第048話 準備期間

 神社名と神紋が決まった後、辻堂が主導してお祭りの本格的な準備が始まった。


「光聖様はいつも通り過ごしていて大丈夫ですよ」

「え? 俺も手伝うぞ?」

「いえいえ、あまりやっていただくことがないんですよ」


 とはいえ、これからすることはそれほど残っていないらしい。


 元々お祭りありきで光聖のお披露目をするつもりだったらしく、お守り作りを始めた頃から既にある程度お祭りに必要な準備は進めていたそうだ。


 助六爺ちゃんたちや守の伝手の若い人たちとの顔合わせや根回しも、この一週間の間に済ませている。


 残っているのはお祭りの告知程度で、光聖がやることはないとのこと。


「ちなみに当日はどんなことをするつもりなんだ?」


 そういえば、まだ具体的な祭りの内容を知らなかった。


「そうですね。午前中から夕方くらいまでは、休憩を挟みながら神輿を担いで大通りを練り歩きます。光聖様にはその神輿に乗って街の浄化をしてもらい、住民に姿をその目に焼き付けてもらう予定です。その日は境内に終日屋台が出店し、舞台を設営して和太鼓の演奏などもやってもらおうと思っています。そして締めとして、光聖様の降臨を祝福する花火の打ち上げをやるつもりです」

「え!? 俺が神輿に載せられるのか!?」

「はい。お披露目ですから」


 驚く光聖に、辻堂がにっこりと笑った。


 確かにお披露目とは言っていたけど、まさか街中を神輿で担がれることになるとは思わなかった。


 以前助六爺ちゃんたちの前でやったように、神社に集まった人たちの前で浄化魔法を使うだけだとばかり。 


「おおーっ、これで光聖も一躍有名人だな。幼馴染として鼻が高い」


 守がまるで保護者みたいな優しい表情で鼻の下を擦っている。


 お前は一体何様なんだ……。


「いやいや、俺なんかが神輿に乗ってもわけ分からないだろ?」


 守に呆れつつも辻堂と話を続ける。


「そのための浄化ですよ。きちんと光聖様という現人神が降臨する祭りだということは、あらゆる手段でしっかり宣伝しておきますので、沢山の人が集まること間違いなしです」


 魔王討伐後、確かに街を豪華な馬車の荷台に乗ってパレードしたことはある。しかし、四人だった上、魔族に侵攻を受けていた異世界の国と日本とでは人口が違い過ぎる。


 この街に住んでいる人間は数万人以上。国をも動かす陰陽師協会が本気出したら、とんでもないことになりそうな予感しかしない。


 でもまぁ、これも祖父に託された神社のため。甘んじて受け入れるしかないか。


「分かった。覚悟を決めておこう」


 せっかくだからド派手に浄化して盛り上げよう。そうすれば箔もつくだろう。


「ありがとうございます。あ、一つだけやっていただくことを忘れていました」

「なんだ?」

「衣装合わせです」

「衣装合わせか」


 そこまでは全然気が回っていなかった。


 神様の服装となると、多分和装だろう。もしかしたら、祖父が着ていたような神職の服を着ることができるかもしれない。


 そう思うとワクワクしてきた。


「はい。せっかくの晴れ舞台。当日は光聖様にピッタリな現人神様らしい服装をご用意したいと思います。面倒かと思いますが、お付き合いいただければ幸いです。すぐに業者を呼びますので少々お待ちください」

「分かった」

「私たちは別の作業を進めておきますね」

「よろしく」


 光聖以外は辻堂から改めて仕事を分担して作業を進め始める。


 手持ち無沙汰になったので、タマを遊ぶこと三十分。


 辻堂が電話で呼んだ服飾関係者がやってきた。


「あら、良い体ねぇ。服、作り甲斐があるわぁ」

「これは張り切って作らないとね」

「でも、これだけいいとどんな服を作るか悩むわぁ」

「ちょっと色々な服を着てもらってもいいかしら?」


 全員が光聖を見るなり、テンションを上げ、体をペタペタと触りだす。


「あ、ああ……」


 光聖はタジタジになりながら、彼女たちが用意した服に袖を通した。


 ――カシャカシャッ


「似合うと思っていたけど、これほどとは思わなかったぁ」


 ――カシャカシャッ


「すんごーい。まるでモデルみたいじゃなーい?」


 ――カシャカシャッ


「魅せるために鍛えられているみたいな見事なボディメイクねぇ」


 ――カシャカシャッ


「こんな逸材がいるとは思わなかったわぁ」


 服飾関係者の女性たちは着替えてきた光聖を見るなり、どこからともなくカメラを取り出して、いろんな角度から写真を撮り始める。


「次は、このポーズでお願い」

「次はこれね」

「私はこういうポーズを」

「あたしは、このポーズを所望するわ」


 その上、各々がポーズの指定までしてきた。


「次のはこの服ね」

「次はこの服」

「その次はこれ」

「その次はこっちね」


 そして、それは服装を変えても続く。


「仕事をしてくれ」

「いえいえ、これが仕事だからね?」


 流石に我慢できなくなって抗議すると、彼女たちは何食わぬ顔をしてそう宣った。


「本当か?」

「本当よ。それじゃあ、次の衣装を着てみてくれるかしら?」

「はぁ……分かったよ」


 そう言われてしまうと何も言えない。


「「「「キャーッ!!」」」」


 光聖はしばらくの間、服飾関係者たちの着せ替え人形になるのだった。


 こうして祭りの準備期間は慌ただしく過ぎて行った。

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