第13話 ラスボスに踏まれる(3)
『貴様には、色々と云うべきことがあるな』
ヒメカミに、下僕と呼ばれた。
使徒と、あえて言葉にしてみたけれど、否定されることもなかった。
俺の立場に確証を得られたことで、スッと一段階、気持ちが落ち着く。
偽神という唯一無二の存在であるヒメカミ。
その使徒もまた、彼女に選ばれた一人だけに与えられる称号だ。右腕、相棒、パートナー、共犯者……などなど、関係性を云い換える言葉はいくつか思い付くものの、絶対的な上下関係がある。
上司と部下。
あるいは、主人と奴隷。
俺はそもそも、忠誠を誓ったわけでもなければ、実力が認められたわけでもない。『わけがわからない奴』という興味や好奇心をかき立てて、その一点突破で偽神の使徒という地位をもぎ取った。
異世界転生者。
インパクトだけの安っぽいオモチャみたいなものである。
実際に価値や将来性があるかと問われれば、まあ、怪しいところだ。少なくとも、俺は、自分自身を堂々と胸を張れるような立派な人間だとは思っていない。
現時点で、俺たちを繋ぐものは、無に等しい。
信頼関係も何も、あったものではない。
もしも、使徒であることを自負するならば、ベッドの上でぼんやりしている場合ではないだろう。ヒメカミが顕現した時点で土下座でもした方が良い。敬愛か畏怖か、あるいは信仰心? 何だって良いけれど、使徒らしい態度を示すべきだ。
だが。
俺の選択は【いいえ】である。
ヒメカミの味方になるのは、別に良い。
ヒメカミの部下になるのは、良くない。
気に入られようとする行動を、俺は選ばない。ギリギリを攻めて、チリチリ肌を焼かれるような関係で構わなかった。
まるで、ブラック職場みたいなもの。ああ、問題ないさ。徹底的にギスギスした人間関係だろうとも、幸か不幸か、サラリーマンとして経験済みだから耐えられる。
最低の悪役貴族が、最悪のラスボスに虚勢を張り続けるなんて、まったくバカバカしい。でも、性格の終わっている上司ならば、そんな風にイジメ甲斐のある部下の方が好きだろうさ。畜生め。
『色々と云うべきことはあるが、その前に一度、死ぬか?』
脈絡なく、ヒメカミ。
話をする前に、コーヒーでも淹れようか?
それぐらいのテンションで、軽やかに殺意を示される。
……。
……え?
……いや、なんで?
ちょっと、意味がわからない。
だから、返事もできない。
俺は無言のまま、彼女の次の言葉を待つ。
『……』
それ以上の言葉は、特になかった。
ヒメカミの手が伸びてくる。
それは、ユーリシェラの手でもある。髪色や瞳孔、雰囲気はガラリと変わるものの、身体つきが変わるわけではない。8歳の、女の子の手。小さい。細い。やわらかい。爪も、キレイに切りそろえられており、真珠みたいに磨き上げられている。
そんな妹の手に。
首を絞められる。
永遠のような、一瞬が。
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