第9話 新一年生

 次世代の戦力を育てるダンジョン専門高校には、制服はない。

 中学の時からダンジョンに入っているので、能力に合った好きな格好をしている。

 学校指定で売っている戦闘服が制服のようなもので、各校少し違っている。

 入学式なので、無難に靴以外は戦闘服で学校に行った。

 つかさちゃんも、ダンジョンの外なら皮膚が丈夫と言うだけなので、地球産の服なら着られる。

 足元は銀のサンダル。桝澤先輩が色々作って、革が多めのグラディエーターサンダルくらいに足が覆えるようになった。


 入学式の後は、組に分かれて諸注意と連絡用のタブレットが配られて解散。

 組分けはA組。能力的にトップグループ。つかさちゃんもあっという間に基礎能力が上がった。

 久しぶりに今野達に会った。


「どうする、組むか」

「いや、組める上級生がいたら、そっちと組んでくれ。俺達は適性値が合わない。姉御とヨシエさんは二年生だし」

「そうなんだよな。一緒に入学式行こうって言って、二年生だぞって怒られた」


 僕は特別扱いで、女子寮の4人部屋に住んでいる。

 今野よりでかいのが近づいて来た。


「コン、そいつが貧しい子供に銀装備を恵んでくれる義賊様か?」 

「そうだが、そいつか?」

「言い方が悪かったか」

「悪いだろ、どう考えても」

「そうか。俺は花水木要祐はなみずきようすけ。火属性のライカンスロープだ」


 今野が僕を見る。


「小学校の同級生だった。俺が中学の時にこっちに来たんだ」

「そうだったのか。二年生に期待されてて、知らない者までは回らないな。そもそも、川越に行かないと銀が採れない」


 でかいのが詰め寄って来る。


「ここはだめなのか」

「チタンしか採れない」

「夏休みまではチタンでいい。一緒に行けばくれるのか」


 知り合いの知り合い程度の関係で、ものを頼む態度ではない。

 義賊だからって、なんでも聞いてやる必要はないのだが。


「メインに入れるのか?」

「いや」


 花水木は去って行く。

 今野が横目で見送った。 


「ライカンスロープになって、妙に焦ってる。2月生まれで基礎能力が低いからB組だった。なのに、ライカンスロープは選ばれし者みたいなことを周りに吹き込まれたらしい」

「派閥があるのは聞いてる。他人の成長を妨害したら犯罪になるが、上に行こうと努力するのは構わないんで、学校は派閥抗争自体には口を出さないそうだ」

「良く言えば切磋琢磨、悪く言えば蟲毒か」

「そんなとこだね。それは置いといて、つかさちゃんに残ってるオーブを入れたい。付き合ってくれるか」

「聞くまでもない」

「すまん。遠近先輩が銀の盾があれば、ネズミもやれるんじゃないかって言ってた」

「おう、やる」


 高尾に行って、昼飯前にアラクネカマキリを仕留めた。


「なんだ、嘘みたいに楽だ」

「つかさちゃんの鼓舞の舞の威力が上がってる。奪取の成功率も上がるんだ」

「すげえな。このままネズミ行くか」

「やだよ、お腹減った」


 井月さんは正しい。

 流石にボス2連戦はきつい。

 ボス周回をするために、昼はイートインのあるスーパーで済ます。


「お前らも好きなもの買え。ここに貧しい子に食べ物をくれる義賊がいる」


 ケイコ姉が余計な事を言ったので、今野藤岡だけでなく、女子陣までいっぱい買い込んだ。ついでに先鋒の男も。こいつの名前忘れた。

 銀で儲かったのを知っているから、遠慮しない。


「それ、全部食べられるの」

「余ったら収納に入れとけば腐らない」

「そうだね」


 ファミレスに入った方が時間の節約になったんじゃないかと思う昼食の後、トゲネズミに挑む。

 右のボスなのに左のボスより倒し難い。アラクネカマキリが弱点を見付けられてしまった所為なんだけど。


 全身の毛が太い棘になった巨大ドブネズミで、棘の先全部から伸気を出す。

 射撃の後、主戦力が盾で張り飛ばして、僕が棘のない鼻面に奪取。伸気突が盗れた。

 つかさちゃんに入れて、更にパワーアップさせた。


「無茶苦茶楽だわ」

「銀取りに行ってもらったのは正解だったな」

「つかさの能力も上がったし」


 後は全員伸気突を入れてから、残りのスキルをつかさちゃんに入れる。

 夕飯は肉専門のファミレスにした。しかし、お持ち帰り用のスイーツは存在した。

 モミジイチゴもいっぱい採ったのに。


 金曜までに終わったので、土日をどうするかケイコ姉と相談した。

 二人は特に希望はない。


「色々誘われてるが、遠近コンビと5キロ右が安全で一番儲かりそう。能力上げにもいい」

「じゃそれで」


 5キロ右は普通の日本の原野で、出て来るのはウサギとイノシシとシカ。

 大型犬サイズのウサギと、牛ほどもあるイノシシ、アカシカより一回り大きいシカ。

 普通じゃないだろ。

 入り口はそんなでもないが、だんだん大きくなる。


「ムカゴがある。イノシシがいるから、山芋があるんですね」

「そんなもの誰も知らない」

「採集持ち連れて来ないんですか」

「ダンジョンで山芋掘ろうとは思わんよな。手間と時間が」

「そう言われるとムカゴも採るより買った方が早いような。精力剤ならおばちゃんがくれるし」


 感動的に美味しいムカゴと言うのも想像が出来ないので、無視して狩りをした。

 ウサギは5,6匹の群れで出る。

 一時誰かがウサギを匹で数えると、一々羽だと言うのがいたが、江戸時代じゃねえよと言われて黙った。


 射手は木の枝に乗って射撃、つかさちゃんも太い枝の上で器用に踊る。

 主力二人はその下を護ってウサギを迎え撃ち、残りで攪乱する。

 死にかけから順に奪取して行く。皮と肉が盗れる。

 偶に強蹴がある。強跳とは違うスキル。

 中々取れないので、先輩達は誰も持っていなかった。


「格闘系の奴が必死こいて取ってた。そこまで欲しいものではなかったけど、強跳と合わせると、ここのシカなら側頭部に当たれば、一撃で蹴殺せる」

「取った後見せられて自慢された」

「蹴りを得意にしてる知り合いはいませんね」


 ケイコ姉が挙手する。

 

「他にいないなら、クラスにカンフーマスターって呼ばれてる女がいる。入れたげて」

「今日は出ずに狩る。明日だな」


 山からは銀2,チタン3。しょぼいと思ってしまった。

 山自体が少ない。グミが生っていたので少し採った。

 出て直ぐにケイコ姉が、カンフーマスターこと先鋒の室井葉月むろいはづきを呼んだので、夕食の彼女の食費が僕持ちになった。

 義賊は怪盗になっても「施し」を続けると、適性値その他の何かが上がるらしい。

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