一層解体 by拳

まず、この松代ダンジョンはスロープで下れる。じゃなかったらこのキャリーケースも置いていかなきゃだ。

ダンジョンっていうのは、基本的に一階層に一群の敵しかいないもんだ。故に、戦う相手によって武器を変えるのが、ソロで戦う人間の常識。んまぁ、そもそもソロはほぼいないけどな。でも孤高ってかっこいいじゃん。んで俺はソロを極めた。

…決してコミュ力がないわけじゃないぞ。決して。

「あー、ゴブリンどもかぁ…」

いきなりなかなかの難易度の連中だ。ざっとみたところ14体…かな?棍棒持ってるのが8、弓が3、魔法が2、あと1体は指揮担当だろう。

「ぐぅぅあああ!」

「きっしょいなぁ…」

さて、キャリーケースを置いて、俺は籠手を取り出す。こういった小さな敵を相手にするときは、機動性が最重要。俺みたいに軽装だと、攻撃を受けないのは絶対だ。数が多い時は、結局拳が一番。

「いっくぞー!」

俺は駆け出す。全力で姿勢を低くして、重心に引っ張られるように足を進める。奴らの視線よりさらに下に……ちっちゃくない。俺はちっちゃくないんだ…なんかむしゃくしゃする!

「とぅっ!」

本当は逃げ場がなくなるだけだから絶対に駄目なのだが、格好良さのためなら仕方がない。俺は全力で腕を振り上げて跳躍し、天井に手をついて方向を確定し、後ろへ一回転しながら、指揮担当らしいゴブリンをアッパーで吹き飛ばす!

「どぅおりゃぁ!」

その反動で足を地面について、跪くような体勢で着地。惰性で上に掲げた両手が、神への祈りを思わせる姿勢だ。目を開けると、指揮役らしいゴブリンは、ダンジョンの壁で首を上へ向けて死んでいた。

よし、取り敢えず1体。

「ゔぁああ!」

近くにいた魔法使いらしいのが手を向けてくる。やつらは詠唱が遅い。人間に比べて発話可能な種類が少ないから、必然的に詠唱は長くなるのだ。二進数と十進数を思い浮かべればわかるだろうか。まぁなんにせよ?俺の拳の方が早い。

「ゔっ」

続けてその横にいたもう1体の魔法使いを倒す。ただ顔を殴るだけで、すぐに吹き飛ぶ雑魚ども。飛び散る鮮血で汚れてしまうが、俺の顔は嬉々とした内情を包み隠さずひけらかしている。

「さぁ…やろうか!」

弓兵のもとへ、一瞬で潜り込み、右腕を前方へ突き出す。懐深く穿った拳は、奴の内臓を潰し、喀血させる。

「かっ!」

「とろい!」

左から、弓兵の残りが矢を放ってくるが、左手の甲ではたき落とす。奴らは体が小さく、弓の張りが弱いため、速度も遅く、射程も短い。故に、奴らの間合いは俺の間合い。続け様に2体の弓兵に右のハイキック、そして左手の裏拳を喰らわし、首の骨を叩き折る。

「ふんっ、やっとまともに戦えるな」

後方要員など、ただの雑魚に過ぎん。俺は軽く滴る奴らの青い血を舐めて、その不味さにぺっと唾と共に吐き出しつつも、笑みを絶やさずに戰に身を投じる!

「おらぁあああああ!」

「ゔぁぁああああ」

1匹目。振り下ろした棍棒を右手で左へ受け流し、右足を軸に左の踵を振り上げてハイキック、頭部に当てて殺す。

2匹目。その横から走り来たのを1匹目が落とした棍棒を足元へ転がしてやる。それだけで奴はバランスを崩し攻撃は空振り。左手で裏拳を喰らわせれば生き絶えた。

3体目と4体目、前方左右から同時攻撃してきたので、一度バックステップして躱した後、振りかぶりなおした瞬間、鳩尾へ両手で一気に昏倒させる。

5体目から7体目は、まず5体目が横へ振りかぶった棍棒をこちらへ振ったのを合図に、その棍棒へ右脚を蹴り上げ、吹き飛ばす。6体目が攻撃してくるので、左に回転しながら左手で5体目を持ち、肉壁にして殺害。そのまま蹴り上げたままの右脚を引いてから肉壁を捨てて回転の勢いのままに蹴りを骨盤にくらわす。そしてその後ろから来た7体目を6体目の死体についた右脚を軸に左脚も上げ、踵で脇腹を蹴り込む。空中T字開脚の姿勢から着地し、残りは1匹。

「ふぅ…ほな、さいなら」

最後の1匹にも手は抜かず、振りかぶった棍棒が振り下ろされるより速く、踏み込んで左大腿部へ右ストレート。大腿動脈が顕になり、大量の青い血を撒き散らして断末魔を叫びながら、8体目も死ぬ。

「あー、いい準備運動だな」

右手を伸ばしてグーっと背伸び。その後、左ポケットからハンカチを出して、顔の血を拭く。そういえば、銅らしいね、こいつらの血液の核。俺らは鉄だから赤いんだと。

「さーて、次々〜」

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そのダンジョン、解体します HerrHirsch @HerrHirsch

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