第7話 メインダンジョン

 ケイコ姉が連絡を取ってくれて、4月から三年生になる先輩が付いてくれることになった。

 遠近コンビとして名前だけ憶えている、遠藤勇えんどういさむ先輩と近藤実こんどうみのる先輩の強者つわもの2人と、狙撃手、遊撃手レンジャー、忍者の女性三人の5人パーティだ。 

 三年生なので全員二次職になっている。 


「なんかちっちゃい可愛い子がいたのは覚えてるけど、生産職になると思ってたよな」

「ちっちゃいって言うか、3月後半生まれなんて、実質小6だよな。犯罪だぜ」

「なにを考えてるんだ」


 当時は12歳なので、合意でも犯罪である。

 メインに入れるので、犯罪者ではないはずの先輩達と、アイテムが出易い左2キロの廃墟型ダンジョン、通称憂愁の街に入った。

 似た名前の名画に雰囲気が似ているそうだ。

 破壊されたり崩壊した廃墟ではなくて、屋根や窓や扉のない、穴の開いた壁しかない造りかけの街だ。

 放棄型もしくはゴーストタウン型と呼ばれている。


 そこに着色していないマネキンのような、ワックスドールと言う、ゴーレム系に分類されるモンスターが出る。

 入り口付近は身長150センチくらいで、肌と言うか材料は蜜蝋色。

 一応人間の関節と同じ所で曲がるが、筋肉で動いているようには見えない。


 目は肌と同じ色の玉が、眼窩に入っているだけで、見えるようには思えない。

 人間を生命力か存在そのもので感知しているらしく、隠行も認識阻害のアイテムも効かない。

 スピードは鍛えていない人間同様だが、防御力が高い。


 射撃で誘き寄せて、主戦力二人が鋼鉄の棒で思い切り突いて倒した。

 起き上がるには、必ず俯せから四つん這いになるので、その間に奪取を掛ける。

 起き上がるよりリキャストタイム終了の方が早いので、攻撃されずに3回は試せる。


 生命力全体の回復効果のある、回復のオーブが出るのだけれど、普通は5%。

 チュートリアルダンジョンといえども使い続けていたので、奪取が育っていて、3回出来ると大概盗れる。

 立ってしまうと全く盗れないので、もう一度転ばしてもらう。

 オーブが霊核で出来ているのかは確認されていないが、オーブを抜くと結晶になって崩れ落ちる。


「しっかし、裏技だよな。奪取持ちのゴーレム狩りは」

「奪取持ちならもっと儲かるモンスがいるから、来ないけどな」

「これ、儲からないんですか」


オーブを収納から出して、近藤先輩に渡す。


「錬成師のヒヨコが高級栄養ドリンクにするけど、確実に効く強壮剤ってとこ。俺らにはここの経験値が美味しい。あと、チタンが出たらめっけもん」


 ゴーレム系は皮などのアイテムが落ちない代わりに、経験値が高い。


「チタン4つ出たら、錬成師に金属のニプレスとファールカップ作ってる変態がいるから、頼んでやる。その子がダンジョンで素っ裸で踊る覚悟しても、日常で着けとく方がいい」

「お願いします。でも、なんでそんな物作ってるんです?」

「ちょっとだけ隠れてる方が興奮するんだって。あと、舞祈祷師とお友達になりたい」

「それは、どうなんでしょう」

「俺達が、勝手な真似はさせないから」


 そこはほんと、お願いします。

 メインダンジョンには、宝の山と呼ばれている、直径2メートル、高さ1メートルの土饅頭がある。

 中に霊気の塊があると言われていて、頂上を軽く突くと崩れてアイテムが出る。

 頂上を外れたり、叩くのが強かったりすると爆発する。

 2メートル以内に近づいても爆発し、モンスターは近づかない。

 3メートル以上の鉤の付いた棒で突っ突くのが普通。

 

 ワックスドールを簡単に倒せるので、探索は順調に進み、2つ目の宝の山で守りのマントが見つかった。

一枚布が謎仕様で首の下で合わせて止められる。

 マジックテープの付いた風呂敷マントみたいな。

 ハーフコートくらいの丈で、つかさちゃんでも動くとお尻が出ちゃいそう。

 お尻以前に、動けば前は丸出しだけど。

 その他に見つかったのは、アルミの塊が3個。


「もうちょっと奥行くか。倒すだけなら一回り大きくなってもやれる」

「むしろ倒れやすい」


 170センチくらいのがいる場所に移動した。

 倒れたら一緒。

 1つ目の山から、アルミより重い銀塊が出た。


「最初っからこっちでよかったじゃん。誰だよ、びびってとば口から始めたの」

「いきなりはだめだろ。結果論だ」


 そうだと思います。

 午前中に鉄の塊2つと、チタンがもう1つ見つかった。

 家の中に隠れているワックスドールを始末してしまえば、外のはこっちから攻撃しなければ入ってこないそうで、ゆっくりお昼にした。


 午後はチタン3つ、鉄1つ、守りのマントがもう1枚。

 守りのマントは防御力からすれば安物で、常時使用しているのは舞祈祷師くらいしかいない。

 万が一着る物が無くなってしまった時の用心で持っている人は多い。

 チタンは3つまで先輩ので、4つ目は半分5つ目以降は僕のもの。


 紹介された錬成師の先輩は、チタンの半分で、出来合いのニプレスとファールカップをくれると言ったが、デザインが幾つかあるので、本人に選ばせると言って、付いて来た。

 あからさまに雰囲気がいっちゃってる人で、良く言えば職人気質、普通に見れば変質者である。

責任者として、遠近コンビも付いて来る。


 管理室に説明したら、問題なく入れて貰い、談話室でつかさちゃんにデザインを選んでもらった。


「これにします」


 そう言って、いきなり脱ぐ。全部。


「いいの」

「うん、なんか、恥ずかしくなくなってきた」

「ジョブが合っていたんだ。舞踏は見せなければ意味がない。舞祈祷師は見せる意識と見せる体になって行く。誰に見られても恥ずかしくない、美しい体に」

「枡澤、止めんか」

「なぜ、止める必要がある」


 なんか言っている内に、つかさちゃんは装着した。


「金属の感じがありませんね、厚手の布くらい」

「極細の鎖だ」

「素晴らしいです」

「銀があればもっと良い物が出来る」

「どこにあるんです」

「メインの4キロ以上の廃墟だ。一番近いのは川越だ」

「ガハラ君、行けない?」


 勝手に話が進んでいる。

 遠藤先輩に聞く。


「どんなのです、敵は」

「ナニワのおばちゃんだ。今日のあれが太ましくなって、テカって滑り易くなっている。当たりがきつくて、接近した後の押しも強い」

「名前に、最初に戦った人の恨みが籠ってますね」

「転がすだけなら、突き飛ばさないで足を引っ掛けりゃいい」


 戦わない人が言う。


「そうだな」


 否定しないんですか。お前がやれとか言うと思ったのに。


「それは出来るんですか」

「訳はない。まったくダメージにならないからやっても無駄なだけだ。お前がいれば仕留められる」

「メイン4キロですよね」

「ドロップの確率だから、敵の強さは関係ない。危なければ逃げればいい。強跳まで入ってるんだろ」

「先につかさちゃんにオーブ入れたいんですけど」


 行くのは決定したみたい。


「大丈夫、わたしみんなとメガリス獲ってる。先に銀採って」

「君がいいならね」

「よし、決定。俺らも銀の武器防具は欲しい。そろそろ鋼の切れ味じゃきつくなる。卒業課題の6キロ奥の特定モンスター相手じゃ、全く歯が立たない」

「戦闘安全なら、俺も行くぜ」

「ああ、桝澤守る必要もないからな」

「何日くらいになります? まだ霊気コントロールが上手くないんで」

「性欲処理の都合があるか」

「つかさがパワレベでいいなら、三人でそっち行く」


 僕と一緒にいたせいか、ケイコ姉とヨシエちゃんは適性値が50を越えている。

 つかさちゃんは50丁度。舞祈禱師の補正と思われる。


「今野、僕等抜けても大丈夫か」

「ああ、メガリスなら俺等だけでもやれる。この時期にここまで来れると思ってなかったからな」


 学校側に暫く居ないのを申告したら、出来るだけ銀を取って、他の生徒にも分けて欲しいと言われ、宿泊費が大丈夫なら、4月14日まで居ようと言う話になってしまった。                                                                                                                                                                                                                                                                           

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