第8話 銀策

 入間川の西側の田んぼだったのか畑だったのかに出現した10キロダンジョンのお陰で、周辺は宿泊施設には不自由しない。

 寄宿舎から高尾に行くよりずっと近い。

 朝から大張り切りの先輩達に連れられて、左4キロに入る。


 ワックスドールを太くしたところで、醜くなるわけではない。

 と、思ったら大間違いで、ナニワのおばちゃんはワックスドールより人間ぽくなったので、不気味の谷に落っこちてキモい。

 オッパイがリアルにたるんでて、硬いはずなのに揺れる。

 ものを言わないのが救い。


「どりゃ」


 遠近コンビが長柄の登り鎌で足を払う。

 太ましいおばちゃんが盛大に転ぶ。

 倒れたと言うより何かをぶち撒けたみたいな音が響く。

 奪取したら強壮のオーブだった。割と良い強壮剤になる。


「逃げるぞ、騒ぎを聞きつけて集まって来る」


 ナニワのおばちゃんは戦闘音に集まる習性がある。困ったものだ。

 他の場所がお留守になるので、探索には都合が良い。

 忍者の人が屋根も扉もない家の中を確認して、宝の山を見付けた。

 他の人には10メートル以上離れてもらい、長い鉤で突っ突くと、崩れて輝く白い塊が出た。


「純銀は銀色をしていない。これは常識」


 変態の桝澤先輩が収納する。この人が加工するので、全部任せる。

 3つ目の山から出た塊は銀色だった。


「シリコンかよ。完全単結晶だから、安くはないんだが」

「ダンジョン前は、日本が世界シェアトップだったんだよな」


 メリット、デメリットはあるけど、日本は霊核が安全で安定供給されるエネルギー源になった恩恵を、最も受けている国だと言われている。

 モーターで飛ぶ旅客機なんか出来たものね。


 はぐれおばちゃんを討伐、群がって来るおばちゃん達をほっておいて家捜しし放題で、午前中に銀6シリコン3が見つかった。

 戦闘の度に、つかさちゃんが後ろで裸マントで踊ってるんだけど、見ないようにする。仕事中なんで。


「義賊様すげえな。おばちゃんの天敵」

「ガハラ、適性値いくつ?」

「63です。今日1つ上がりました」

「70になったら6キロ入れるから、カワチに行こう」

「関西ですか」

「いや、ここの左6キロ。カワチのおばちゃんが出て来るから」


 一般的な通り名ですらないのは、ろくなもんじゃないな。


「どんなとこです?」

「中の作りは一緒。カワチのおばちゃんは、ナニワのおばちゃんよりテカりと当りと押しが強いだけ。ま、防御力も高いけど奪取の敵ではない」

「70なんて3年進級のラインじゃないですか」


 無茶苦茶行ってくれる。


「新入生になってないのに60越えてるのが異常。夏休みまでには越えるだろ。他の6キロにも入れるようになるから、レベリングとアイテム集めやってくれ。卒業前にフュージョンオーブ欲しい」

「卒業して軍に入れば、指導して獲らせてくれるでしょ」

「5年間の懲役がな」

「懲役言うな、兵役」

「モンスターと戦わない分懲役の方がましだからな」

「でも、6キロのでいいんですか。最近7キロにシフトモンスターが居るって聞きましたけど」

「6キロ物で生体融合して、8キロの獣身獲る」

「8キロの獣身って、佐官級じゃないですか」

「ライカンスロープがシェイプシフターをばかにするんだよ。ハイローミックスだって言って。ライカンスロープは7キロ物だからな。あいつらより強くなりたい」


 半獣身がライカンスロープ、獣身はシェイプシフター、生体融合しかできないのはフュージョナーと呼ばれている。


「俺もそっちが融合の正しい使い方だと思ってる」


 遠近コンビは二人とも女体化するつもりのようだ。


「ガハラもフュージョンしようよ。女の体で自由にチンコ出せるって最高じゃん」


 ケイコ姉の攻撃。ガハラは意表を突かれた。


「何を言う」

「フュージョンさせれば、つかさも安全になる」

「霊晶甲は皮膚の変形だからな。変身しても素っ裸扱いなんだろ」

「装備出来る防具が限られているだけで、裸で踊らなきゃいけない訳じゃないと思うが。それは良いけど、僕がなるかは別の話」


 生体融合しなくても、獣身だけも獲れる。

 戦闘力の問題で、変身出来ないと獣身用のモンスターと戦うのはきついけど。


「俺も混ぜて」


 桝澤先輩が混ざって来る。

 変態が女体化したいのは普通か。


「6キロより上行くなら、見た目とか気にしてらんないわ。能力上げるには上行かんとどうにもならない。作りたい物作るには基礎能力がいる」


 そう言う覚悟でしたか。


「僕がどうするかは別として、入れるようになったら行きましょう」

「よっしゃあ!」


 収得の方法が確立されてきたために、3年生でも融合者になれるようになり、獣身と半獣身で派閥が出来ていると言う話をされた。

 4月からは嫌でも獣身派になる。


 翌朝、桝澤先輩がつかさちゃんに銀のサンダルをくれた。

 女性陣がみんな欲しがったが、舞祈禱師にしか作らないと断られた。


「お前らはケモノの皮を履け」

「なんだよケダモノ」

「素人童貞」

「変態」

「事実なのでなんとも思わん。犬に向かって犬畜生と言ってるだけ」


 無敵の人、とは違うか。


「ていうか、桝澤、俺等の武器どうなってんのよ」

「ここではいらないだろ。帰りまでには造る」


 朝からごたごたはあったが、探索は順調に進んで、銀17その他が見つかった。


「これだけ出るなら、生活するだけなら金塊出せたら十分だな」

「自由は欲しいが、戦士の心を捨てたわけじゃない。我々はスタンピードに備えた戦力にならなければならない」


 遠藤先輩は、理想主義者っぽい。


「本当に来るのかしらねえ。大震災代わりのスタンピード」

「フィリピンとインドネシアのは噴火の代替だと言われてるだろ」

「10キロダンジョンが、大地震か大噴火のあるとこにしかないからな」

「ダンジョン緩和装置説な」


 仮説でしかないので、政情不安を引き起こさないために、大声で唱えるようなのはデマとして規制されているが、検討は法的に禁止されてはいない。

 倒せる戦力があるなら、大噴火や大地震よりは、中小型モンスターの大量発生の方が被害が少ない。 

 何かあった時の為に、力は持っていても邪魔になる事はないと思う。

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