第052話 りんじん?

 街を巡って神社へと帰ってきた。


 街を去る前に、街全体を覆うように浄化魔法を掛けると、見物客がさらに沸く。その隙をついて妖怪たちは煙のように消え去った。


 拝殿の神輿が置かれた後、辻堂が帰還の挨拶を行い、光聖はお役御免。神輿から降りて拝殿から本殿へと入る。


「ふぅ……やっぱり作務衣が楽だなぁ」

「キュッ」


 夏真っ盛りだったので、全身汗だくだ。タマも器用にはっぴを脱ぎ捨てる。タマと共にシャワーを浴び、作務衣に着替え、ようやく人心地着いた。


「光!! こんなところにいたのか!!」


 ソファーに座ってくつろいでいると、守がズカズカと本殿にやってくる。


「守か、出番は終わったのか?」

「あぁ、これから打ち上げだ。行くぞ」

「疲れたからお前だけ楽しんで来いよ」


 何時間もただ座っているに近い状況は少々気疲れした。正直一人でゆっくりしたいところだ。


「おいおい、主役がいなくてどうすんだよ。いいから来い」


 しかし、守の言う通りだ。皆には沢山協力してもらった。その礼を言うためにも参加するべきか。


「はいはい、分かったよ」


 守に連れられて神輿を担いでいた人たちが集まっている場所へと向かった。


 打ち上げ会場は、紅白の幕で仕切られていて、一般人が間違って入って来ないようになっている。大きなブルーシートが敷かれ、折り畳み式のテーブルがいくつも並んでいた。


 すでに出番を終えた人たちが座って談笑している。


「おっ、光、やっときたようじゃな」

「神様、おっそいぞ!!」

「皆、待ちくたびれてるおるぞ!!」

「すみません、遅くなりまして」


 助六含むご老人たちに囃し立てられ、光聖はペコペコと頭を下げた。


「それじゃあ、主役も来たことじゃし、そろそろ始めようかのう。ほれ、乾杯の音頭をせい」

「俺が?」

「お主が主役なんじゃから当然じゃろ。ほら、酒じゃ。さっさとしろ」


 助六にビールの入ったコップを渡されて仕方なく、皆の前に立つ。


「分かったよ。コホンッ……皆様、ご協力ありがとうございました。おかげさまで滞りなく終えることができました。現人神として何をしたらいいかも分かりませんが、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。それでは、そろそろ雑事は忘れて飲みましょう。乾杯!!」

『カンパーイ!!』


 まだ日も暮れぬうちから光聖たちは酒を浴びるように飲み始めた。


 打ち上げには、光聖が育てたきゅうりで作った一本漬けや、鮎の塩焼きなどが出てきた。これは屋台で売っていた食べ物で、自分が作った物が役に立てたと思うと、なんだか嬉しかった。


「もう飲めねぇ……」


 数時間後、協力者たちは死屍累々という有様。そのまま打ち上げの第一陣はお開きに。


 光聖は相変わらず体質のせいでほとんど酔っていない。その結果、協力者たちの家族と共に光聖も皆の介抱をする羽目になった。


 現人神なのに、威厳はどこへ行ってしまったのやら。


「あんだけ飲めば、そうだろうな。ピュリフィケイション」

「悪いな……」


 せっかくの酔いを完全に覚ませてしまうのも悪いと思い、極力魔力を絞って浄化魔法を掛ける。


 ソファに横になった守は少し気分が楽になったのか、そのまま気持ちよさそうな顔で眠ってしまった。


 特訓した成果が出ている。


「ふぅ……」

「キュウ」


 落ち着いたところで、光聖もソファに腰を下ろしてタマを抱いて物思いにふける。


 異世界から日本に帰ってきてこれまで色々なことがあった。


 祖父が亡くなっていて、神社をもらい受けて現人神になり、辻堂たちや助六、タマと出会い、旧友と再会し、妖怪たちとも誼を結んだ。


 これで少しは祖父も安心してくれるだろうか……。


 ――ピュ~、ドン、ドドン、ドンッ


 いつの間にか時間になっていたらしく、花火の音が聞こえ出した。


 せっかくだから本殿の裏に付けてもらった縁側に出てタマと空を見上げる。


 空にいくつもの大輪の花が咲いた。遅れてやってくる空気の振動が体内に沁み込んで体を震わせる。


「綺麗だな」

「キュッ」


 花火は間近で見ているかのような近さだ。法律的な問題は陰陽師協会がどうにかしたのだろう。


 小さい頃に初めて祖父と見た花火を思い出した。数十年ぶりの光景に、その時の感動が蘇ってくる。


 今日で名実ともに現人神となった。これでようやく一区切りついた気がする。


 まだ新米だが、のんびりゆるゆると神様業をやりながら生きて行こうと思う。


 光聖とタマはそれからしばらくの間、ジッと花火を見つめていた。


「綺麗じゃのう」

「そうですね。どちら様ですか?」


 結界内に入ってきたのは気づいていたが、それはつまり敵意や悪意がないということ。そのため、近づいてくるまで何もしなかった。


 声がした方を見ると、隣に真っ白なウサギが座っている。目が白い毛で覆われ、口元も髭が映えているように見える。


 このウサギが先ほどの声の主らしい。今のウサギは喋るようになったのだろうか。


「ワシ? ワシは隣の土地神じゃよ。仲良うしようの。ふぉっふぉっふぉっ」


 少し困惑していると、ウサギは笑いながら信じられないことを口走る。


 光聖は混乱した。




◼️◼️◼️


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!!

これにて第一章の終了となります。

二章以降は制作中です。

引き続きよろしくお願いいたします。

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