決闘

 鳴の家へ歩いて向かう


 ……そういや高レベル探索者に言ったって事は鳴も呼ばれてる可能性あるな。そうなると俺入れなくね?


 バックから携帯を取り出してメールを確認すると鳴からメールが来ていた

『植木鉢の下に鍵を置いてあります。中に入ったら鍵を置く場所があるのでそこに置いといてください』と書いてあった


 ……植木鉢の下……鍵の置き場としてはテンプレだな


 鳴の家に着き植木鉢を探す


「何個かあるな。どれだ」


 植木鉢を上げて探す


「重っ……いや俺の力が無いだけか」


 2個目の植木鉢を上げた所で見つける

 一度植木鉢を別のところに置いて鍵を回収した後戻す

 そして鍵を使って開けて中に入る

 中に入った後、鍵を閉めて指定の場所へ置く


 汚れているので片手で頑張って服を脱いで時間をかけて別の服を着る

 ソファーに座る


「片手だと着替えるのも大変だな」


 休憩がてらテレビを見る

 普通の番組がやっている

 飲み物を飲もうとペットボトルを取るが蓋を外すのに苦労をする


「……これは早めに治したいな。となると詠見だなぁ。いやだが借りを作るのはなぁ」


 ……これ普通の骨折じゃないから自然治癒待っても完全に治るか分からねぇか……やむを得ないか


 詠見は治癒魔法を多く扱える

 中には折れた腕を治す事が出来る魔法もある


「あっ、でも詠見も高レベル探索者、呼ばれている可能性はあるな」


 詠見に電話を掛ける

 忙しければ出ないだろうし出なかったらメールを入れておこうと思っていたら詠見が電話に出た


『借りを作りたくないってわらわを頼らないと思ってたんけどなぁ』

「普通に折れただけならな。配信見てたか」

『違うんか? そりゃあんだけ宣伝してたらなぁ』

「多分攻撃受けた部分の骨粉砕されてる」

『粉砕……そりゃ大変やなぁ』

「それで治癒魔法掛けて貰いたくてな。金は払うぞ」

『貸しでもえぇで』

「金を払う。確か金額決めてたろ」

『あれ結構高いで?』

「金には余裕がある」

『流石やわぁ、そんならクラン来れる? 今ちと施設から離れられなくてなぁ』


 月詠はクラン施設を保有している

 ダンジョンに挑む探索者が集まる施設なだけあってダンジョンにかなり近い


 ……ここから月詠の施設ならそう遠くないな


「行けるぞ。時間はかかると思うが」

『来たらクランリーダーに呼ばれたって受付に言えばうちの子が案内してくれるわぁ』

「分かった」


 電話を終えて家を出る。鍵を先程置いてあった植木鉢の下に置いて施設を向かう

 徒歩での移動の為、息を切らす


「疲れる……体力も回復し切ってないから休んでからの方が良かったな」


 適度に休憩しながら時間をかけて施設へ向かう


「時間かかった……」


 何とか施設に着き中に入る


 ……すげぇ涼しい、助かるわぁ


 中に入ると涼しい

 施設内には多くの探索者が居た

 駄べっていたり真剣に何かを話している人もいる

 彼らの大半は月詠のクランメンバー


 ……流石最も人が多いクラン、人多いなぁ


「あれって」

「配信者のユエだな」

「今日の生配信ではイレギュラーに遭遇したって言う」

「なんでここに?」

「月詠のメンバーではないよな?」

「クラン加入申請とか?」

「それなら良いな」

「負傷してるしリーダーの治癒魔法じゃないか?」

「あぁ、そうか結構痛そうな攻撃受けてたもんなぁ」

「でもリーダーって確か忙しいんじゃ」

「確かに、対応出来ないんじゃないか?」


 視線が集まる

 どうしても目立ってしまう

 見た目もだが今日は特に生配信が話題になっている


 ……やっぱ目立つな


 早足で受付へ行く


「月詠クランへ御用ですか?」

「月詠のクランリーダーに呼ばれた」

「リーダーに呼ばれたですか」


 ……あれ?


 詠見の言う通りに言ったが受付は首を傾げている

 なんなら受付の人物は今何かを調べている


「クランリーダーの客が来るって聞いてる?」


 対応した人が小声で隣に居る人物に聞く

 その人物も首を横に振るっている


 ……あれれ?


「すみませんがそのような話は……」


 無言で携帯を取り出して詠見に連絡をしようとする


「彼女はクランリーダーの客で間違いありません」

「副リーダー」


 声がした方を向くと優一が立っていた、詠見の言っていた案内人は優一だった


 ……もしかして副リーダーは雑用係なのか?


「あぁ、副リーダーの」

「クランリーダーからの命令で案内をしろと言われております。こちらへどうぞ」

「本当に客だったんですね。申し訳ございません」


 受付の人が頭を下げる


「気にしなくて大丈夫ですよ」


 そう一言だけ言って優一に着いていく

 エレベーターに乗り登っていく


「すみません、受付への連絡がされていなかったようで」

「詠見の奴、どうせ案内人行かせたし言わなくていいかとか思ってそう」

「……ありそうですね。それとは別ですがイレギュラーとの戦闘お見事でした」

「ギリギリの勝利だったけどね」

「それでも凄いですよ。イレギュラーへの対応能力と実力、流石ですね」

「俺は戦闘の経験は豊富だからな」


 身体の形が変わっても今までの経験は残っている


「素晴らしいです。月詠はあのイレギュラーは本来のリザーリオレムより強いと見ていますがどう思われますか?」

「間違いなく強いぞ」


 本体の動きが早くなっていた

 不意打ちとはいえ倒れた状態から障壁を張る余裕が無い程の素早い一撃、それも警戒して距離を取っていたのにだ

 戦闘時もスキルが無ければ反応し切れなかった可能性は高い


「触手を失った事で手数は減ったがそれを補うだけの速度はある」

「知能はどうですか?」

「微妙だな。あの土煙が狙った物なら中々だがあれ以外は凶暴なだけだったからな。あっ、最後後ろに下がったか」


 エレベーターを降りて廊下を歩く


「そうでしたか。良い情報を有難うございます。今、詠見様を含む幹部陣でイレギュラーの対策を考えています」

「月詠が?」

「月詠にはリザーリオレムと戦う探索者は多いので対策と戦略を考えておく必要があるのです」

「成程、今動けないってのはそのせいか」

「そうですね。今も配信内容を見て対策を考えています」


 ……ここに呼んだのってもしかして……


 長い廊下の先にある扉を優一が開く


「おっ、早いなぁ」

「早めに治して欲しかったのでな」

「リーダーにタメ口だと! 無礼者が!」

「誰そいつ」


 幹部と思しき人物が机を叩く

 詠見には信奉者が多い、幹部達は特にそういった人物が多いのだろう


 ……面倒な


 タメ口なのはいつもの癖、幹部達からしたら嫌に思うだろうがこれは個人の話だから外野に文句を言われる理由は無い


「あら、配信の子じゃない」

「傷を治しに来たか。今部外者それも無礼者の対応をしてる暇は無い。失せろ」

「リーダーにタメ口聞くような奴は追い出せよ」

「優一、何故連れてきた」

「彼女はリーダーの客です」

「客?」

「客対応なんて受付の子らにやらせればいいでしょ。リーダーも私達も今忙しいの知ってるでしょ?」

「客ねぇ、イレギュラーを倒したから調子に乗ってるとか?」


 幹部の1人が机の上に飛び乗る

 盗賊などに居そうな見た目の男

 ため息をつく、関わると絶対面倒な事になると分かる


 ……面白がって言ってないなこれ、めんどくせぇ


 詠見を見ると隠れて笑みを浮かべている


「おい、無視すんなよ。雑魚の分際で」


 ナイフを向けてくる

 本物のナイフの刃先を向けてきた


 ……本物だなこれ……そうか


「翼よ我が怒りに答えたまえ」


 片翼が現れる

 男の首元に翼を置く

 ダンジョン外のここではステータスの影響を受けない

 つまり例え高レベルであっても魔法やスキルがあるだけで一般人と大差は無い

 そして低レベルと高レベルの差も無い


「やんのか?」

「決闘を申請する!」


 俺は決闘を申請する

 決闘、ダンジョン内外どちらでも行える探索者同士の戦い

 ギャーギャー騒がれるのは面倒だ

 こっちは治療して貰いに来ただけ、それもちゃんと事前に許可を得た訪問だ

 疲れているってのにこんな絡まれ方されて俺は苛立っている

 決闘申請した理由はそれだけでは無いが


「正気ですか?」

「正気だ」

「決闘なんぞ」

「わざわざ受ける必要が無いよ」

「許可するわぁ」


 詠見が決闘の申請を受け入れた

 優一と俺以外のこの場にいる人は皆驚く

 クランリーダーが受け入れた以上クランメンバーは従わないとならない


「なっ……リーダー」

「ルールは?」

「ダンジョン外の戦闘、魔法スキルあり、武器は1本だけありで、敗北条件は降参か戦闘続行不可になった場合」

「そのルールだと」

「不満あるのか?」

「いや、良いわ。こっちはそうねぇ、圭介相手を」

「良いぜぇ! 相手してやるよ」

「死んだな」

「あぁ、可哀想に、圭介相手じゃ」

「自業自得だな」


 ……勝負する前から勝ちを確信してるなぁ


 盗賊風の男と決闘をする事になった

 クラン施設にある訓練場で戦う事になり移動する

 幹部達と詠見が先に移動する


「幹部が無礼を働き申し訳ございません」


 優一が頭を下げて謝罪する


「君が謝る事じゃない。悪いのはあいつら」


 ……詠見みたいな悪戯好きがトップで幹部があれじゃ疲れるよなぁ


 優一の立場に同情をする

 本来は案内するのが役目だった。こんな事になるはずが無かった


「なぁ、全力でやっていいよね?」


 リザーリオレムからドロップしたチョーカーを装着する


「恐らく詠見様はそのつもりで許可したのだと思います。しかし、先に治療した方が」


 片腕は動かない、それどころか今も痛みがある


「このくらいのハンデあるくらいが丁度良い」


 ……配信を見て対策していたなら俺の戦闘方法も見ているはず、あちらには戦闘スタイルを知っているという強みがある。逆にこっちは知らねぇ


 勝てる手を考える


「そうだ、あと1つ聞きたい事があるんだけど」

「なんでしょうか?」

「それは……」


 少し遅れて訓練場に向かう

 訓練場に着くと既に圭介はスタンバイしている

 観客も多くクランメンバーが見に来ている

 ザワついている


 ……野次馬が多いな。これからやる事、配信に響かねぇよな?


 詠見が結界を使い俺達を囲むように展開する


「叩き潰される覚悟は良いか?」

「そっちこそ地を這う覚悟はあるか?」

「舐めやがってタダでは済まないと思えよ」

「決闘仕掛けてタダで済むと思うのはお前のような馬鹿くらいだろ」

「あぁ!?」

「事実だろ。虎の威を借る狐風情が図に乗るな」


 俺は相手を煽り睨みつける

 煽るつもりで言っているがこの煽り文は今俺が実際に思っている事


「それじゃ、月詠クラン幹部の1人圭介VS今話題の配信者ユエの決闘の開始をここに宣言する。互いに全力で戦いなさい!」


 詠見が口上を述べて決闘が始まる

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