オモイカネ

 俺は起き上がる


「無理はするなよ」

「殆どの傷は完治した」


 血は大量に流れたが傷自体は殆ど回避しきれなかった時の浅い傷が多かった

 治癒の本で治る傷だった


「腕は治せないか」

「流石にな。……あぁ、これ骨折れてるってか砕けてるわ」


 ……これは治るの時間かかるな。詠見に頼めば治りそうだが借り作るの面倒……だが鳴に迷惑かけられ……うーん


 アドレナリンが切れた事で折れている右腕に激痛が走る

 想像よりも痛く呻く


「痛ぇ、腕折れる時ってこんな痛かったか?」

「そりゃ激痛ではあるだろ」

「いや、何度も折れた事あるんだがこんな痛み感じたか? ってなってな」

「あぁ、身体が変わった事で痛覚に鋭敏になってるとか?」

「有り得るな。あぁそうだ、なんか落ちたか?」

「まだ見てない。持ってくるわ。動くなよー」


 狛がリザーリオレムが倒れていたところに行きそこに落ちていたアイテムを拾ってくる

 ついでに狛は雑に放り投げられた短剣と刀を探して回収する


「これが落ちたぞ」


 狛が魔導具を手渡してくる

 左手で受け取り見る


「……なんだこれ腕輪?」


 黒い独特な形をした腕輪のように見える

 だが腕輪にしては大きい気もする


 ……腕輪だよな? にしてはでかい気もするが


「形的にチョーカーに見えるな。知ってる魔導具か?」

「……チョーカーってなんだ?」

「オシャレな首輪」

「成程、俺も見覚えない魔導具だな。性能見てみるか」


 性能を確認する

 このチョーカーの効果は中魔力補正と命醒刻印めいせいこくいんだと分かる


 ……固有能力か


「中魔力補正は分かるが命醒刻印ってなんだ?」

「固有能力だな。俺らが使ってる短剣が持つ力に似た奴、これは補助系の能力だな」

「成程、補助系か魔力補正があるって事は魔法関連かもな」

「可能性は高いな」


 命醒刻印、性能を調べる

 魔力ステータスを底上げと魔法強化、代わりに魔力を除く全ステの低下

 発動時、目に刻印が刻まれる


 ……だいぶ使い勝手悪いな。だが恐らくその分ステータスの上昇率が高い。欲しい力だ


 扱いづらい分強い装備

 このチョーカーの固有能力は任意発動の為、刻印は使わずにただの魔力補正装備としても使える


 ……チョーカーならこの服よりは抵抗無い……か? いや、チョーカー……うーん


 チョーカーを付けるか悩む

 この服よりは抵抗は少ないが首元は案外目立つ


「どうした?」

「刻印の性能は……」


 俺は狛に性能を説明する


「……かなり人を選ぶ性能だな。強いが微妙だな」

「使うか? 魔力補正優秀だぞ」


 固有能力は狛の戦闘スタイルには不向きだが魔力補正は使える


「魔力補正は魅力的だがお前の方が相性良いだろ」

「そうだな。翼の魔法の派生が増えればこの力も使う出番が出てくる」

「祈りの翼も生やして空を飛び命醒刻印で強化して翼羽で攻撃とか」

「それが現状考えられる理想だな。まぁ翼羽弱過ぎるが」


 飛ばせる数が少なく威力が弱い、その上使い続ければ羽を失い翼の性能が下がるおまけ付き

 今だと本当に使い所が少ない

 取り敢えず後で使うか考える為、バックにチョーカーを入れる


「威力が弱いよなぁ。進化目指すしかないな」

「そうだな。ザコ敵相手に飛ばしまくるか」


 魔法は使い続ける事で成長するケースがある

 翼羽も一撃の威力や一度に使える数が増えれば戦闘の幅が大きく広がる


「蜂の巣にしようぜ」

「ひたすらしまくるか」

「俺の魔法は派生も進化も当分しなそうなんだよなぁ」

「今の時点で大体完成してるからなその魔法は」

「そうなんだよなぁ。複数の魔法を操りたい」

「レベル上がったが特に何も無かった」

「同じく、レベルは上がったけど何も無かった」


 俺達はリザーリオレムを倒してレベル11になっていた

 すぐにステータスを振り分ける


 ……補正もあって魔力結構伸びたな


「そういや今回の奴はイレギュラーなんだよな?」

「あぁ、間違いなくな」

「遭遇した場合、報告とかするのか?」

「報告の義務は別に無いが今回の場合はする必要があるな。危険過ぎる」


 ……報告されていなかっただけで前からあった事例なんて可能性もあるが


 報告の義務は無い為、報告しないケースもある

 しかし、イレギュラーを報告して信憑性があると判断されると情報料として金が貰える

 今回のような大問題の場合はかなりの額となる

 今回は配信していた、そのデータを見せればすぐに信じるだろう

 受付、正確にはダンジョンに関する物の管理をしている組織への報告

 ダンジョンの情報を集めて管理する仕事をしている人々、その知識量で探索者をフォローする事が多く探索者の相方とも呼ばれている


「情報料も貰えるから報告するだけ得だぜ」

「情報料か良いな。もう動けるか?」

「体力がだいぶ戻った。戦闘にも参加出来る」


 魔力回復薬を数本飲んでいる為、翼も使える


「お前は下がってろ。体力有り余ってる俺がやれる」

「そうか、ならお言葉に甘えさせて貰う。そういや、扉閉まった時って見てたか?」


 立ち上がり地上を目指す


「いや見てなかった。ゲート通ってたからな。その後配信で気付いて戻って開けようとしたけどビクともしなかった」


 ……誰か居たとするならゲートを通って戻ってきた狛とすれ違う筈、流石に誰かの罠では無いか。そもそもあれを閉められる探索者は知らないな


 魔物が出たら狛がメインで戦い短剣と翼羽で援護をする

 魔物の目に翼羽を突き刺し動きを止める

 目を潰された魔物は動きが鈍くなる、狛が横から素早く剣を振るって真っ二つにする


 ……目潰しが一番の使い方だな


「だいぶ楽だ」

「油断はするなよ」

「分かってる」


 次々と魔物を倒して進んでいく

 5階層より上の階層は狛1人で倒していく

 そして地上に着くと探索者達の視線が集まる


「あの2人って」

「イレギュラー討伐した奴だ」

「あの2人が噂の」

「配信見てないから分かんねぇんだがそんな凄いのか?」

「数十年で一度として見つかっていない事例との遭遇と討伐なんて凄い事だぞ、そして配信していたから貴重な情報もバッチリ残ってる」

「それってただ運が良かっただけじゃ」

「運ってのは探索者にとってかなり重要だ」

「ゴスロリ服着てる。可愛い」

「人形みたい」

「動画見た事あるけどあの服着てなかったよな? イメチェン?」

「あれもダンジョン製の装備だと思うよ」

「だとするなら魔法関連かな。あの翼、魔法だし」


 ザワザワしている


 ……目立つのも無理ないが……


 狛の後ろに隠れる

 目立つのは好きじゃない

 男の時はここまで視線が集まった事は無い


「どうした?」

「目立つのは苦手なんだよ」


 この姿になってから視線は集まっていたがこのレベルでは無かった


「そうか、しかし、配信している以上はこのくらい仕方ないと思うぞ」

「想定外過ぎる」

「それはそうだな。俺もここまでってのは想定してなかったな」

「受付に行くんだよな?」

「あぁ」

「座って休むか?」

「いや、大丈夫だ。痛みが麻痺してきてるから」


 2人で受付に行く

 探索者達に見られながら向かう


 ……すげぇ見られてる


「要件はなんでしょうか?」

「イレギュラーを発見したから情報提供」

「配信されていた情報ですね。本人確認をお願いします」

「本人確認?」

「あぁ配信のチャンネルじゃね。写ってるのが本人かどうか」

「成程な」


 狛がドローンを弄り戦いの時に撮っていた録画データを見せる


「確認します」

「配信の場合、そういう仕組みなのか」


 配信されているので既に情報を得られている

 そうなると先に情報提供を行って情報料を得ようとする人間が現れる

 その為、ドローンなどの録画データを確認して配信している人物に情報料を与える仕組みがある


 ……配信してるなら先に情報渡るもんな


「確認が終わりました。これが情報料です」

「多いな」

「想定より多いな」

「それは私が説明しよう」

「渋い」


 渋い声の男性が現れる

 老け顔で渋い声だが30代前半

 楸秋人ひさぎあきひと

 俺は見覚えがあった、正確には面識がある人物

 オモイカネと言う組織を束ねる人物で探索者よりもダンジョンに詳しいと言われている程の人


「イレギュラーだから出張ってきたか」

「今回発見されたイレギュラーは10階層の階層主リザーリオレム、最も探索者の戦闘数が多い階層主、それを考えればこの情報に対する金はこのくらいが妥当だろう」

「あぁ、1番弱いから1番戦闘多いのか」


 レベル10以上の探索者は結構な数が居る

 それ故にリザーリオレムと戦闘する探索者は多い

 それなりのレベルになれば倒しやすい階層主

 討伐時に出る魔導具も性能はピンキリ、中には破格の性能の装備もある

 毎週討伐を狙う人は多い


「他の階層主でも起きるかもしれないしな。他の階層主についてはオモイカネは何か考えてるのか?」

「他の階層主については高レベル探索者に調査を頼んでいる。既に一部探索者には伝えてあり中には動いている者も居る」

「行動が早いな」

「ダンジョンは未知の世界、素早い初動と正確な情報が何よりも重要だ。そしてすぐに情報を他の探索者に伝えねばならない」

「成程、確かにこんなイレギュラーが他で起きた時、その場に居合わせた人がそれに対応出来るとは限らない」

「想定外の出来事への対応能力はどうしても体験しないと身に付かないからな」

「そうだ。持つ知識、言葉を並べるだけなら簡単だが必要な時に必要な動きが出来るのは想定外を知る人間で無ければ難しい」

「あぁ、確かに俺も悠永の判断に従うしか出来なかったしな」

「あの場ではあの行動が正解だ。寧ろすぐに撤退したから自由に動けた」

「それなら良いが」


 もし扉が閉まった後、狛が居たら積極的に攻撃に出る事は難しかった

 狛が足手纏いになっていた可能性が高い、逆に負傷している俺が足手纏いになっていた可能性もあるが


「私としては別の呪いのイレギュラーについても知りたいがな」

「……何故知ってる?」


 本人どころかオモイカネのメンバーにも呪いは伝えた覚えが無い


 ……詠見や皇さんから聞いたのか?


「少し場所を変えよう。こちらへ」


 受付の奥の部屋に案内される

 部屋の中では人々が書類仕事をしている

 ほぼ全てがダンジョンに関する物

 イレギュラーが起きたという事もあってかかなり忙しそうにしている


「オモイカネのホームページにイレギュラー発生とその内容載せました」

「SNSでも定期的に注意喚起しろ! 受付でも探索者に伝えろ! 被害を出させるな!」

「張り紙用の紙をコピーした、施設内に貼りまくれ!」

「イエッサー!」

「東ルート行くから西ルート頼む」


 イレギュラーの対応に追われている

 オモイカネは得た情報を探索者に素早く伝えたり危険を伝えて被害を抑える役目もある

 故にイレギュラーが一度起きれば忙しく走り回る


「階層主に挑む際には普段以上の準備をと伝えるんだ」

「急げー!」

「報告によると階層主に挑む探索者は居ないんだな?」

「受付に伝えている人の中には居ませんが……」

「報告は義務では無いですからね」

「義務化した方がいいんじゃねぇか?」

「探索者の数が多すぎて対応出来ませんよ」

「それもそうか」


 ……忙しそうだなぁ


 彼らを横目に更に奥の部屋に入る

 そして机を挟んで置いてあるソファーに座る

 楸さんは対面のソファーに座る


「私の話はあくまで予想でしかないが反応からして本当にイレギュラーが起きたという認識で良いかな?」

「少なくともあの1度しか遭遇していないからあれはイレギュラーと考えるべきだな」

「そうか、では説明しよう。まず1人の少女が登録された探索者の身分証明書を持ってきていた」


 俺が呪いをかけられて最初に行った行動


「親族を探すならおかしい話では無いが少女は身分証明書に書かれた人物、本人だと言っていた。そしてステータスを見せると言う行為を行った後に去った」

「そんな事してたのか」

「まだ見えない呪いとは限らなかったからな。受付に居た男性で試した」

「彼はかなり不思議がっていて同僚に話していたのを偶然聞いたんだ」


 不思議体験をした男性が話題として使っていた


「確かに同僚に話したくなるような話題だな」

「そ、そうか?」

「少女の言葉が真実と考えるなら少女は呪いをかけられたと考えてもおかしくはあるまい。そして身分証明書に書かれた人物はその日を境に消息を絶っている」

「成程、そのくらい情報あればあんたならわかるか。追加情報だ。遭遇したのは43階層で人型に近い魔物」


 受付の男性はオモイカネのメンバー、その男性から話を聞いて予想を立てたようだ

 楸さんの言う通り登録されている伊崎悠永はその日に消息を絶っている


「43階層で人型に近いか。良い情報だ。感謝する、ところで君は彼女……いや彼の関係者かい?」

「俺は学生時代からの知り合いでして身分証明が出来なくなった悠永が俺の部屋に転がり込んできたんですよ」

「ほう、君に昔からの友達が居たのか」

「居るわ、狛は俺が探索者に誘った一般人」

「ほう、君達の動画は見ているが初心者であの動きが出来るか。未来有望な探索者だ。レベル10になっているなら魔法は持ってるね。どんな魔法か聞いても良いか?」


 楸さんは魔法に関しても興味津々

 探索者に良く魔法の名前や効果を聞いている


戦乙女いくさおとめの祝福って魔法で身体強化ですね。短期間の高倍率と長期間の低倍率強化」

「それは強い魔法の可能性が高いな。身体強化系は多いが名前からしても恐らく強い」

「名前? そうなんですか?」

「あぁ、魔法の傾向として強い魔法は所謂神話、伝承などの名前が使われる事が多い」

「俺のは戦乙女だからそっち系の名前か」


 ……確かに強そう。俺のは祈りと怒りの翼……神話とか伝承系じゃないな。条件から付いた安直な名前


 神話や伝承などが関係ない

 名前で何となく条件が分かるだけの名前


「悠永君、君の翼も魔法のようだけど」

「あれは昔から持ってた魔法、名前は祈りと怒りの翼」

「祈りと怒り? それが条件か」

「流石ダンジョンオタク、祈りは信仰の強さ、怒りは怒りの強さによって枚数が増える」

「黒い方は怒りか。祈りは出せないのか?」

「出せない、信仰って言われてもな。俺は神とか信じては無いんだよなぁ宗教にも興味が無い」


 無神教と言うより神が居る居ないにすら興味が無い

 居ても居なくてもどうでも良い


「魔法は本人の素質が影響する。怒りは自分の怒りが影響するのなら祈りは自身ではなく他人の信仰が影響すると言った可能性もある」

「どういう事だ?」


 魔法に本人の素質が影響されていると言う話は分かる、現在主力の説だ

 それは分かっても他人の信仰と言う発言がよく分からない


「君は目立つのを避けるが君の力を知っている者の中に君を信奉する者が居る」

「そんな奴が?」

「あぁ、居る。今は配信をしているようだからそう遠くないうちに使えるようになると私は思う」

「うーん、よく分からないがそうなれば助かるな」

「あぁ、何となく分かるわ」


 ……狛は分かるのか!?


 狛の反応に驚く

 この場で分かっていないのは俺だけ

 信奉する者が居るどころかされる理由も俺には分からない


「悠永くん、君はどうやらイレギュラーに好かれているようだ」

「嬉しくねぇな」

「新しいイレギュラーに遭遇したら報告を頼むよ。金は弾む」

「遭遇したらな」


 話を終えて部屋を出てそのままダンジョンの施設を出る


「コンビニまで送るか?」

「頼むわ。腕が痛てぇ」

「病院行くか?」

「保険使えねぇと思う。金はあるとはいえ自腹はキツイ」

「あぁ……」


 会話中も腕がずっと痛かった

 狛の車に乗りコンビニまで行ってコンビニで降りて別れる

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