第5話 数は力

 リスもイタチも無視して、ダンモットの群れを襲った。

 撃って足止め、主力二人が半殺し、先鋒二人と斥候が逃げないように牽制、僕が皮をはいで行く。

 5匹の群れから、皮1枚。


「おっしゃあ! 出た」

「今野、そこまで嬉しいか」

「もう、ストレス溜まりまくりだったんだよ」


 喜んでくれるに越したことはないが。


「よし、どんどん行くぞ!」

「ちょっと待て。キイチゴが生ってる」

「なんだそりゃ」

「知らんのか為衛門」

「真面目に話せ」

「オレンジ色のラズベリーだ。こないだは気付かなかった」  


 大木の脇に雑木風に茂っている実を採ると、モミジイチゴの実と判る。


「モミジイチゴだって」

「それ、美味しいの、日本特産」


 もう一人の射手、リョーコと呼ばれている田辺莉穂子たなべりほこが言った。


「よし、みんな来て」

「あーし一番」


 判っているケイコ姉とヨシエちゃんが寄って来る。

 手を取ってイチゴを触らせ、認識させる。


「おし、見えた。モミジイチゴ」

「覚えた」


 全員に認識させて、見えているのは全部採らせた。


「リスエリアに野ブドウが生ってたら教える。採集は生やしといたほうがいい」

「マジ感謝するわこれ」


女子陣以上に、主戦力で甘党の藤岡が一番喜んでる。


「当分飽きないと思うけど、飽きたら売れるし」


 興奮冷めやらぬままにダンモットの群れを襲う。

 その後も一群れから1枚は出て、霊核を売れば、食費以上の儲けになった。

 どやどやと如月亭に行く。

 食後に今野が聞いて来た。


「ガハラ、なんか予定はあるのか」

「窃取を10にする以外の予定はない」

「なら、7になるまではダンモット狩りでいいか」

「姉御とヨシエちゃんがよければ」

「こっちは予定自体ないぜ」

「稼げて能力とスキルレベルが上がればいい」


 二人ともめんどくさそうに答えた。


「じゃあ、暫く付き合ってくれ、靴も欲しい」


 ダンモットの靴は、5キロエリアを仕事場にしている者も普段履きにしているほど、履き心地がいい。

 防御力も次のエリアでも通用する。


「今ダンモットでも早い方だ。急いでも体が付いて行かないと思う。むしろ、次の山羊もこっちから頼みたい。強打が盗れるかもしれない」

「おう、ラーニングよりオーブで取れたらいいよな」

「今野と藤岡は生えてないか」

「そんなに早く生えて来ないぞ」

「そんなもんか」

「お前、跳躍生やしたのか」

「いや、2キロのモルモットから出た」

「モルモット自体が出て来ないし、ドロップ率1%で、確率的に1万分の1とか言われてるはず」

「0じゃなきゃ、落ちても不思議はない」

「そうだけどな」


 宝くじよりずっとましなはず。

 今年はずっとダンモットでいいかと思っていたのだが、11月前に窃取が7になった。

 今野が力を入れる。


「よし、次は突進山羊だ」

「早くないか」

「なんの」


 僕以外は反対しない。

 4キロエリアの入り口にいる100キロ以上ある山羊を獲りに行く。

 入り口なので、1匹ずつしか出て来ない。

 二人で射撃、その間に近づいて主力二人が前足を斬り、先鋒二人が後ろ足の関節を突く。

 倒れた山羊から僕が皮を剥ぐ。

 3匹目で皮じゃないものが盗れた。


「え?」

「どうした」

「山羊肉だ」

「いいんじゃないか」

「軍の食堂で持ち込みでジンギスカン鍋出来るぞ」

「なんで知ってる藤岡」

「肉落ちるかもしれないと思って、聞いてみた」


 窃取成功5,6回に1回肉になる。

 山羊肉と言ってもラム肉より柔らかく、癖が少ない。

 牛や豚じゃないなと言う程度。

 羊肉は美容にいいと誰かが言った所為で、山羊肉は売らず、鍋か串焼きで消費した。

 装備はダンモット革で満足していて、山羊皮は売るので、収入も悪くはない。


 そして11月14日が来た。

 ぴったりはちょっと不安だったので、15日にした。


【 職業変更 義賊 斥候 先鋒 】


「義賊で、お願いします」


【 職業 義賊 職能 奪取 独行時収得率上昇小 】


「あんぎゃあ」

「どうした」

「職能に奪取が付いてる」


 阿久津先生に聞きに行った。


「こんなに早く義賊になったのがいない。1例報告物だ。ほとんど休みなしに入ってただろ。軍は強制的に休ませるから、お前ほど根詰めて入らない。普通ならイタチで満足して入場回数が減る。跳躍取れたのが分岐点じゃなかろうか」

「特別疲れもしないし、やる気も落ちなかったんですよね」


 金銭的に余裕があったので、イタチで生活が出来て満足するようにならなかったのかなと思った。

 出来るだけ詳しくレポートを出してくれと言われた。

 謝礼が1000万なので受けた。軍事費から出るんだろうか。

 何かの役に立つかもしれないと思って、何をどれだけ獲っていつ窃取のレベルが上がったかは記録していた。


 日記を移すだけで税金から1000万貰ってしまったが、やる気がなくなることはなく、今日も山羊狩りである。

 奪取を意識すると、盗れる物が判り、2つ以上あると選択式になる。

 普通は皮か肉なのだけど、偶に強打のオーブがある。

 落ちる確率以前に、持っているのといないのがあるようだ。

 盗れる確率は30%くらいだが、ドロップより10倍高い。


 12月までに全員分の強打が盗れた。

 二つ目のオーブを入れたら、体毛が完全に抜けて、髭も生えなくなった。

 スキルオーブでも融合すると体毛が抜けるのが判ってから、髭の生えている男は弱いと思われるようになった。


「奥に行く前にタラバッタから跳躍取らないか」

「おサル馬鹿言うな、でかい虫キモい」


 左4キロの害虫天国に行きたがって、今野が井月さんに怒られる。


「タラバッタはまだマシ」

「あれキモかったら、マジでタラバガニ食えんだろ」

「イセエビなんてリオックよりキモくね?」


 各方面からの反撃を受けて、井月さんは沈黙した。

 タラバガニをバッタ型に組み直したタラバッタは、そんなにキモいとは思えない。

 戦闘職なら跳躍は欲しい。

 射手は射撃後の移動が素早くなり、木の枝に飛び上がったり出来るようになる。

 行って見たら、意外にドロップ率が高くて、40%だった。


「他に落ちる物がないからか」

「いや、バッタ肉がある」

「いらん」

「5キロのタラバッタガニはこれを大きくしただけに見えるが、カニだぞ」

「タラバガニはヤドカリだ」

「他のヤドカリはあんまり食わないよな」

「ヤシガニ食うだろ」

「あれ街中でどっかに張り付いてると、でっかい不気味なクモにしか見えない」

「タランチュラって変な味のカニなんだっけ?」

「変なって時点でカニじゃねえよ」

「キモイハナシヤメロ」


 井月さんが壊れてしまったが、冬至までに全員分取れた。

 宗教は滅んだが、日本は冬至の祭りはする。

 冬至くらい休もうとなって、22,23,24日は休みにした。


「休んでなにすんの」

「みんなで集まって、騒ぎながら飯食って、その後はセックス」

「日常業務だが」

「うむ」


 今野達は強打と跳躍が取れたので、一時の先走ろうとする雰囲気がなくなった。

 そのまま正月の支度に入って、年明けの4日まで休みになった。

 こんな風に休むのが普通なんだなと思った。

 両親が亡くなってから、年中行事に興味が無くなってしまっていた。



 

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