第050話 力を合わせて
「どうしたんだ?」
辻堂の様子を見た光聖は、彼が電話を切った後で尋ねる。
「それが――」
どうやら台風が逸れたのは良いが、そのせいで他の土地に大雨が降って土砂崩れが起きて道が封鎖されたらしい。運の悪いことに他の道も陥没して通れなくなってしまったようだ。
このままでは本来今日届いて組み立てなどを行うべき備品や食材などが明日までに間に合わないとのこと。
そうなれば、当然明日の祭りが開催できない。
「まさかそんなことが……」
「困りましたね」
まさか台風が逸れたにもかかわらず、そんな落とし穴があるとは思わなかった。
それに、逸らすのであれば、もっと早く逸らして日本に上陸する前に進路を変えてしまえばよかったのに。
そうすれば、自分がいる街以外に被害を及ぼすこともなかっただろう。
しかし、後悔したところで遅い。嘆いたところで問題が解決するわけでもない。どうにかして対策を考える必要がある。
「先輩、どうかしたんですか?」
「あなた、どうかしたの?」
「光、何かあったのか?」
「キュッ」
「どうかしたのかの」
辻堂と頭を突き合わせていると、学校がある静音以外のいつものメンバーと助六が集まってきた。
「実は――」
彼らにも辻堂が状況を説明する。
「なんじゃ、そんなことは儂らに任せておけ」
「そうだぜ、助六爺の言う通りだ」
しかし、助六と守はそんなことと笑い飛ばした。
「どういうことだ?」
「元々祭りはやっていたんじゃ。屋台などは新しいモノじゃなければ集められるじゃろ。それに、櫓なども他の街に行けば、借りることもできるはずじゃ」
「そうだぜ、食材なんて人海戦術で買いに行けばいいんだよ。そんなの俺たちに任せればあっという間だ」
こういう時に頼りになるのは、やっぱり縁だと実感した。
「何が足りないんだ?」
「これを」
守に尋ねられた辻堂が今日の納品される物品リストを渡す。
「この辺りはすぐに買えそうだな。これは俺たちに任せてくれ」
「この辺りの物品は儂が声を掛けよう」
「助かります」
リストに印をつけ、品物の手配を引き受ける守と助六。
二人はすぐさま他の人たちに話をして、各々が慌ただしく動き始める。
「確か、祭りで使いそうな道具なら実家にあった気がするので取ってきますね」
「朱莉、頼んだ。私は三人が手に入れられなさそうな物品を借りることができないか、協会支部の倉庫や知り合いを当たりますね」
「分かった」
「伽羅、行くぞ」
「はい」
朱莉と辻堂、伽羅も連れだって神社を離れていった。
「どうしたもんか……」
「キュッ?」
「いや、俺だけ何もしないのもなって」
そして、俺とタマがポツンと残される。しかし、俺たちにできそうなことはない。
いや……新鮮な食材なら当てがある。
「タマ、河童を呼んできてくれ」
「キュッ」
タマがひょいっと裏山に出ていき、すぐに河童たちを連れて戻ってきた。
「お呼びですか?」
「あぁ、鮎を急いで獲ってきてくれないか? 明日までに必要なんだ」
「そのようなことですか。私たちには容易いこと。お任せください」
長老河童が恭しく頭を下げる。
「それと、野菜の収穫を手伝ってくれないか?」
「分かりました。一族を半分に分けてお手伝いさせていただきます」
「助かる。よろしく頼むな」
「いえ、このようなことは現人神様に受けた恩に比べれば大したことではございません。いつでもお声がけください」
河童たちに頼んだ後、彼らにも二つの付与魔法を重ね掛けし、裏の庭へと走る。
「うぉおおおおおおっ、きゅうりだ!!」
「きゅうり、うまそぉおおおおおっ!!」
「きゅうり!! きゅうり!!」
「食いてぇええええっ!!」
畑に実ったキュウリを見た瞬間、河童たちのテンションがとんでもなく上がった。
やっぱりきゅうりは好きなんだな。作っておいてよかった。
「こりゃ、やめんか!! みっともない」
「申し訳ありません」
しかし、長老に咎められてはしゃいでいた河童たちが肩を落とす。
畑は広い。早く収穫するためにも彼らのやる気を上げる必要がある。
「明日の祭りと自分で食べる分以外はお前たちにあげるつもりだったんだ。しっかり手伝ってくれ」
『うぉおおおおおおおおおっ!!』
光聖の言葉を聞いた瞬間、河童たちのやる気は天井まで上がった。
手分けして野菜を収穫していく。全員で十人以上いたので、二時間ほどで全ての作物を収穫できた。
そこに鮎を獲りに行った河童たちもやってきて、野菜と鮎が揃う。
「お前たちはこれを食って休んでくれ。今日は助かった」
『うぉおおおおおおおおおっ!!』
河童たちはザルに山盛りになったキュウリを受け取ると、まだ祭りでもないのに、お祭り騒ぎをしながら裏山に帰っていった。
「キュッ」
「おわっ、イノシシかよ。今の狐はイノシシも獲れるのか?」
「キュッ」
そして、姿と見えないと思っていたタマが、大きなイノシシをズリズリと引きずって戻ってきた。
まさかそんなものを獲ってくるとは思わなかったが、今は気にしてる場合じゃない。肉は何かと使えるだろう。
どうやってか分からないが、血抜きもされているようだ。
それらの食材を本殿の裏から表に運んだ。
「おーい、光!!」
食材が運び終わると、守たち青年グループが帰ってきた。
その手には沢山の袋が携えられている。必要な食材を集められたようだ。
「なんとかなったみたいだな」
「あぁ。一つのスーパーで買い占めるのは悪いからな。色んなスーパーを回って影響が出過ぎないように買ってきたわ」
他の客の迷惑にならないように配慮できるとは、なかなか仕事ができる。
「やるじゃん。後で金もらえよ」
「分かってるよ。そっちは?」
「これが成果だ」
「おおっ。これはすげぇな」
積み上げられた農作物と魚を見せると、守と共に青年たちも驚いた。
「ただいま戻りました」
「戻ったぞ」
辻堂たちも助六たちも戻り、全員必要な物を集めることに成功。皆が力を合わせることでどうにか必要な物は全て揃えられた。
こうして祭り中止の危機は去ったのだった。
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