第2話 追放ではない

 翌日学校に行くと、組む予定のパーティのリーダー予定者の今野勝こんのまさるが来た。

 勿論、昨日の内に盗賊になったのは連絡してある。


「ガハラ、なんで盗賊だ」

「攻撃、防御、持久が低かった」

「お前、修行は真面目にやってたよな」

「防御は受け止めるなと言われてるだろ。自分で言うのもなんだが、受け流しが上手かった。持久走も省エネ走法だ。素の防御と持久が低かったとしか思えない。ぶちかましとか、タイヤ引っ張って走るとかすれば上がるんだろうけど、転職できるのは半年先だ。夏休みからパーティで動くなら、別の斥候を探してくれ。盗賊の索敵では全体が危ない」


 盗賊だけなら接敵に気付くのが遅れても、敏捷性と隠行で逃げてしまえる。

 夏休みは7月1日から9月15日までだ。


「判った」


 今野はあっさり去っていった。

 しつこくしてもどうなるものでもない。

 追放されたのではなく、こちらから脱退である。

 子供の知能が上がったのか、学校は半日になった。

 午後からはダンジョンマイナー部で訓練をしていたのだが、今日からは高尾山通いになる。


 ダンジョンマイナー部に顔を出して、顧問の阿久津先生に今までのお礼を言った。

 ダンジョン出現の初期から攻略部隊にいた人で、年齢的に後進の育成に回った。

 軍からの出向で、現役の大尉である。

 巨大カマドウマにドンマちゃんと付けたのは、この人だと言われている。出身は栃木。


「今野と組むつもりがなかったら、お前の体ならジョブ取ってから鍛えた方が良かったんだ。だから、回避が上手過ぎて素の防御が上がらないのも判ってて黙ってた。生き残るには回避最強なんだよ。受け止めるのは回避が出来ない時の非常手段だ。でもな、盗賊は回避と隠密が上手すぎると奥行ってコロッと死ぬ。体温感知とか、生命力感知なんてのがいるんだ。人間にも、感知に引っ掛からない空間があるのに気付くのもいるからな。絶対無理するなよ」


 先生は判っていたんだな。今野と組むのが無理だったんだ。


「はい、色々と有難う御座いました。これでお別れではないけど、毎日は来ませんので」

「ああ、じっくり時間をかけて鍛えろ。盗賊は他人を助けると義賊になって更に怪盗になれる。斥候に転職したら、日本人だけ忍者になれる。どっちでも面白い。頑張れよ」

「はい、お教え有難う御座います」


 そこまで行くのが並大抵ではないのですが。

 学校で銅製の直径40センチのバックラーと、小烏丸造り軍刀仕様の片手用を借りて、高尾山に行った。

 軍刀と言っても、霊気の通りを良くするため、一体形成で鍔も護拳もない。

 今日は少し奥に行って、50センチ強のカマドウマ、ドンマちゃんと、1メートルのエンマコオロギ、コロギーを狩る。

 1キロ以上東に入ると、モンスターは無限湧きする。

 一応どっちにも窃取を使ってみるが、何も持ってない。

 もし盗れるなら肉だろうけど、コオロギはまだしも、カマドンマの肉は嫌過ぎる。


 1個15円のマナコア(日本の公文書では霊核)を集めて帰る。

 全く疲れないので、2時から6時まで4時間も働いてしまった。

 生えている野イチゴも収穫して、収穫が採集になるようにする。

 採集だと見たことのない物でも、手に取ると何だか判るようになる。

 鑑定のスキルはない。


 マナコアは49個、5分で1個か。735円。

 スーパーで弁当買って帰ろう。

 デザートは当分野イチゴ。食べる分以上に採れて、買い取りもしてもらえないんだけど、捨てられない。 


 金には困っていない。

 両親の事故は、自動操縦が主流になってきたのに反発して手動で運転していた奴が事故を起こし、歩道に乗り上げて来たもので、100万%相手が悪い。

 僕の両親の事故が切っ掛けになって、マニュアル走行での事故が、危険運転致死傷罪から未必の故意での殺人罪になった。

 今は市街地でのマニュアル走行は禁止されていて、やればそれだけでテロ行為になる。

 ダンジョンが生えて来てから善人が力を持ち、法律が変わり犯罪者は住み難い社会になっている。


 慰謝料や遺産の管理は、お母さんの弟の叔父さんがしてくれた。

 今の寄宿舎に入れるのを教えてくれたのも叔父さんだ。

 こう言うのも昔だったら親戚に金を取られたりしたらしい。

 

 慰謝料の他に、僕が18歳になるまで養育費が振り込まれるので、遺産には全く手を付けていない。

 18になるまでに生活できるだけの収入を得られるようになって、出来れば一生減らさずに過ごしたい。


 2色のべったあがいないのを確認してから、大木に盾を構えてぶつかって行く。

 シールドバッシュの練習だが、防御力攻撃力持久力が上がるそうな。

 一週間で昆虫取りを卒業して、ネズミエリアに行った。まだ入り口から1キロ範囲内。

 初心者用エリアなので人はまばらで、モンスターは探せばいる程度。

 安全管理のために、監視カメラを乗せた気球が幾つか浮いている。


 猫くらいのネズミがうろついているが、集団で襲ってはこない。

 一定範囲に近づくと襲って来る。

 たまに同じ大きさのモルモットが混ざっていて、予備動作のないポップコーンジャンプで飛び掛られる。

 攻撃は頭突きだけなので、一定距離に入ったら警戒していれば大丈夫。


 モルモットだけモルモットの肉が盗れるんだけど、食べたくはない。

 売れるので売ってしまう。

 100グラム20円のが500グラム落ちる。

 ゲテモノ系の焼き鳥で売っていたりする。


 調理スキル持ちが調理すると、言わないとラム肉と区別がつかないらしい。

 ダンジョン産の肉が安く食べられるので、一部では人気がある。

 地球産でもクイとかタケネズミなんて食用がいるし。


 窃取でネズミ皮が盗れるので挑戦しているが、10日で2枚しか盗れなかった。

 窃取の上に奪取、強奪があるので、そんなに上げ難いスキルではないはず。


 ドロップは100匹で1枚。

 ネズミ皮は安い靴やサンダルの材料で、普段履きになる。

 魔物革の装備を履きなれると、地球産の材料の靴は履けない。

 サイズ調整で足に張り付いて、丈夫な素足で歩いている感覚になる。


 学校のパソコンで、落ち易いアイテムを調べても、ドロップしか情報はなかった。

 境遇が違うので、寄宿舎には話し相手はいない。                                                                                                                                                                                                                                                                                 

 ダンジョン採掘者交流掲示板メジャーなマイナーになろうぜ、と言うのがあって、初心者質問スレの過去ログを漁った。

 調べれば判ることを自分で調べようともしない者に、先生は教えてくれない。

 小学校じゃないんだから。


※三下盗賊

 窃取しやすいモンスっているんでしょうか

 ネズミだと3に上げるのに2年くらい掛かりそうなんですが


※名うての盗賊

 それが修行ってもんだ


※義賊を目指す盗賊

 虫行け 需要はないが盗るだけなら虫の殻


※三下盗賊

 ありやとさんした!


※名うての盗賊

 ち、聞けば教えて貰えると思うようになったらどうすんだよ

 即答なんて親切じゃねえぞ


 割と簡単に出て来た。

 高尾山だと虫がいるのは左の2キロエリア、通称昆虫天国。

 まず、右の2キロでレベリングする。

 ちょっと大きくなっただけで、面子は変わらない。

 霊核の買取値が20円、皮も大き目なので少し収入アップ。

 モルモットの肉は700グラムに増量。


 6月の半ば、モルモットから跳躍のオーブが出た。

 跳んでみると、垂直ジャンプで2メートルくらい跳べる。

 鍛えれば3メートルは行けるらしい。

 ダンジョンの外では、1メートルくらいしか跳べない。

 以前なら垂直ジャンプ1メートルって、中学生じゃいなかったはず。

 これを区切りにして、昆虫天国に挑むことにした。                                                                                   

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