最弱戦闘職のトレジャーハント生活

袴垂猫千代

第1話 出来ない事をしようとすると無理が生じる

 10年前にダンジョンが出現し、15歳以上が入り口に立っている直径1メートル高さ3メートルの石柱に触ると、職業とストレージが得られるようになった。  

 5月14日に15歳になった僕、漆が原うるしがはら祐一郎ゆういちろうは、高尾駅から歩いて5分の、農林水産省の何かがあった山に生えたチュートリアルダンジョンに来ていた。

 直径10メートルの半円の入り口の、真ん中に立った石柱に触れる。


「斥候を希望します」


 体がふわっと広がった感じがして、ストレージが出来たのが判る。

 その中にトランプのカードより一回り大きい、厚さ5ミリの板がある。

 アイテムは収納すると名前が表示されるのに、このカードは名がなく、ダンジョンカードと呼ばれている。


【属性 風 融合適性 獣身 生体融合 

 職業 盗賊 

 職能 窃取 探索 策敵 隠行 単独行動時収得率上昇弱

 習得技能 格闘 斬撃 刺突 敏捷 収穫

 霊18 敏捷18 攻撃7 防御8 

 持久9 器用17 心16 適性値42 融合等級5】


 そこに表示されているものが、出して見なくても判る。


「盗賊か。攻撃、防御、持久が低すぎる。頑張ったつもりだったんだけどな」


 希望に能力が届いていない場合、出来るだけ近い職業をダンジョンは選ぶ。

 出生時体重2300グラム。努力ではどうにもできない。

 ダンジョンカードを持つもの同士の間では、2500グラム未満の子は生まれなくなった。

 融合等級の5はないに等しい。まともなスキルを持ったモンスターのコアを融合出来ない。

 これは努力で上げられる。


 勇者の適性なのか戦闘奴隷の適性なのかは判らない適性値は、装備の質に影響する。

 40越えは上の中くらい。これだけが救いか。

 地水火風の四属性は、装備アイテムに属性があって、特定の属性しか装備出来ないものがあるが、それはあまり気にしなくてもいい。

 風属性は敏捷性は高いが、攻撃力防御力が低いのが問題。


 融合適性の獣身は、特定のモンスターの核と融合すると、戦闘用の分身が造れるのだけど、モンスターと同じ姿になる。

 獣頭人身の半獣身なら武器が使えるが、獣身は装備出来ない。

 防具は形態次第。


 生体融合は皮膚の追加装甲に宝石様の霊晶甲が出せるけど、男はY染色体が欠損と見なされて修復され、x染色体化し、外見が完全に女性化する。

 膣もあるが精巣が体内に入って男性機能は失われず、意思で子宮膣部を伸長して疑似ペニスに出来る。

 

 盗賊は索敵力、戦闘力とも斥候より低く、アイテムの拾得率はトレジャーハンターより低い。

 やれる事は多く器用度は高いが、器用が付かないただの貧乏職と言われている。

 独自の職能として、生きているモンスターからアイテムを取れる窃取があるが、そんなに成功するものでもない。

 単独行動時収得率上昇は10メートル以上離れていればいいので、パーティに入れない訳ではない。


 兎も角、ダンジョンの入り口の両側にある監視所に、報告と登録に行かないといけない。

 受付にダンジョンカードをみせて、氏名と職業を登録、採掘人証を貰った。

 ダンジョンから出て来るものは燃料になるモンスターの霊核、マナコアが主なので、世界中で炭鉱夫のような呼び方をしている。

 標準英語名はダンジョンマイナー。


 ダンジョンは直径100メートルの石板に乗った直径10メートル、長さも10メートルの半柱だ。

 でかいお盆に乗ったカマボコと言われている。

 横から見ると灰色の石柱なのに、入り口は厚みがない。


 世界中すべて入り口が真南を向いている。

 真北の出口は、両脇にいるボスのどちらか1体を倒せばこちらから入れるようになる。

 見た目は同じだが、中が5キロのものと10キロのものがあり、5キロはチュートリアルダンジョン、10キロがメインダンジョンと呼ばれている。

 適性値が50以上ないとメインダンジョンには入れない。

 チュートリアルのボスを単独討伐すると、一度だけ適性値が10上がる。


 丸1日学校を休んだので、少しダンジョンに入った。

 10メートルの中央道を挟んで、左側には中の監視所、その奥が緊急治療施設、一般用の食堂もある。

 1キロまでは人間が触っていれば、外から持ち込んだものでも分解吸収されないので、療養施設や高級料理店もある。

 2キロから先は動かさないと吸収されてしまう。


 左は赤土の荒れ地に叢が点在して、太い木が思い出したように生えている。

 入り口付近のモンスターは、直径2メートルほどの、のたくるうどん玉、這い寄る饂飩。

 うどんを漢字にして混沌ぽく見せている。

 英語名はクローリング・スパゲッティ・モンスター。CSM。


 モンスターの命名権は最初に見た者にあり、現場が面白半分に付けた名前でも、正式名称になってしまう。

 国によって違うが、モンスターのドロップ品に付く名前がその国の正式名なので、ダンジョンがリアルタイムで地球をサーチしていると考えられている。


 近寄ってきたうどん玉は、直径10センチの触手なのかそれが本体なのかを振り回すが、こっちは長さ2メートルの錬成で作った一体形成の銅製の軽い槍を持っている。

 石突付近を持って振り下ろせば、安全に触手を切り落とせる。

 錬成品は、銅でも気を通せば地球の鋼より硬く丈夫になる。


 スライム役の饂飩を半分くらい斬ると、グラニュー糖のような細かい結晶に変わった。

 モンスターは内臓や筋肉はあるのだけど、霊的なナノマシンで出来ていると推測され、死ぬと全体が幹細胞的なものに戻ると思われている。

 雪が早回しで溶けるように消えて行く結晶の中に、1センチのビー玉がある。

 クズ石と言われている、最小のマナコアだ。国の買取値は1個10円。

 実戦練習が出来て、飴玉が買えると思えばいい。


 立ち木をよく見ると、推定重量5キロの巨大ヒル、黒いべったあが張り付いている。

 色変わりの茶色いべったあもいるが、色が違うだけ。

 2つ折れになって跳びかかって来るので、不用意に近づかない。

 頭に当たれば、頭蓋骨はヘルメットで守れても、首をやってしまう可能性が高い。


 落ちている石を拾って投げる。

 オーラバリアがあるので、ただの物理攻撃で倒すなら対物ライフルが必要だが、ダメージが入らなくても、攻撃されたと判断したら飛んで来る。

 ドサッと落ちれば、ただのでかいヒル。突っ突いて殺す。

 盗賊関連の情報を思い出して、もう一匹見つけて、落ちれば攻撃はされない(ぼさっと動かないでいれば噛まれるが)ので、窃取をしてみた。 


 なにも盗れないのが、感覚でわかる。

噛まれないように頭を槍で押さえて、窃取を繰り返す。

 何も持ってない何も持ってない何も持ってないが繰り返しイメージされる。

 100回やると窃取のレベルが2になった。

 3にするには窃取を100回成功させる必要がある。


 今日はこのくらいにしといてやる、と言ってヒルをビー玉に変え、帰路についた。

 高尾駅北口のお寺みたいな駅舎は、国宝級らしいけど、級ってことは国宝じゃないんだろう。 


 僕の住んでいるのは八王子。

 11歳の時に両親が交通事故で死んでしまい、入る施設を選ばされたので、八王子のダンジョン探索者養成校の付属宿舎に入れて貰った。

 中高一貫校なのだが、5キロと10キロが近くにあり、交通の便がいい八王子に、小学生からダンジョンに入るために、集まって来る上級民の子弟などがいて、特例と言うほどではなく小学生用の寄宿舎も用意されていた。

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