第6話 怪盗への道の第一歩

 年が明けて、合同パーティは再起動した。

 卒業までに強突、強斬、出来れば強跳を取りたい。

 目標があれば、みんな前進する。


 強突は4キロ右奥の四つ目一角鹿から。

 一本角のニホンカモシカで、本当に目が4つある。

 しかも上は横に2つ、下2つが正面を向いている。

 どう見ても妖怪。


「キメーヨキメーヨ」


 壊れっぱなしの井月さんに正面向きの目を撃たれ、でかい二人に前足を折られる。

 奪取で確実に肉か皮が盗れる。本来メインダンジョンで使うスキルだ。

 オーブを持っているのは5分の1。

 盗れる確率は50%。ドロップなら5%なので、10倍。

 1月中に全員分が盗れた。1つ奪取が失敗したのに落ちた。


 強斬持っているのは、ハサミの代わりに鎌を持っているザリガニ、死神エビ。鎌と言うより内反りの鉈。

 英語名デスシックルの方が言い易い。 

 居るのは、お前ら虫じゃないだろってのが集まってる、左5キロエリア妖虫地獄。

 出て来る奴らは漢字で書くと虫が付いている。これも蝲蛄でも蝦でも。


「これはあんましキモくねえと思ってしまう自分が嫌だ」


 井月さんの葛藤はどうでも良く、目を撃って主力が接近、カマの相手をしている間に先鋒がカマの付け根を斬って無力化。

 最後に僕が奪取する。触れば死んでしまうので、早目に盗ったら戦闘訓練にならない。

 斥候は敵より先に見つけて、戦闘が始まったら、別のモンスターを警戒するお仕事をちゃんとしている。


「あーしら、一年じゃトップだぜ。夏までの情けねーのはなんだったんだ」

「それは僕も一緒」

「それ言ったら俺等一度ガハラ追い出したのに」

「僕が自分から出たんで、追い出したんじゃない」


 なんだかんだ言ってるうちに順調に盗れて、3月までにもう一ついけるとなって、右5キロに入った。

跳躍の上の強跳持ちはメガリス。

 普通のリスが、初期に3キロリスと呼ばれていた。

 キロの次はメガ。英語でもメガスクウォール。

 皮と肉が盗れる。アメリカやイギリスでは、リスの肉は普通に食べていたそうな。

 アイヌ料理にもあるらしい。

 珍味として出しているレストランが買うので、選択で盗れるなら肉も欲しいと買取所の受付に言われた。


 皮はダンモットの上なので、全員装備も新調した。

 高校でも一年生でこれを装備していると、ちょっと上に見られる。

 ケイコ姉とヨシエちゃんは普通に戦っているし、年下と組んでいるので、寄生だとも言われない。

 メガリスで収入を安定させるのは、二年生でやること。


 卒業までこれでいいか、と思ったのだが、おサルが馬鹿なことを言い出す。


「伸気斬を取らないか」

「バカ! おサルバカ過ぎ!」


 これは井月さんが正しい。

 伸気斬を持っているのは、左のボス、アラクネカマキリだ。

 クモの頭に4本鎌のカマキリの首が乗っている、妖怪通り越した奴。 


 20%の確率でオーブを出すのが判っているので、集団での倒し方は確立されている。

 ボスの後ろにある出口から出ると、同じメンバーでならダンジョンの出口から入れるようになり、倒した者がダンジョンを出るとボスは復活するので、ボス周回も可能。 

 ボス戦はドロップのルールが変わるらしく、窃取で30%、奪取で40%、強奪でも50%しか落ちない。


「全員が強打、強突、強斬、跳躍を持つ我々の実力は、高二と比べても遜色ないだろ。出来ないことじゃない」


 おサルが人間様に口答えをする。

 必要なのは消火用ウォーターガン2丁。あれは、単位丁なのか?


 回避不能の攻撃をされると、ダメージがなくてもカマキリは動かずに、その場で鎌を振り回す。

 切り払われる水飛沫の様子で、伸気の長さも判る。

 立ち止まっている間に主力は鎌を落とし、その他で足を斬って、動けなくしてからスキルオーブを盗む。


 口で言うほど簡単なら誰でもやるわけだが、実力が伴っていた我々は出来てしまった。

 ローリングストーンのように、丸まって回転して襲ってくる巨大ツチノコ、ツチノココロガシの皮も取って、防御力も上がった。

 3月に入って、卒業してケイコ姉とヨシエちゃんの誕生日を祝うと、することもない。


「トゲネズミから伸気突を……」


 井月さんがおサルの側頭部を拳骨でグリグリする。


「ガッコ始まるまではリス獲って暮らすんだよ」


 メガリスが収入的に一番効率がいい。

 裏から周回する許可を取りに入り口の監視所に行くと、クラスは違うがダンジョンマイナー部だった河合つかさが放心していた。

 同じ3月生まれで気遣っていたケイコ姉が声を掛ける。


「どうしたんだ」

「姐さん、あたし、舞祈祷師まいきとうしになっちゃった」

「それは、どうしたらいい?」


 僕に聞かないで。


「入れられるオーブ入れて、転職させるしか思いつかない」

「今野達、やってくれるか」

「勿論、やる」


 みんな頷いてくれる。

 舞祈祷師、ダンシングシャーマンは、踊りながらバフ、デバフを掛ける支援職なんだけど、防具が金属製以外は無属性の物しか装備出来ない。

 モンスター革やクモの糸などは、すべて属性を持っていて、実質金属の装身具だけの全裸で踊らなければならない。


 無属性の特殊なマント類があるが、羽織るだけのもので、踊れば当然前ははだける。

 ダンジョンを造った者が、裸を全く気にしないのだろうと言われている。 

 プロの舞踏家をしているのは何人もいる。


「歌って踊れるアイドルになりたかったの」

「歌がだめだったのか」


 ケイコ姉、この状況で事実を陳列するのは犯罪だと思うよ。


「歌上手くなる基礎能力ってなんだ?」

「そっちは判らないけど、器用度上げて楽器使えたら、霊楽師になれるんじゃないか」

「支援職ならパワーレベリングで基礎能力底上げしとけば、何かしらでるだろ」

「9人だったのは、偶然ではないのかもな」


 色々言いながら入場して、連れ回すために足回りの強化で跳躍と強跳を入れた。

 なんとなく普段より調子がいいと思ったら、つかさちゃんが後ろで鼓舞の舞を踊っていた。

 やはり、全裸で戦闘をする前提の職業らしく防御力が高いので、本気で踊ると、それだけで地球産の服は、内側から押されて破れてしまう。


「土日にメインダンジョンに行って来たい。守りのマントくらい出るんじゃないか」

「おう、こっちは任せろ。少しでもバフが掛かってると、戦闘が全く違う。つかさは俺達の最後のピースだったんだ」


 つかさちゃんは大泣きである。ケイコ姉とヨシエちゃんが撫ぜ回している。

 男がやったら即逮捕な具合で。

 狭いけど4人で寝る事になったのだが、こいつも男も大丈夫だからとケイコ姉が言った。

 も、なのか。


 どうなることかと思ったが、三人ともそっちなので、一人か使用中の間は、待っている二人で仲良くしている。

 案ずるより産むが易し。女同士では何も生まれないが。

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