつかさちゃんも余裕があれば入れてもいい。


「奥に行って見るか。アイテムが出易い。普通はゾンビが速くて硬くなるから行かないんだ」


 義賊と舞祈祷師がいれば無敵、と言うことで結構奥に行った。

 最初の山から、銀の腕輪が2つ出た。


「銀製鈴腕輪だ。霊力系が使うと、特別な音が出て舞の伴奏になりバフ、デバフとも強くなる。音だけでも死霊系を弱体化出来るが、ゴーレムには効かない」


 桝澤先輩の解説の後、つかさちゃんが装備して意識して手を振ると、ガムランボールみたいな妙音が微かに聞こえる。

 調伏の舞と合わせると、ゾンビが這いつくばる。

 5体目のゾンビから、機敏のオーブが出た。


「ガハラが使ってくれ。また出たらこっちで貰う」


 忍者の人と遊撃手の人以外は持っていなかった。

 その後金塊2、インビジブルマント1、機敏1で、まずまずの成果だった。

 ゾンビをこれだけの数潰せるだけで十分な成果になっている。

 死霊系は死体を無理に動かしているからなのか、ゴーレム以上に持っている霊力が多いようだ。

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