第049話 本番前日
祭りまでの日数が近づいてくるにつれて慌ただしくなってくる。
「どこか気になるところはあるかしら?」
「いや、全く。凄くいい出来だと思う」
光聖は出来上がった衣装を合わせていた。
流石政府すら動かす陰陽師協会。彼らが手配した業者が作り上げた衣装は、しっかりと仕上がっている。手直しも必要なさそうだ。
「そう、ありがと。良く似合っているわぁ」
「ねぇ」
「いいわぁ」
同業者のお姉さまたちがウットリした様子で見ているが、光聖は気にしないことにした。
姿見の鏡には、狩衣に近い衣装に身を包んだ自分の姿が映っている。その服は祖父が祭りで着ていた服によく似ていた。
憧れていた服を着ていることに心が高鳴る。しかし、それと同時に自分のこの姿を祖父に見せることができないことが悲しかった。
もし見たら、なんて言っただろうか。『立派になったな』とでも言ってくれただろうか。なぁ、じいちゃん。
光聖が祖父に思いを馳せているうちに衣装合わせが終わった。
「俺……これに乗るの?」
「はい、そうですよ」
「ちょっと、立派過ぎないか?」
「現人神なんて光聖様を置いて他のどこにもいません。このくらい当然かと」
「そ、そうか……」
その後は本来職人に頼めばもっと時間が掛かったであろう神輿のお披露目。
小さい頃に間近で神輿を見たことはあるし、テレビでも見かけたことはあるが、目の前にある神輿は大きさからして違う。
神輿だけで車道を埋めてしまいそうだ。おそらく道を通れるだけの大きさに調整したのだろう。
それだけでなく、これでもかと豪華な装飾が施されている。そして、オープンカーのように屋根はなく、まるで中国王朝の皇帝でも乗る神輿のようだ。
プロ野球の優勝パレード以上に目立つことこの上ない。異世界で盛大な歓待を受けたことがあるとはいえ、これ程立派な神輿に乗るのは恐れ多い。
しかし、これも祖父と前の神様から現人神を引き受けたのであれば、甘んじて受け入れるべきだろう。
「ふぅ……げっ」
その後、打ち合わせを経て、ようやくその日の予定から解放された光聖は、ソファーに背を預けた。
ぼんやりとテレビを見ていると、苦虫を噛み潰したような顔になる。
その理由は、台風が日本に向かってきているという天気予報が目に入ったからだ。
「キュウッ?」
「いや、なんでもない」
「キュ」
縄張りの見回りを終え、ソファーで寝ていたタマが心配そうに顔を起こすが、安心させるように頭を撫でる。
「ん~でも、こっちには来なさそうだな。良かった」
その後の予報を見る限り、予想進路は外れていたのでホッとため息を吐いた。
多くの人に自分の姿と力を見せつける晴れ舞台。少々恥ずかしいが、無駄にならずに済んで良かった。
「他の準備の方はどうなっているんだ?」
「はい。大方問題ないかと」
「そうか」
帰る前に顔を出した辻堂に確認したが、祭りの準備もきちんと進んでいる。このままいけば、予定通り祭りを開催できそうだ。
しかし、二日前に差し迫った頃、その安堵が崩れ去る。
「うわっ、台風こっちに来るじゃん」
なぜなら、台風が突然進路を変え、直撃コースに変わったからだ。
このままでは大雨となり、祭りは延期、または中止になってしまうだろう。
「こうなったら、てるてる坊主を作ろう」
「キュッ」
光聖が作ったてるてる坊主には、お守り同様に相当な力がある、雨女が雨を降らせる力を使っていても翌日に確実に晴れるほどに。
吊るしておけば、台風も進路を変えてくれるに違いない。
タマと共にいくつかてるてる坊主を作って窓辺に吊るした。
そして翌日。
「おおっ、我ながら凄い効き目だな」
思惑通り、朝のニュースの天気予報で台風にまるで意志でもあるかのようにギリギリのところで進路を変えたことを知る。
これで大丈夫だろう。
「こんにちはー!!」
前日とあって辻堂一家や伽羅、そして守だけでなく、手伝いをする陰陽師協会の関係者、街の青年グループ、助六などの古い知り合いなど、多くの人たちが光玉神社へと集まっていた。
備品の搬入や組み立てをしたり、スケジュールや流れの最終確認や予行演習を行ったりするためだ。
光聖も手伝おうとしたが、予行演習までは出番はないと追い返されてしまったので、呼ばれるまではいつも通り畑仕事をする。
裏に回ると、種を蒔いてからそれなりに時間が経ち、野菜たちがすくすくと育って太陽の光を一身に受けていた。
「植物を育てるなんて小学校以来だけど、収穫するのが楽しみだな」
光聖は水まきをしながら呟く。
何十年ぶりかに植物を育て、毎日育っていく姿に感動を覚える。もう収穫してもよさそうな野菜も多い。祭りが終わったら収穫しようと思う。
まだ種を植えてから一カ月程度。普通よりも生育状況が良い気がする。以前助六の友人であるご老人たちがそんなことを言っていたのを思い出す。
どうやら自分の力が及ぶ範囲では植物の成長も早くなるのは間違いなさそうだ。
ただ、畑仕事を終えたが、まだ呼ばれる様子はない。
人も沢山集まっていることだし、お昼に何か振舞おうと考えた光聖。やはり、人が多い時は汁物が作りやすいだろう。
炊き出し用の食材でも買いに行こうと外に出ると、境内の飾りつけが始まっていた。
見る限り、順調そうだ。
「何? 道が通れないだと!?」
そう思っていたのだが、辻堂が電話を片手に大声で叫ぶ声が境内に響き渡った。
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