選択

 思考する


 ……俺が伊崎悠永だって言えば……いやそれを言ったとしても信じるか分からないな。八重の剣と速刀刺突で気付いてる、だから信じる可能性はある。いやだが信じない場合どうなるか分からねぇ、てかそもそもこいつは鳴で良いのか? 使ってる武器は刀じゃなくて剣だし、だが他にも雷魔法を使う奴は知ってるが近接主体は知らねぇ、他の人間の可能性もある……鳴前提でも信じるならセーフ、信じないならアウトって考えるべきか。まぁそれを言ったら他の人間でも鳴でも動機が分からないんだが……別の選択肢は教わったって線か、それなら技を教わっていても問題は無い。そしてダンジョンに入ったのが俺が連絡を返さなくなった時期と被る。多少嘘を交えれば……


「まだ?」


 少し刃が迫る


 ……時間ねぇ、本人だと言うかそれとも別人だと言い切るか、他の案か? ……いやどちらにしろ危険が伴うなら


「逆に聞くが八重の剣について何故知ってる。あれはごく一部の人間しか知らない。その上なぜあの動きを八重の剣と判断した?」


 八連撃放っているなら兎も角一撃目で弾かれている

 そうだおかしいんだ、初撃のみで何故分かった

 考えられる理由は予め俺が八重の剣を使う事を知っていたかその予想をしていた


「…………」

「速刀刺突の方もだ。動きを知っている人間は居るだろう。しかし、名前を知る者は少ない。まぁ雷魔法を使う近接系の探索者は知る限り1人だが……雷一閃もあいつの技だ」

「質問に質問で返すのは……」

「あ? 何故てめぇの質問に答えなきゃならねぇ。思い上がんな」


 首元に向けられた刃を握る

 握る手から血が流れる


 ……こりゃ死ぬな


 考えうる中で最悪な選択

 かと言って最善の選択は思いつかなかった


「殺せるなら殺してみろ。その気で向けてんだろ」


 片手で短剣を持つ、もし本当に殺す気なら一撃を打ち込む

 不意打ちで叩き込めばダメージはある筈

 致命傷には届かないだろうが


 ローブの人物は狼狽えてる

 下手に剣を抜けば俺の指が切れるから抜けない

 思っていた行動とは違う行動を取られ焦る

 この先どう動けばいいか分からない


 相手から妙な焦りを感じる


 ……なんだ?


 表情は読み取れないが間違いなく動揺している


「どうしたぁ?」

「それは……ぇあ」

「あぁ?」

「そこまで!」


 後ろから聞き覚えのある声がする

 なんなら最近聞いた声だ

 剣を離す

 今更になって痛みを理解する


 ……痛え、結構深そうだなこれ本で治るか?


「無茶をするものねぇ」

「…………」


 ジーと詠見を見てため息をつく

 狛が駆け寄ってくる


「大丈夫か? って大量に血が出てるじゃん!」

「聖女の願い」


 詠見が魔法を発動させる

 すると一瞬のうちに手の傷が癒える


「流石」

「悠永、恐らく2人は正体に気づいてる」

「あぁなるほど……そんじゃとりあえずそこに正座しろこの馬鹿ども」


 俺は立ち上がって言う

 ローブの人物の方は素早く剣を仕舞いこれまた素早くしっかりと正座する


 ……手馴れてるな


 手馴れたその動きに関心をする

 ローブの人物がローブを脱ぐと特徴的な黄色い髪に雷模様の目が現れる


「ちょっと脅す程度で済ませるつもりだったんです! 傷付けるつもりは無かったんです! ごめんなさい!」


 すぐさま鳴は綺麗に土下座をする


「剣掴むのは俺がやった事だから……お前も正座しろよ詠見」

「断るわぁ。寧ろ隠す方が悪い」


 扇で口元を隠して言う、言葉通り詠見に反省の色は見えない

 まぁ俺の行動が起こした事だからそこまで強く言う権利は無いのだろうが

 流石に関係の無い狛を巻き込んだ分は説教せねば気が済まない


「やり方考えろ。こっちにも色々事情あったんだよ」

「ほ、本当に悠永先輩ですか?」


 恐る恐る聞いてくる

 鳴の方は確信していなかったようだ

 だからこその質問だったのだろう


「あぁ、そうだよ」


 もう隠す事は出来ない

 俺は頷く


「話すと長く……はならないな。まぁ呪いを受けてこの姿になった上ステータス半減やレベルリセットされた」

「それはとんでもない呪いですね」

「解呪を考えなかった? いや、見えない呪いね」

「あぁ、そうだ。偶然会った皇さんに聞いてみたが無理そうだったんでな」

「れ、連絡を突然返さなくなったのは何故ですか!」

「その件は本当に済まない。この状況を知られたくなかった」


 連絡を取ればいずれバレる、それを恐れた

 知られたくはなかった


「にしてもよく分かったな」

「詠見先輩が怪しい人物が居ると」

「仮面にその服、そして私の名前、会った時点で色々と」

「名前……あぁそうだ今気づいた、ダンジョン前で勧誘してきたのお前ん所の奴か」


 詠見は親しい人間以外には名前を隠している

 月詠のクランリーダーも詠見では無い、正確には別の名前で登録されている

 優一は勧誘の時クランリーダーでも登録されている名前でもなく詠見様と呼んでいた


 ……気づきゃ良かった。あの……誰だっけ……が詠見って名前出した時点で


 親しい人間の1人なのだろう

 そう考えるとレベル20も嘘の可能性が高い


「優一の事やな。そうそう、彼はうちの副リーダー」

「わざわざ副リーダー使って確認か」


 ……てなるとあれは演技か? 普通にうめぇな気付かなかったわ


 怪しい勧誘をわざとしていたのなら中々の演技力、俺自身ただの怪しいチャラ男としか思わなかった

 素人相手とは言え違和感を感じさせないのは中々凄い


「それで月詠のリーダーがわらわだと知っていた。後は前日の殺人鬼の件」

「殺人鬼の件は鳴からか」

「あの時、悠永先輩が刀使いと言った事で確信に至ったらしいですよ。あんな芸当が出来る刀使いは数が少ないと、爪が甘いですね先輩も」

「全くその通りだな。咄嗟の嘘だったからな」

「それにわらわが送ったメール見たから行動したんやろ?」

「ステルス魔法持ちのレベル20探索者なんて被害出るのが分かりきっていたからな。最も鳴が動いてるの知ってたら動かなかったんだが……殺人鬼は流石に仕込みじゃないよな?」


 ここまで来ると殺人鬼も仕込みのように思ってしまう


「流石にそんな真似はしないわぁ。あれは本当に偶然で少し前に別の事件で聞き覚えがあっただけ」

「成程」

「取り敢えず解決で良いのか? てか仮面壊れたな」


 狛が破損した仮面を拾う


「余波で破損したかぁ。これ治らねぇんだよなどうするか」

「申し訳ございません!」


 認識阻害、妨害系の魔導具はこれ以外には持っていない


「もういっそ顔出しすれば?」

「……顔出し……うーん」

「まぁ帰ってから考えれば一先ず、そこのローブでも借りて」


 狛は指を差す


「あっ、はい! 必要なら貸しますどうぞ!」


 すぐにローブを脱いで渡してくる

 受け取る


「この見た目は目立つっぽいからな」

「そりゃ目立ちますよ。The美少女ですし赤目で片目は模様付きですし」

「本人確認に使ってた模様か」

「どういう判断の仕方してんだお前?」

「特徴的ですしね」

「あっそうだ。鳴とか言ったか?」

「はい」

「一発殴らせろ」

「……その覚悟は出来てますどうぞ」


 一瞬驚いたが覚悟を決めた表情で言う


「待て待て」

「ちょっくら殴らんと気が済まん」


 狛は拳を振り上げる

 まじで殴るつもりのようだ


「ドードー、落ち着けー、イラついただろうがちょいまてー」


 必死に止める

 何とか狛は寸前で止まる


「そう言えば主はなぜ配信を?」

「あぁ、情報集めだな……俺に呪いをかけた奴はあの階層で今まで見た事がなかった。上の階層でもそのイレギュラーが出てくる可能性もあるからな。視野を広げるにはちょうどいい」


 配信をし始めてわかったが探索者のリスナーも居る

 彼らが持つ情報が役に立つ可能性がある


「成程、それならクランの方が手っ取り早いのでは?」

「後々何処かのクランに所属する予定ではある」

「ならわらわの」

「お前の所は1桁レベルの探索者は無理だろ」

「特別にOKと」

「簡単に例外を入れるな」

「簡単では無いわぁ……元レベル80の探索者なら基準を満たしてる」

「確かに呪いでレベルが下がっているだけで全力ならレベル10を優に超えてますし」

「月詠以外の所にする予定だ」

「何故? 人海戦術であればわらわのクランが1番得意だけど」

「いずれ階層が進めばパーティを組む事になる。なら下に向かう意志が強いクランの方がいい」


 ダンジョン攻略クランと呼ばれるクランに所属する方が個人的に意見が合いやすい

 月詠の上位は深い階層に潜るが中堅辺りはほぼ同じ階層で留まっている


「なら仕方ないわねぇ」

「鳴はクラン入ってたっけ?」

「入ってません。団体行動余り得意じゃないので」

「そうか」

「あっ、配信するなら定期的に生放送入れた方がいいですよ。リアルタイム配信ってのが一番人気出てます」

「階層主はする予定だが……」

「普段からした方が良いですよ。配信時間を決めておいて事前に宣伝しとくとか!」

「成程、ドローンもあるし良いかもな。次からやってみるか?」

「そうだ、考えるか……」

「あと生配信中は雑談も入れれたら入れた方が良いかもです。淡々と戦いだけだと飽きるって人は多いです」

「雑談かぁ」

「話題考えとくか」

「ではわらわはやる事やったから帰るわぁ」

「私も先、失礼します」


 詠見と鳴はそう言って帰っていく

 俺と狛が残る


「戦えるのか?」

「もう少し休憩すれば動ける。魔力も戻った」

「それじゃ少し倒してから戻るか」

「分かった」


 広場で休憩後魔物を倒しながら戻る

 狛がメインで戦い翼を使って援護をする


 ……負荷がまだ残ってるな。上手く動かん


 ペースを落とし狛に当たらないように援護する

 狛は魔物の胴体に剣を突き刺して頭に短剣を刺して仕留めた後引き抜いて見ずに後ろに炎を飛ばす

 背後にいた魔物が燃える


 5階層からは魔物と出来る限り接敵しないように気をつけながら地上へ戻る

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