第4話 パーティ

 学校が始まって、阿久津先生に相談した。


「パーティを組んでくれる子はいないでしょうか」

「夏休みにジョブ取ったのは、お前と行けるとこまで育ってない。年上が嫌じゃなきゃ、早生まれの高1と組む方がいい」

「そっちがあったんですね。年上って言っても、3月なら2か月しか違わない」

「そうなんだが、高1と中3だからな。年上面されるぞ。特に女」

「ああ、うーん」


 早生まれの上級生に覚えがある。


「なにも一度組んだら一生って訳じゃないんだ。女と組んで性欲処理させてもお互い様だ。してもらうと考えるな。どこまでもつけ込まれるぞ」

「はい」

「と言っておいて女を紹介するのもなんなんだが、実は須藤と内藤が上手くいってないって言って来たんだ。大体入学前に組んじまってるからな。あの二人でどうだ」


 体型と身体能力から、戦闘スタイルが同じになると思われた須藤さんとは、割と話していたが、内藤さんは居るだけの人だった。


「ジョブなんでした? 取る前に卒業しちゃったんですよね」

「先鋒と射手。どんなのがよかったんだ」

「タゲ取ってくれればいいんです」

「じゃ、高尾で会って、1回入ってみるか」


 先生が連絡してくれて、ダンジョンマイナー部の先輩だった二人と組むことになった。

 ちょっと好戦的な須藤慶子すどうけいこ(姉御肌でケイコねえと呼ばれていた)と、何考えてるか判らない内藤芳恵ないとうよしえ、こっちは単にヨシエちゃん。 

 どっちも痩せ型で浅黒い。陸上部って雰囲気。


 決まった相手のいない男と女がダンジョンに行くのは、性欲処理をするのが不文律。

 オーブを一つでも融合していると、18歳以下では妊娠しなくなる。


 男だって誰でも良い訳じゃない。

 ソロのアイドルは苦しいが、アイドルグループなら入れるだろうと言う容姿の二人と落ち合った。

 半年ぶりだが、二人ともそんなに変わっていない。

 僕の情報は阿久津先生から行っている。


「ガハラ優秀じゃん。もう窃取5だって」

「ええ、まあなんとか」

「んじゃ、入ろうぜ」


 内藤さんは、挨拶した後は何も言わなかった。

 入口の石柱を一緒に触って、仲間だと思うと、同時入場者になる。

 表示はないが誰が仲間なのかはお互いに判る。10人までしか同時入場者に出来ない。

 同時入場者にしか影響を及ぼさないスキルがある。


 僕がリスを見付けて、内藤さんが撃つ。須藤さんが押さえて、僕が革を窃取。

 須藤さんは菊池槍、内藤さんは射撃用の細身の刺突槍を使っている。

 射撃は武器の切先や穂先から気弾を撃つのだが、鋭い方が初速と貫通力が上がる。


 今日は一人の時の倍は獲れたけど、儲けは3分の2。

 経験値は精気とは別なようで、溢れる量は増えても一人の時よりは成長が早くなるらしい。


「いい具合じゃね? ガハラ一人の時はどんくらい獲れてた?」

「この半分くらい」

「じゃ、儲けは少し減るのか」

「でも、この先に一人じゃいけない感じだったから」

「そうだよな。明日、イタチ行って見る?」

「やってみたい」


 夕食はダンジョン内の、比較的リーズナブルな定食屋如月亭にした。

 二人はずっと入ってみたかったのだそうだ。

 チェーン店がやっているのだけど、外のより明らかに美味しい。

 その分高い。

 値段を気にしないで注文できると、二人とも喜んでいた。

 食休みをしながら、この後の話になる。


「ヨシエはレズだけど、男がダメって訳じゃないから、そっちは心配すんな。こっち来て寝るだろ。二人部屋でダブルベッドだ。三人でもそんなに狭くないと思う」

「女子寮、それいいの?」

「素性の判らない男連れ込んじゃダメだけど、お前みたいにはっきり判ってるのは構わない。女子寮男子寮になってるのは、昔の名残だってさ」


 管理室に氏名と身分を申請する決まりはあるけど、男子寮住まいなので、来訪者名簿に書いただけで何も言われなかった。

 三人の結束は固まったが、翌朝別々の学校に行く。

 授業が終わったらマイナー部に行って阿久津先生に報告。


 「二人とは相性が良く、狩りも上手く行きます。今日はイタチに挑戦しようと思います」

「そうか、良かった。イタチなら稼ぎにもなるだろう。上手くやれ」

「はい、有難う御座いました」


 午後から高尾駅に向かった。

 イタチは木の上と地面の両方から、人間を狙っている。

 向こうが跳び出してくるより先に僕が見つけて、ヨシエちゃんが撃って、ケイコ姉がしばく。

 死なない内に革を窃取、三人持ち回りで仕留める。

 射手でも直接攻撃で止めを差すと度胸がついて、上位モンスターの威圧に耐えられるようになる。


「先に見つけて撃っちまえば、リスと変わんねえな」

「そんなに可愛くない分、イタチの方が楽」

「当分ここでいい?」

「次はダンモットか。でかくて防御力があるだけ、って考えるのは危険か」

「強斬持ちだから、引っ掻かれたらケイコ姉の今の防御はまずい。あれの皮の防具があればいいんだけど」


 この先にいるのはダンジョンマーモット、略してダンモット。

 スキルとして強斬を持っているのに、落ちないし盗れない。


「イタチの儲けで買うか。なんか負けた気がするんだが」

「手が届くところにいるのを買うのはね。瀕死くらいに追い込んでから皮剥ぐか」

「まず、イタチの皮でお金貯めたい」


 ヨシエちゃんが常識的な発言をして、1週間はイタチ獲ろうとなったのだが、土曜日に1日中入るので、午後からダンモットを見に行ってしまった。


 立つと大人の半分以上ある。ノームですと言われたら納得してしまう。

 ノームはもっとちっちゃいか?

 困るのは、1匹でいない事。5,6匹固まってる。

 石を投げて逃げる。個体差で速い遅いがあるので、追跡を諦めるのが出る。

 何度か石を投げて、1匹だけ追って来たのに、三人で酷い事をした。

 皮は盗れなかった。


「当分イタチにしよう。まだ早い」


 ケイコ姉が疲れ切った顔で宣言した。

 二週目の土曜日に、今野のパーティと如月亭で一緒になった。

 井月さんに知らない女の子を紹介された。


「これ、従妹の大川智世おおかわともよ。あんたの替りの斥候」

「盗賊の漆が原祐一郎です。よろしく」

「よろしくう。ここ気楽だから感謝してる」


 上手くいっているようで何より。

 今野が僕等の皮鎧を見ている。


「装備、三人とも自分で獲ったイタチ皮か」

「そうだよ。ダンモットは無理だった。勝てなくはないんだが、時間の無駄」

「俺等、勝てるが皮が落ちない。全員の装備揃うまで組まないか」


 今野のパーティは斥候1先鋒1主力2射撃2で、バランスはいいが採集系がいない。

 誰も収穫を採集にしていなかった。こっちは明らかに攻撃力不足。

 明日、一回組んでみようとなった。

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