第051話 どう見ても百鬼夜行
開催当日。てるてる坊主の力によって天気は晴れ。絶好の祭り日和だ。
「おおっ、良く似合ってるな」
「そうか?」
「お似合いです」
「あ、ありがとう」
未披露だった狩衣姿を初公開すると、周りから絶賛された。お世辞と分かりつつも照れてしまう。
やはり憧れていた祖父と同じ服を着て褒められるのは、祖父が褒められているようで嬉しいものだ。
「皆も似合ってるぞ」
「へへへ、光玉神社のはっぴ良いよな」
「ありがとうございます」
光聖と辻堂は狩衣姿。静音、朱莉、伽羅は巫女服姿。他の人たちははっぴ姿だ。
渋い中年である辻堂は狩衣が良く似合っている。見た目の良い静音たちの巫女服は艶やかだ。
光玉神社のはっぴは神社名が決まった後に業者に依頼して作ってもらった。タマもタマ専用のはっぴを着ている。可愛い。
「いやぁ、どうにかなってよかったな」
「そうだな」
昨日は借りてきた備品を組み立て、飾りつけを行い、境内での設営を最後まで進めることができた。
最初から最後まで通して予行演習を行い、問題らしい問題はなかった。
買ってきた食材は社務所にあった大きな業務用冷蔵庫と本殿の冷蔵庫に詰め込んでいる。
後は本番だけだ。
とはいえ、光聖は神輿に載せられて浄化魔法を使うだけの簡単なお仕事。さほど緊張することもない。
「そろそろ始めますが、準備はいいですか?」
「ああ、問題ない」
「では、こちらで少々お待ちください」
辻堂が先に出ていき、光聖は拝殿の中で待機。
「御祭神、御出座!!」
指示に従って外に出ると、関係者が跪いて頭を下げていた。
光聖は設置された階段を上り、神輿の上に腰を下ろし、後ろをついてきたタマも隣に座る。
「皆さま、ただ今より現人神様降臨祭式典を開始いたします。まこちらにおわす方が、この度現世にご降臨されました現人神、幽現神社改め、光玉神社のご祭神、清神光聖様でございます。今は亡き、清神幸四郎宮司のお孫様でもございます。二十年の時を経て神世よりご帰還され、前神から位を譲り受けて現人神となられました。本日は我々、下々の儀式にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。いささか窮屈で退屈かと存じますが、しばらくの間お付き合いの程よろしくお願い申し上げます」
「分かった。皆、かしこまる必要はない。立って楽にしてくれ」
準備が整うと、辻堂の開催の挨拶から祭りが始まった。
光聖の紹介があり、光聖が跪いている彼らに声を掛ける。神の許しを得て、人間が神の前で立ち上がる、という体裁をとっていた。
光聖は丁寧な言葉遣いは禁止だ。
辻堂が光聖の降臨祭を開催できる感謝を述べ、熱中症などの注意事項を告げた後、助六やいくつかの街の協力者の代表たちの紹介があり、各々挨拶をしていく。
目の前に現人神がいるということで気を遣ってくれたのか、挨拶はごく短かった。
その後、辻堂が祝詞を読み上げる。
捧げる相手は光聖なので、現代の日本語でもいいのだが、それでは見ている人たちに対して恰好がつかないので、古い言葉を使うことに。
言葉は分からないが、現人神として降臨した感謝を回りくどく、長々と語っている内容らしい。
「光聖様が街にお渡りになります。それでは皆様、神輿をお担ぎください」
祝詞が終わり、辻堂の指示で主に陰陽師協会の人員や青年グループたちによって神輿が担がれ、光聖の目線が高くなった。
「それでは出発いたします」
「いくぞぉおおおおおおおっ!!」
『うぉおおおおおおおおおっ!!』
守の掛け声に集まっていた人たちが呼応し、「ワッショイ、ワッショイ」という掛け声とともに前に進み始める。
「ここ結構怖いんだよな……ストレングス」
「キュッ」
神社の前は傾斜のある階段。席に体を固定するベルトがついてるので、体を固定して落ちないようにタマを抱いた。
それだけでは怖いので、魔法で担いでいる人たちの身体能力を向上させ、さらに安定させるのも忘れない。
掛け声とともに階段を下りていく。
まるでゆっくりと落ちていくジェットコースターに乗っている気分だ。
田園地帯に降りると、祭りを見に来た人たちがちらほらと見えてくる。
「え……」
ただ、それはほんの一端に過ぎなかったと知る。街の近くまでやってくると、信じられない光景が広がっていた。
「あれが神様?」
「普通の人っぽいね」
「だよね」
それは、歩道を埋め尽くす人の壁。警備員や警察らしき人たちが車道に出てこないように一定間隔に並んで、見物客を押し留めている。
ほどほどの大きさの街だというのに、明らかに住んでいる人たちより多く、近隣の町や村からも人が訪れているのが窺えた。
本当かどうか分からない現人神の降臨によくこれだけの人が集まったものだ。
「そろそろか。ピュリフィケイション」
スケジュールに従い、浄化魔法を使う。
辺りが眩い光に包まれ、皆の目を眩ませた。
『うぉおおおおおおおおおおっ!!』
光が消えると、怒号ともとれるような歓声が上がった。百メートル程を境に魔法が掛かった部分とそうでない部分の境がハッキリと分かるほどに汚れが消えていた。
ただ、光るだけなら、魔法じゃなくて色々やりようはある。しかし、光に包まれた場所の汚れまで一瞬できれいさっぱり消えるとなれば、仕掛けでどうにかするのは難しい。
「あれ、マジもんだ!!」
「やべぇ、俺も魔法使えねぇかな!!」
「一家に一台欲しい!!」
半信半疑だった見物客たちも、道を進みながら何度も繰り返して魔法を発動させ、浄化されていく街並みを見て、それが本物だと知った。
ここまでは順調だったが、思いがけない事件が起こる。
「おい、あれはなんだ!?」
「妖怪だ!! すっげぇ!!」
「でっかいカエルだ!!」
「本物にしか見えねぇ。金が掛かってるなぁ!!」
沢山の妖怪が姿を現したのだ。
最初は何が起こったのか分からなかったが、見物客たちが見ている方を振り返ると、光聖の神輿の後ろに様々な妖怪が集まって列をなしていた。
しかも、力を使って一般人にも見えるようにしているらしい。
「現人神様、びっくりしたみてぇでやすなぁ。あっしたちも混ぜておくんなせぇ!!」
列の先頭に居た大蝦蟇が光聖に近づいてきて、してやったりと笑う。
大蝦蟇にも話は通してあったが、まさかこんなサプライズを用意しているとは思わなかった。
「まぁ、いいか」
見物客たちもこれがあらかじめ用意されていたものだと勘違いし、怖がる様子はないので、良しとする。
パニックになっていたらお仕置きものだ。
光聖は妖怪を従え、街をぐるりと一周する。
それは神のお渡りというよりは、どこからどう見ても百鬼夜行そのものだった。
その摩訶不思議な光景に、見物客たちの熱狂は最後まで覚めることはなかった。
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